E176(KEK-PS)
過去40年以上前に観測されたというダブルハイパー核を確認することを第1目標に、またHダイバリオンが存在すればその検出を目指し、高エネルギー加速器研究機構(KEK)にてCounter系とEmulsion(原子核乾板)を組み合わせたハイブリッドエマルション法と呼ばれる方法で実験が行われました。原子核乾板は、100年近く前からある測定手段であり、ハイパー核の飛跡のようにミクロン単位の長さを測るには最適です。その特徴を生かして、しかも数多くのダブルハイパー核(ΛΛ核)を高い信頼度で検出すべく、各種の現代的な測定器と原子核乾板を組み合わせたのがこの方法です。
図3.
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図4.
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実験では、まず1.66GeV/cの運動量を持つK-中間子を、図3(図4は原子核乾板標的の拡大図)のように原子核乾板を標的として入射させ、K+が確実にでている(K-,K+)反応をひろい出しました。K-入射反応によって放出される粒子の運動量と速度を測ることで質量を求め、放出された粒子郡からπ+中間子や陽子を排除し、K+だけを選び出します。原子核乾板の両側にある位置精度16μmのシリコンストリップ検出器によって、選び出したK+の乾板中での位置を測定します。次に、乾板中でK+の飛跡をさがし、それを上流にたどって(K-,K+)反応点をみつけます。K+を放出している(K-,K+)反応点からは、通常Ξ-が放出され、運動エネルギーを失いながら約10%が静止し、近辺にある原子核に吸収され、崩壊し、結果的にΛΛ核を生成します。
K-を照射した後現像した乾板を、12の大学や研究所[1]にもち帰り、1988年夏ごろから解析を開始しました。当初は、Ξ-静止事象に対して1/4という高い生成確率で、次々とΛΛ核が見つかるであろうと予想したのですが、解析を進めてもなかなか発見できませんでした。一時は、過去の発見例は何かの間違いではないか、という雰囲気が漂い始めました。乾板の解析も終わりに近くなったころ、ようやくΛΛ核と思われる事象が、名古屋大学グループが解析していた乾板中で図5のように確認されました。この事象において反応に関係する粒子はすべて原子核乾板中で静止しているので、崩壊に伴うエネルギーは、すべての粒子に対して測定できました。生成・崩壊の様子は図6のように考えることができました。
図5.
図6.
(K-,K+)反応で生成されたΞ-粒子は、乾板中を走って運動エネルギーを失って静止し、A点で乾板中の原子核に吸収されています。A点からは、2本の荷電粒子(track#1, #2)が放出され、track#2の粒子はB点で2本の荷電粒子(track#3, #4)に崩壊しています。track#3はπ-粒子と判別され、track#4の粒子はC点で3本の荷電粒子(track#5, #6, #7)に崩壊しました。track#2のΛΛ核は10ΛΛBeまたは13ΛΛBの可能性があり、それぞれ次のように崩壊したと考えられています。
Case1 Ξ- + 12C → 10ΛΛBe + 3H
10ΛΛBe → 10ΛB + π-
10ΛB → 4He + 3H + 1H + 2n,etc.
Case2 Ξ- + 14N → 13ΛΛB + 1H + n
13ΛΛB → 13ΛC + π-
13ΛC → 4He + 4He + 3H + 2n,etc.
Case1の場合、ΛΛ核の結合エネルギーは8.6(+0.7/-0.8)MeVであり、ΛとΛの相互作用エネルギーは、−4.8(+0.7/-0.8)MeVとなり、斥力的です。一方、Case2の場合は、ΛΛ核の結合エネルギーは、27.7(+0.7/-0.8)MeVであり、ΛとΛの相互作用エネルギーは引力的で、4.9(+0.7/-0.8)MeVとなります。ΛΛ核の結合エネルギーが求められたことにより、Hダイバリオンの質量下限値は2222.8MeV/c2 (Case1) または2203.7MeV/c2 (Case2) と測定されました。上限は、2個のΛ粒子の質量和2231.4MeV/c2です。E176実験ではΛΛ相互作用が斥力になるのか引力になるのか、その点の不確定さは残すものの、弱い相互作用で崩壊するΛΛ核が確かに存在することが示されました。
*E176に関する参考文献
今井憲一,やっと確認されたダブルハイパー核,パリティ(丸善株式会社),Vol.06,No.02,(1991),p.58
[1]
名大、神戸大, Wonkwang University, Gyeongsang National University, 京大, Changwon, 高エネルギー物理学研究所(KEK), 東邦大, 宇都宮大, Korea University, Chonnam National University, 愛教大, 横浜国大, 東大核研, 岐阜大, 大阪府教育センター, 京都教育大, 京都産業大, 大阪市大
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