アイオノマーに関する当研究グループの成果

 

1. アイオノマーの特徴的な性質は、疎水性の主鎖媒体中でイオン基が集合して形成されるイオン会合体の存在に由来しています。会合体の大きさや実際に主鎖に対してどのような役割を果たしているのかは、長い間、明らかにされていませんでした。私たちは、小角X線散乱法(SAXS)や電子スピン共鳴法(ESR)を駆使することにより、ミクロ構造解析をおこない、会合体の構造、その内部および周辺の鎖の運動状態を明らかにすることが出来ました。上に模式図に示しますように、1個の会合体には10個程度のイオン基が集合していて、大きさは1-2 nm。会合体と周囲の境界領域、半径1 nm付近で一番非極性に近い、イオン欠乏領域があることなどが明らかになりました。

. このアイオノマーの会合体を1種類ではなく、2種類のイオンで構築した場合、たとえばNaイオンとZnイオンを1:1含むアイオノマーでは、その曲げ剛性率が成分アイオノマーの足しあわせには従わないことが知られています。私たちは、この「1たす1が3以上」の相乗効果の原因が、イオン会合体がNaイオンとZnイオンの両方を含む一種のアロイとなっていて、成分アイオノマーのそれぞれのイオン会合体の構造とは質的にも違ったものになっていることを明らかにしました。

3. また、アイオノマーの場合、配位子は主鎖につながっており、配位子は種々の配位構造をとる際に常に主鎖の拘束を受けています。したがって、その錯体集合体は、低分子化合物の結晶とは異なる「場」に存在しているということができます。実際、このことを直接反映する現象として、その配位構造が1気圧程度の圧力に敏感に応答して変化するという特異現象を見いだしました。この現象は、アイオノマー場中の錯体集合体特有の現象であり、実際、組成に依存していて、MAA含量が3.5mol%か5.4mol%のとき圧力に対する応答が最大になるという結果が得られています。

その実用的な有用性とは対照的に、アイオノマーの内部構造、特にイオン会合体の構造と物性との関係については、まだまだわからないことが多く、その解明とその知見を生かしたアイオノマーの特性の向上と精密制御、そして新しい機能付与などを目指して研究しています。


主な原著論文

に関して:
S. Kutsumizu et al., Macromolecules, 33, 3818 (2000); 33, 9044 (2000); 35, 6298 (2002); 37, 4829 (2004); J. Mol. Struct., 739, 191 (2005).
に関して:
H. Tachino et al., Macromolecules, 27, 372 (1994); S. Kutsumizu et al., ibid., 32, 6340 (1999).
に関して:
S. Yano et al., Chem. Commun., 1465 (1999); H. Hashimoto et al., Macromolecule, 34, 1515 (2001); S. Kutsumizu et al., ibid., 34, 3033 (2001).

日本語の解説:

1) 沓水祥一, 矢野紳一, エチレンアイオノマーの電気的性質, 高分子加工, 42(9), 424-429 (1993).
2) 沓水祥一, 矢野紳一, エチレンアイオノマー亜鉛塩およびその類似錯体の配位構造の圧力依存性, 高分子加工, 51(3), 113-120 (2002).
3) 沓水祥一, イオン会合体, 矢野紳一, 平沢栄作 編著, アイオノマー・イオン性高分子材料, シーエムシー出版, 2章担当, pp. 18-58 (2003).
4) 沓水祥一, 光学的性質−IR,UV,可視,NMR−, 矢野紳一, 平沢栄作 編著, アイオノマー・イオン性高分子材料, シーエムシー出版, 3章1.4担当, pp. 106-119 (2003).
5) 沓水祥一, アイオノマーのミクロ構造解析の最前線, 化学と工業, 56(9), 969-970 (2003).


アイオノマー研究会における活動


アイオノマーに関する種々の情報交換を目的として、アイオノマー研究会を立ち上げています。詳細は研究会HPをご覧下さい。