ムギ類赤かび病について

ムギ類赤かび病菌の生態解明
ムギ類赤かび病菌はムギやイネなどの穂を侵すだけでなく、デオキシニバレノールやゼアラレノンなどかび毒汚染を起こして大きな問題となっている。ムギの主要輸出国である米国では本病害だけで毎年200億円近い被害を受けている。研究室では全国各地の菌を分析し、国内には主にフザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)とフザリウム・アジアティカム(Fusarium asiaticum)と呼ばれる二種が分布していることを明らかにした。また、この研究ではフザリウム・ボロシ(Fusarium vorosii)という新種も発見した。更に個体(クローン)識別を可能とするマイクロサテライトマーカーを開発し、圃場において本菌が遺伝的に非常に多様であることを明らかにした。

病原菌の簡易同定法
・ムギ類赤かび病の原因菌種を識別するためのPCR-RFLP法及びトリコテセン系カビ毒タイプ(NIV、3ADON、15ADON)を判定するマルチプレックスPCR法(Suga et al 2008 Phytopathology 98:159-166)
・ムギ類赤かび病の菌種及びトリコテセン系カビ毒タイプ(NIV、3ADON、15ADON)の同時判定のためのDNAストリップ(核酸クロマトグラフィー)(特許出願: GI-H31-47)。マルチプレックスPCR後、アガロースゲル電気泳動は必要なく、液をストリップの先端に浸して約20分で判定可能。

ムギ類赤かび病菌の新規病原性遺伝子の解明
ムギ類赤かび病菌の病原性欠損株を利用して、これまでに知られていない新規病原性遺伝子の解明をめざしており、これまでにGPIアンカータンパク質遺伝子などが宿主侵入後の宿主内進展に関与してていることを解明した。




     

     コムギ赤かび病              赤かび粒 (左は健全粒、右が感染粒)


     


  フザリウム・グラミネアラムの培養形態    分生胞子

イネばか苗について

イネばか苗病菌におけるジベレリン・かび毒(フモニシン)産生能と遺伝的関係の解明
フザリウム・フジクロイ(Fusarium fujikuroi)にはイネの徒長病害(ばか苗)の原因となるジベレリンを産生するものや、フモニシンと呼ばれる、食道癌に関係するとされているかび毒を産生するものがいる。研究室では全国各地の菌を分析したところ、本菌種内には遺伝的に異なる2つのグループ(GグループとFグループ)が存在し、それらのジベレリンとかび毒産生能には大きな違いがあることを見い出した。現在、産生能の違いを生じさせている原因遺伝子及び、変異を特定するための研究を進めている。

病原菌の簡易同定法
・イネばか苗病の原因菌種を識別するためのPCR-RFLP法(Suga et al 2014 Fungal Biology 118:402-412)
・かび毒(フモニシン)産生能の有無を判定するためのPCR-RFLP法(同上)
・イネばか苗病菌((Fusarium fujikuroi)Gグループ)検出・同定用LAMP法(30分で判定可能。興味がある方は研究室にお問合せください)

    
       圃場で見られるイネばか苗病        左が健全イネ、右が発病イネ


            
 ばか苗イネは地際部の茎から菌が分離される 病原菌は小型の分生胞子を連鎖状に形成する

イチゴ萎黄病について


イチゴ萎黄病菌を検出するための分子マーカーの開発・利用
イチゴ萎黄病はイチゴ栽培で大きな問題となっている土壌伝染性の病害である。病原菌のフザリウム・オキシスポーラム(Fusarium oxysporum)という菌種は、100種以上の植物に病害を起こすが、それぞれ宿主植物種ごとに菌が特化集団として存在する。例えばトマトの病原菌はトマトのみに病害を起こし、他の植物に病害を起こすことはない。また、土壌中には植物に病気を起こさない非病原性のフザリウム・オキシスポーラムも多数生息しており、外見上で病原菌との見分がつかないため、病原菌のみを検出することができない。イチゴ萎黄病を起こす菌群はフザリウム・オキシスポーラムの中でf.sp.fragariaeと分類されている。当研究室ではイチゴ生産で大きな 問題となっているイチゴ萎黄病菌を迅速・簡易に検出する遺伝子診断法の開発に成功し(Suga et al 2013 Plant Disease 97:619-625)、現在実用段階に入っている。


   
      圃場で見られるイチゴ萎黄病
  
遺伝子診断法(一番左が病原菌、隣2つは非病原菌、その隣2つはフザリウム・オキシスポーラム以外のフザリウム)

アズキ根腐病について

各種作物根腐病菌が持つ病原性機構の解明
フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)菌は畑地土壌一般に生息し、各種作物に根腐れ病害を起こす病原菌である。研究室では分子系統樹解析や染色体構造の解析から宿主を異にする菌群の進化関係の解明をめざしている。その中で、アズキに根腐れを起こしている菌群がそれまで知られていたインゲン根腐病菌とは遺伝的に異なる菌群であることを見いだし、新種のフザリウム・アズキコーラ(Fusarium azukicola)とした。また、遺伝子操作系を利用して病原性の分子機構の解明もめざしている。

病原菌の簡易同定法
フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)の分化型(宿主植物特異性)を識別するためのPCR-RFLP法(須賀 2014 植物防疫 68: 269-273)



     
         インゲン根腐病           アズキ根腐病