大江排水路調査


概要
 本研究室(研究グループ)は平成15年度より,大江排水路の生態系,水理,水質調査を継続しています.大江排水路は,木曽川から分岐した宮田用水が濃尾平野を潤した後の農業排水を集め,一宮市や稲沢市などを流下し,最終的に蟹江川に合流する農業用排水路です.集水域の都市化にともない洪水の流出ピークが大きくなり,洪水被害の懸念が出てきたことにより,平成11年度から水路床のコンクリート化が進められています.洪水の被害を防ぐためには,水路の断面を大きくするか,水路の摩擦を小さくすることにより,洪水をスムーズに流下させるかをしなくてはなりませんが,前者が物理的に困難な大江排水路では,後者しか選択肢はありませんでした.水路のコンクリート化は水路内の生態系に対して多大な影響を持つことが知られていますが,大江排水路では,改修の影響を極力低減させるために,魚溜工や魚巣ブロックの設置など,生態系に配慮した対応がなされています.本研究室では,これらの生態系配慮の設備等が有効に機能しているのか,水路の生態系や水環境が改修によりどのように変化していくのかを調査しております.(平成26年度をもって定期調査は終了いたしました.今後は不定期に調査をしたいと思っております.)

主張
 色々なところで調査結果を紹介する機会があります.ところが,(私の能力不足なのでしょうが)こちらの意図が十分に伝わらないことがままあるようなので,ここで少し意見を整理しておきたいと思います.

1.水路のコンクリート化の是非は論点ではない.
 大江排水路の場合,洪水災害を防ぐためにコンクリート化はやむを得ない選択であると考えています.それ以外に,たとえば,遊水地を設けるなどの手段があるならば,すなわち,コンクリート化をしなくて済むのならば,コンクリート水路が必ずしも良いとは考えていません.コンクリート化を推奨しているわけでもありません.コンクリート化されることが前提の上で,生態系がいかに変わっていくのか,生態系配慮工法が効果を出すことができるのか,といったことを明らかにしたいと考えています.
2.コンクリート水路で生態系が豊かになると主張しているのではない.
 私たちの調査では予想以上に,魚の数と種類が確認されています.ただし,それはおそらく魚溜工や魚巣ブロックといった生態系配慮工法の効果によるもので,それら生態系配慮工法を導入していないコンクリート水路ならば,魚は激減するのではないかと思います.私たちが調査結果をもとにいいたいのは,生態系配慮工法は有効であり,水路をコンクリート化せざるをえないような状況であれば,ぜひともそれらの工法を導入すべきであるということであって,コンクリート水路で魚が増えると主張しているわけではありません.
3.魚溜まりを中心に調査をすることの是非
 私たちの調査は魚溜工と,その上下流の接続する水路部(魚溜工ではなく,いわゆるコンクリート水路となっている部分)で行っています.コンクリート化される前は水路全体に散らばって分布していた魚がコンクリート化された水路で魚は魚溜工に集中します.それは私たちの調査結果でも表れています.そのため,調査で魚を採捕しやすくなるということも事実ですし,調査結果としても魚溜工での魚の数は明確に大きくなります.ただし,その数をもってして,魚の数が増えているとは主張していません.単純な計算ではありますが,魚溜工区間と水路区間を区間長に応じて加算するという私たちの試算では,魚の数はほぼ維持されているか,若干減っているかという程度であるとの結果になっています.また,魚溜工のないコンクリート水路での調査結果をもとにしないとフェアでないという意見も聞きますが,この大江排水路では現実として魚溜工が設置されており,水路のどの部分を取り出しても,魚溜工の影響を受けており,その影響を排除することはできません.実験水路で,自由に魚溜工を外したり,つけたりするのであれば,それは非常にフェアな実験であることは認めますが,ここでは不可能です.
4.魚種数が増えればよいといっているわけではない.
 魚の個体数については,調査する人のスキルにも,調査をする時期や場所にも影響され,実際にどの程度生息しているのかを推定することも困難です.採捕した数は総個体数のほんの一部であろうことは確かなことですから,調査結果を基に,なんとなく,増えたり,減ったりしているなどと判断するしかないのではないかと感じています.一方で,種数については少し違った見方ができます.もちろん,採捕した魚がすべてではなく,現実にはもっと多くの種類がいる可能性は大いにありますが,採捕して確認した種数は最低限存在しており,実際にいる魚の種数と大きくかけ離れているわけではないと予想しています.前置きはさておき,調査結果として,改修後に種数は増加しているというのは事実です.ただし,改修したとしても,生態系配慮工法の導入は,(現実的には困難であるとしても)本来大江排水路にいるべき魚種が生息できることを目指しているのであり,いるはずのない魚を増やしたいわけではありません.したがって,(種数が著しく減少するよりはずっとマシですが)種数が増えることがよいと主張しているわけではありません.改修により,本来本排水路ではなく,下流河川にいるべき魚が増加したとか,種構成(比)が大きく変化するということは残念なことといってよいかと思います.
5.大江排水路の以前の姿がよいと考えているわけでもない.
 大江排水路がコンクリート水路になって,あらゆる面から残念だと思っているわけでもありません.大江排水路は一宮市などの市街地も流れる排水路であり,農業排水のみではなく,かなりの生活雑排水を流している水路です.そのため,流れが緩やかだった改修前には,有機物が過剰に堆積し,いわゆるヘドロ状態になっている場所がかなり存在していました.そのような場所では,まったく魚のいないことも多々ありました.改修によりヘドロが堆積しにくくなり,水環境が改善された箇所も少なくありません.都市化が進む前の,泳ぐこともできたというきれいだったころの大江排水路を持ち出されると,現在の状態は残念ですとしか言いようがありませんが,それはノスタルジーにすぎないかもしれません.それから,改修前の大江排水路は現在のコンクリート水路よりは水路底に凹凸がありましたが,いわゆる河川のような瀬や淵があったわけではありません.魚は多くの場合,水路際の草陰に潜んでいましたので,いわゆるガサガサといった採り方で簡単に捕まえることができました.どちらかというと改修後の魚溜まりのほうがずっと水深が大きく,魚は捕まえにくくなっています.



大江排水路調査トピックス



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