E373実験(KEK-PS)

 E373実験が行なわれる目的は、 E176実験 の10倍の統計をもとに、Λ粒子同士の相互作用を原子核を使って調べ、またこれはHダイバリオンの存否にも大きく関わってきます。このダブルハイパー核(ΛΛ核)探索実験は、Counter系とEmulsion(原子核乾板)を組み合わせた複合実験(ハイブリッドエマルション実験)です。
 この実験方法は、KEK-PS E176実験
でも用いられました。E176実験では、弱い相互作用で連続的に崩壊するΛΛ核1例を、高い信頼性で確認する事に成功しましたが、Λ粒子同士の相互作用を確定するには至りませんでした。したがってその10倍以上のΛΛ核の検出を目指すE373実験では、Λ粒子同士の相互作用を確定することが、第一の目的です。

図7.E373実験の原理

 E373実験では、図7のようにK-中間子ビームを、標的(ダイヤモンド)12Cの陽子と反応させることにより、強い相互作用でΞ-とK+を生成させます。Ξ-は運動エネルギーを失って、エマルション中に静止します[K- → Ξ- + K+]。標的のすぐ下流にファイバーバンドルを置き、さらに下流に原子核乾板があります。乾板は、200μmのbaseに両面70μm(2ndrunは100μm)厚でエマルションを塗布した薄型乾板が最上流に1枚と、40μmのbaseに両面500μm厚で塗布した厚型乾板を下流に11枚、計12枚を1stackとして設置します。ビームは、標的・乾板・ファイバーブロックなど様々な物質と反応します。したがって、生成されたΞ-が乾板中で静止する現象を、効率よく選択しなければ、何百年かかっても、ΛΛ核の生成・崩壊にはたどりつけません。
 まず、約25%の割合でビーム中に含まれるK-粒子を99%以上の信頼性で確認しました。このK-粒子の標的との反応で出てくるK+粒子を、陽子やπ+粒子、反応しなかったK-粒子などから、分離しました。  このようにして、5×109のK-粒子を100スタック(総量69l)の原子核乾板に照射し(乾板の量はE176の約2倍)、記録された(K-, K+)反応の中から、
  • ファイバーバンドルにΞ-の飛跡がない。(ダイヤモンド標的中でΞ-が静止)
  • 反応点がダイヤモンド標的中でない。
  • 生成されたΞ-が乾板の外に出たり、乾板中で崩壊している。
  • などが明らかな事象を除去しました。残った事象(約1×104)は、乾板中でのΞ-静止が強く期待され、乾板中での探索が行われます。
     ファイバーバンドルは、直径40μmのファイバーを兼ねてX、Y、X'、Y'と4層で構成されています。これにより、生成されたΞ-が、原子核乾板のどの位置に、どの角度で入ってきたかを精密に測定することができます。そのファイバーバンドルからエマルションに飛跡をつなぐために、最上流においた薄型乾板を使い、11枚の厚型乾板は核の生成、崩壊を観測するために使用します。ビーム照射後、原子核乾板は現像して顕微鏡で観測します。原子核乾板では、ΛΛ核の生成・崩壊が1μmよりよい精度で、飛跡として観測できます。この生成・崩壊という現象は、100億分の1秒という短時間に終わってしまい、空間的には一辺が10μmのサイコロくらいの領域になります。


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