研究の概要


研究の目的
どのように新規機能材料、新規物理現象の創製・探索を行うのか
新規機能材料、物理現象の評価
氷状の環境エネルギー関連物質「ガスハイドレート」の研究目的
「ガスハイドレート」研究の意義
「シリコンクラスレート」研究の意義


研究の目的

 我々の研究室は工学部機能材料工学科(材料物性工学講座)と大学院環境エネルギーシステム(独立)専攻(ハイドレート高圧物性工学講座)に属しています。従って、新規機能材料、新規物性現象の創製・探索及びその基礎物性評価、ガスハイドレート(メタンハイドレート、二酸化炭素ハイドレート、等)の基礎物性評価による地球環境エネルギー問題への貢献を基本的な目的としています。


どのように新規機能材料、新規物理現象の創製・探索を行うのか

 新材料およびそれに関わる新規物理現象の創製・探索は、超高圧力、極低温下すなわち極限状態下で行います。極限状態による新規物理現象の発現を水(氷)と酸素を例にして説明しましょう。水は大気圧(1気圧)の下、0℃で氷-Ih相になります。この氷は下の写真(雪の結晶)に見られるように六角形の形をしており、水に浮く冷たい結晶です。我々の住む1気圧の世界では唯一見ることができる水の結晶です。この水に対して室温(23℃)で約9千気圧ほどの高圧力を加えると、氷-VI相と呼ばれる八面体の氷が生成します(下写真参照)。この氷は室温ですから暖かく、また水に沈み、我々の知っている氷(氷-Ih相)とは全く異なった様相を示します。更に、温度と圧力を上げ、90℃、約2万気圧にすると、今度は氷-VII相と呼ばれる丸い氷が生成します(下写真参照)。この氷は熱く、氷-VI相同様に水に沈みます。氷は圧力と温度の条件を変えることによって、実に10種類以上の相が現れることが分かっています。次に酸素についてお話しましょう。室温で酸素に圧力をかけると、気体の酸素は液体になり、約5万気圧で固体相になります。更に圧力を加えると他の固体相を経て100万気圧で分子性物質である酸素が信じられないことに金属に転移します。更に驚くべきことに120万気圧で温度を0.3Kまで下げると超伝導現象までもが発現します。このように圧力と温度は、我々が通常見ることのない未知の物理現象を目の当たりにしてくれます。つまり、様々な物質を極限状態にすることで新規機能材料の創製・探索及び新規物理現象の発現を行うことができる訳です。

左上 氷-Ih相。冷たい氷。我々が日常目にすることができる0℃で凍る水に浮く氷。六方晶系。

右上 氷-VI相。暖かい氷。写真は室温(23℃)、約9千気圧で周囲は水(液体)。この氷は水に沈む。正方晶系。

左下 氷-VII相。熱い氷。写真は約90℃、2万気圧で周囲は水。この氷も水に沈む。立方晶系。

 我々の研究室では極限状態を実現するために、ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)と呼ばれる超高圧力発生装置とヘリウム冷凍機を用いています。これらの装置を用いて、水素結合性物質、Van der Waals 固体、柔粘性結晶(プラスチック相)を持つ分子性物質、環境エネルギー問題に関わるガスハイドレート化合物などの超高圧極低温物性を調べています。

 最近は、硫化水素や臭素の半導体-金属化現象の実現及びその物性評価を行っています。


新規機能材料、物理現象の評価

 超高圧、極低温の極限状態によって実現された新規物性の評価はラマン散乱分光、ブリュアン散乱分光、紫外可視光吸収分光などの測定によって行います。これらの測定法によって、物質中の原子・分子の振動状態、結合状態、音速、弾性定数、密度、屈折率、分極率、電子バンド構造などを圧力-温度の関数として決定し、詳しい物性を解析することができます。これらの成果を下に新規機能材料の創製を行います。各測定法の詳細な説明はそれぞれのページの記していますので、そちらをご参照ください。(ページ末、又は左別フレーム参照)


氷状の環境エネルギー関連物質「ガスハイドレート」の研究目的

 近年、地球環境保護、地球資源の有効利用などの点から、ガスハイドレート(包接化合物、水素結合による水分子のカゴ状構造の中に他の物質の分子が入り込んだもの)の研究が盛んに行われるようになりました。 その要因として、二酸化炭素ハイドレート(CO2-H2O)を遮蔽物質として、地球温暖化に最も関与している二酸化炭素 (CO2) の深海底への封じ込めの可能性が出てきたこと、 海底下に大量に存在するといわれるメタンハイドレート(CH4-H2O)中のメタン(CH4)資源の有効利用などがあります。 しかし、これらの実現のために必要な基礎物性データは未だ充分に得られていないのが現状です。そこで、我々の研究室ではレーザー・ラマン、ブリュアン散乱分光測定法を用いて、ガスハイドレートがどのような分子ダイナミクス、弾性的性質を持ち、どのような海底環境下のとき構造的に不安定になり、また安定に存在できるのか、調査研究することを目的にしています。

  我々の研究室で合成したメタンハイドレートの燃焼映像はこちら

 ガスハイドレートの構造、性質についてはこちらを参照してください。

「ガスハイドレート」研究の意義

  地球資源の有効利用などの点から、海底下に大量に埋蔵されていると思われるメタン(CH4)ハイドレート中のCH4資源の有効利用が注目されています。 しかし、海底から大気中に大量なメタンガスが流出すれば、逆に温室効果を招き、多大な環境破壊につながる恐れがあるため、CH4ハイドレートの海底からの採集には注意を払う必要があります。 さらに、CH4ハイドレート層の下にあるCH4フリーガスの利用も検討されていますが、フリーガスの採取によるCH4ハイドレートへの影響は無視できなく、CH4ハイドレートの安定性が崩れれば気泡爆弾となり、地球環境に甚大な被害を与える可能性があります。 これらの理由から、CO2ハイドレート同様、CH4ハイドレートが海底のどのような温度、圧力、力学的環境下で、 どういった化学的、弾性的性質を持ち、海底で安定に存在し、安全に採集できるのか調べることは非常に重要です。


「シリコンクラスレート」研究の意義



下記の測定装置に関しては更に詳しい解説があります。

ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)

 超高圧力発生装置 DACのことを詳しく知りたい方は以下のリンクへ。

ラマン散乱

 ラマン散乱測定について詳しく知りたい方は以下のリンクへ。

ブリュアン散乱

 ブリュアン散乱測定について詳しく知りたい方は以下のリンクへ。

紫外可視光吸収スペクトル測定

 紫外可視光吸収スペクトル測定について詳しく知りたい方は以下のリンクへ。