腫瘍病理実習書
その1
73-220 Pleomorphic adenoma
唾液腺腫瘍は耳下腺に最も高頻度に発生し、耳下腺原発は少ない。唾液腺腫瘍の中で多形性腺腫は最も多く、全体の60%を占める。多分化能を有する細胞から発生すると考えられており、上皮細胞の腺管状、シート状、充実性に増殖する部分と粘液腫様あるいは軟骨腫様に増殖する部分が混在し、多様な組織像を認める。
標本では、左側に線維成分、中央にシート状の部分が認められる。多形性腺腫においてよくみられる軟骨のような構造は見られなかった。
1151 Hepatocellular carcinoma
肝細胞癌は画像所見、組織学的所見により、小・中分化型肝細胞癌、高分化型肝細胞癌、特殊な肝細胞癌に分けられる。C型肝炎などの慢性肝疾患が原因となり、発生する。小・中分化型肝細胞癌は肉眼的に塊状型、結節型、びまん型に分類される。
標本では、膨張性に発育する結節型肝細胞癌を認める。また、正常に近い肝細胞が認められる部分においても線維化を認めることから、肝硬変が進んでおり、慢性肝炎の罹患も考えられる。正常な小葉構造は見られず、偽小葉や偽管形成、肝細胞により生成された胆汁のうっ滞も観察される。腫瘍細胞との境界部においては、線維被膜を伴い、境界明瞭である。腫瘍細胞は小型化し、核の濃染、N/C比の上昇、細胞密度の増加を認める。
179 Osteosarcoma 骨肉腫
骨肉腫は10歳代の小児の長管骨の骨幹端部に好発しやすい。これは、長管骨の骨端軟骨板が14〜15歳に閉鎖し、成長軟骨板では骨芽細胞の分裂がとても盛んであるからである。
骨肉腫は、高悪性度の骨腫瘍である。特徴としては、腫瘍性による類骨形成が多数見らられ、骨形成も見られる。また腫瘍性巨細胞、分裂像、多形成の強い腫瘍細胞が見られる。
2432 Cholangiocarcinoma (liver) 肝内胆管癌
肝内胆管癌はほとんどが腺癌であり、胆管上皮に似た上皮で覆われた腺腔を形成し、線維性間質がよく発達しているものが多い。管腔構造をとることが多いが、腫瘍細胞の大きさは小型〜中型で、立方上または円柱状である。
・高分化腺癌は、種々の大きさの管腔構造を示し、乳頭状の増殖もみられる。
・中分化では、腺腔形成に加え、コード状または篩状の増生を示す成分が混在する。また大小不同や核異型が目立つ
・低分化では、腺腔構造が不明瞭となり、コード状、小集団の増生を示す。
05-3691 Moderately differentiated tubular adenocarcinoma (early gastric cancer)
この標本は、管状腺癌の中分化型であり、篩状構造が観察される。また、腺管の分枝吻合が目立ち、かつ核の異型性が強い。
小型の腺管を主体とし、拡張したもの、あるいは腺腔がほとんど見られないものが混在する。
この湿潤癌は間質反応を行いながら湿潤しており、境界は不明瞭である。ただし、粘膜筋板への浸潤は見られないため、早期の胃がんである。
95-1725 Colonic polyp;carcinoma in adenoma
この標本ではポリープを観察することができ、管状腺腫が悪性化して高分化管状腺癌となっている部位が見られる。大腸腺腫の粘膜の増殖細胞は腫瘍細胞、非腫瘍腺管においても粘膜表面部に位置して見られる。
腫瘍を構成する細胞は高円柱状の細胞が中心で、異型度に伴いN/C比の増大、紡錘形ないし長楕円形の核から核の腫大、円形化、クロマチンの粗大化、核配列の乱れ、偽重層化などの変化を示す。細胞異型の増加に伴い腺管構造の異型度も増し、分岐や迂曲が著しくなる傾向を示す。粘膜筋板までの浸潤は間質反応によって判断できないため、浸潤最深部が基準線より上方にあると判断しHead invasionとする。
