シリコンクラスレート
シリコンクラスレートの構造
クラスレートとは「包接物」という意味で、シリコンクラスレートとはその名の通り、シリコンによって構成される包接化合物のことです。この物質はSi-Si共有結合からなるカゴ状構造のなかに他の原子(M)が入りこんだ構造をしていて、その形はちょうどガスハイドレートの水分子がシリコン原子に置き換わった構造をしています。以下でシリコンクラスレートの構造のくわしい説明をしましょう。
シリコンクラスレートは下の図に示すように、大きく分けて構造T(typeT)、構造U(typeU)の二つの構造に大別されます。構造Tは2つの12面体(M@Si20)と6つの14面体(M@Si24)からなる立方晶、構造Uは16個の12面体(M@Si20)と8つの16面体(M@Si28)からなる立方晶です。各ケージはシリコン原子により構成され(シリコン原子は共有結合によって結合)これらホストケージの中に1つのゲスト原子(現在のところ、ナトリウム、バリウム、カリウム、ヨウ素などのアルカリ、アルカリ土類金属、ハロゲン原子)が封じ込められています。
シリコンクラスレートの場合、構造の違いは合成時の温度や圧力などの条件で決定されると言われています。現在も、様々なタイプのクラスレート化合物の合成が試みられています。
シリコンクラスレートの性質
シリコンクラスレートのおもしろいところは、ホストケージの中に内包されるゲスト原子に依存して様々な興味深い性質が現れる点です。例えばバリウム原子を内包したtypeT構造のバリウムシリコンクラスレートは、シリコン系化合物で初めて超伝導が発見され一躍、注目を集めました。他にもシリコンクラスレートには高い熱電変換特性やバンドギャップが通常のシリコンに比べ大きくなることが予想されています。この様な数多くの興味深い性質はホストフレームとゲスト原子の相互作用によって引き起こされると考えられています。本研究室ではシリコンクラスレートのホスト-ゲスト相互作用を明らかにするためにラマン散乱などの分光的手法を用いて研究を行なっています。
シリコンクラスレートのラマンスペクトル
シリコンクラスレートの物性を理解する一つの鍵として、ゲスト原子の振動があります。しかし、今までにラマン散乱によってゲスト原子の振動は測られていません。そこで本研究室ではゲスト原子の振動をラマン散乱によって観測する試みを行なっています。下のスペクトルが実際に得られた各種シリコンクラスレートのラマンスペクトルです。
詳しい解析の結果、Ba8Si46とBa6.6Si46については最も低波数側の三本のピークがゲスト原子の振動であることがわかりました。他の二つのクラスレートのついても現在研究が着実に進行しています。
最近の成果
研究成果が岐阜新聞や中日新聞に掲載されました。