ハイパー核
ハイパー核は、我々の身の回りの物を形作るような状態では存在していません。陽子と中性子から構成されている通常の原子核に対して、ハイパー核は陽子と中性子の他に
ハイペロン
と呼ばれる粒子を含んでいます。一つ例をとってみると、炭素12Λ(ラムダ)ハイパー核(12ΛC)は、陽子6個と中性子5個、それに約100億分の1秒の寿命しかないΛ粒子1個から成り立っています。核子がu-quarkとd-quarkから構成されているのに対して、Λ粒子はu-quarkとd-quarkとs-quarkから構成されています。
ハイパー核の生成
ハイパー核を人工的に作り出すのは容易なことではありません。シングルハイパー核(Λ核)でも、これまでに約30種類が見つかっているのみです。ハイパー核の生成には、原子核を標的としてこれに何らかの方法でs-quarkを注入しなければなりません。現在よく用いられているハイパー核生成反応には、
(K-,π-)反応 〔K-+n→Λ+π-, Σ0+π-〕
(π+,K+)反応 〔π++n→Λ+K+, Σ0+K+〕
があります。反応には様々なものがありますが、それぞれ特徴をもったハイパー核を生成するために、用途に応じて用いる反応やビーム(K-やπ-)のエネルギーを変えています。同時に、散乱されて出てくるK+のエネルギーも、生成したという情報を効率的に得るための指標となります。
ダブルハイパー核(ΛΛ核)の生成
ΛΛ核の生成には、図1 図2のような方法が考えられます。Direct process(図1)は、K-中間子ビームを標的となる原子核の陽子と反応させ、直接ΛΛ核やHダイバリオンを生成する方法です。一方、図2に示すような(K-,K+)反応で生成されたΞ-を、標的とは別の原子核に吸収させる方法では、Ξ-原子を通してダブルハイパー核やHダイバリオンを生成します。私たちは図2の方法で、ΛΛ核を生成し研究しています。
約1.7GeV/cの運動量を持つK-中間子ビームが、標的原子核内の陽子と反応しK+中間子が放出される反応を選別すると、S=-2のΞ-が生成される反応を効率よく選別できます[p(K-,K+)Ξ-反応:K-+p → Ξ-+K+]。(K-,K+)反応によって飛び出したΞ-粒子は、運動エネルギーを失いながら物質中を飛行し最終的に静止します。その直後"−"(マイナス)の電荷をもつΞ-粒子は、"+"( )の電荷を持つ近辺の原子核に引き寄せられ、そこにΞ原子ができます。通常の原子では、核のまわりを電子が取り囲んでいますが、Ξ原子とは、一個の電子がΞ-粒子に置き変わったようなイメージです。しかしΞ-粒子は、陽子の約1.5倍、電子の約2600倍も重いので、その軌道半径は電子の場合と全く異なり、核のごく近傍になります。そこで、Ξ-原子では、Ξ-と核の陽子との反応が起こります。この解放エネルギー28MeVの発熱反応では、Λハイペロンを2つ生成します[Ξ-p → ΛΛ+28MeV]。生成された2個のΛハイペロンは ΛΛ核や、2個のΛ核、またはΛ核とΛ粒子、2個のΛ粒子などに崩壊します。
図1 Direct process
図2. Via Ξ-atom
*ハイパー核に関する参考文献
坂東弘治、"奇妙さ"を含むハイパー原子核, パリティ(丸善株式会社), Vol.01 No.05 (1986) p.55
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