05-1394 Moderately differentinated tubular adenocarcinoma
中分化型管状腺癌(胃癌)
粘膜上皮から粘膜筋板を貫き、腺管様の構造を形成する癌細胞が認められる。固有筋層への癌細胞の浸潤はこの標本では確認することができず、早期癌の可能性もある。粘膜固有層上部に散在する比較的正常な腺管像と比べて、特に固有層に多数認められる管状腺癌組織は腺管の分岐吻合、不整が目立つ。
また、腺管が入り組み顕微鏡下で篩状に観察される。これらを構成する腫瘍細胞は、大小不同で核異型、N/C上昇、核配列の乱れを伴っているため、中分化型であると判断できる。核分裂増も散見される。
05-4870 Colonic polyp; tubular adenoma
結腸ポリープ 管状腺腫
大腸粘膜から突出した有茎性のポリープ病変である。元の粘膜と頚部は正常な粘膜構造を示しているのがわかる。それに対してポリープ側には大小さまざまな構造を示す腺管が多く認められる。これらの細胞構造は粘膜側のそれと比べて、細長い核が密集し、一部の腺管では核異型と核が一列に整っていない様子が見られる(偽重層)。細長い細胞体と杯構造を維持した低異型の癌細胞と、細胞体が丸みを帯び加えて杯構造を失った高異型の癌細胞が混在する。
ヘマトキシリンに濃染される核分裂像も散見され、分裂・増殖の活発さを垣間見ることができる。
70-2131 Lymph node metastasis; signet ring cell carcinoma(印環細胞癌のリンパ節転移)
印環細胞癌は小型で均一な腫瘍細胞が細胞内粘液をもち、核を一方に圧排して細胞を「印環signet ring」の形にする。乳腺原発の印環細胞癌の多くは小葉癌由来であるが、乳管癌原発のものも存在する。
標本は印環細胞癌がリンパ節に転移したものであり、リンパ球の中に印環細胞癌を認める。
157 lipoma
脂肪腫は成熟した脂肪細胞からなる腫瘍で軟部組織腫瘍のなかで最も多い。成人、特に40〜60歳代に多く発生する。皮下、または深部組織に発生し、ほとんど単発性である。組織学的には境界明瞭で組織学的には成熟した脂肪細胞の増生からなる。ときに、線維性成分、粘液成分を伴うことがある。
78-1357 liposorcoma (myxoid type)
脂肪肉腫は肉腫の中で頻度の高いもののひとつである。中年ないし高年の人に生じやすい。肉眼的には分葉状で、しばしば巨大な結節状腫瘍をつくる。通常よく限局し、偽被包化をみる。なお、脂肪肉腫の種類としては分化型、粘液型、円形細胞型、多形型、脱分化型が存在する。
今回は粘液型の脂肪細胞腫であるといえる。粘液型は脂肪肉腫で最も頻度が高く、胎児期の白色脂肪組織に類似し、樹枝状に配列する繊細な毛細血管網を伴って、粘液腫状基質のなかに紡錘状ないし脂肪芽細胞がさまざまな密度でみられる。これらの脂肪芽細胞はしばしば脂肪空砲を有し、毛細血管の周囲に増殖する傾向になる。
15740 Malignant Fibrous Histiocytoma (悪性線維性組織球腫)
線維性組織球腫は、線維芽細胞と貪食能を持ち脂質を含んだ組織球性細胞から成る。組織学的にMFHにはいくつかの亜型がある。
@花むしろ状多形型(storiform-pleomorphic type)
線維性細胞外基質とともに異型紡錘形細胞ないし多形細胞が種々の比率で混在して増殖するが、紡錘形細胞は充実性に花むしろ様配列を示す。花むしろ様配列とは、交錯状や束状とは違い、紡錘形細胞が入り組んだ網目構造みたいな配列である。破骨巨細胞や炎症細胞が増えている場合は後述する炎症型の分類に入れられる。
Amyxioid MFH Binflammatory MFH Cgiant cell MFH