2月14日にシンポジウムを開催しました。
【基調講演概要】
民間のシンクタンクで激務をこなしていた渥美氏。当時、「ワーク・ライフ・バランス」を上司に直訴しましたが「無理」と言われ、自分で研究を始めました。転職の際も妻がしっかり働いていたので、迷うことなく決断できた経験から、「共働きは失業保険」と考えています。当時1歳の子どもの頭に腫瘍が見つかった時、医者から「良く見つけましたね。あと数週間遅かったら命がなかったですよ」と言われ、新聞に取り上げられるほど当時は珍しかった「男性の育休取得」をしてよかった、と本当に思ったといいいます。育休によって子どもをしっかりと観察していたからこそ発見できたのだと考え、「イクメン」という言葉の発案者として、男性も絶対に育休をふくめた家事・育児参加が必要だと主張します。
ダイバーシティとは「多様性」ではなく、「適材適所」であると意訳しています。発達障害である自分自身が親からされた教育から、「苦手なことがあっても、得意なところを伸ばして他の人より秀でればいい」ということと、できないことを減点するのではなく、できるところを評価する「加点主義」を学び、部下の教育に役立てています。
女性活躍には「ケア」「フェア」「シビア」の3つの段階があり、第一段階では、ライフイベントと両立する女性が増えてくるので「ケア」が必要になりますが、第二段階では、女性だからといって昇進の道を閉ざさないような「フェア」な対応が必要となります。現在は第三段階にきており、どんな女性であろうと、「配慮」はするが「遠慮」はせずに、本人の希望・能力に合わせて仕事をさせ、上位職に登用できるキャリアを提供することが、現在の女性活躍には必要です。
女性活躍で大事なことは、対立関係を固定しないことです。男性vs.女性という対立だけでなく、女性同士の対立にも気を付けなければいけません。育児期に支援の必要な女性とその同僚の女性の間で対立が起き、支援の必要な女性への配慮を上司が強制しても、その不満は消えず、「仕事に制限のある育児女性vs.仕事をやらされるその他の女性」という構図が固定されてしまいます。そうではなく、「配慮が必要な時は支援し、他の人が支援を必要としたときに恩返しをする気で最大限頑張らせる」ことにより、「お互い様なのだ」という意識を持たせることができます。また、部下に子どもが生まれた時は、なるべく職場に連れてきて、同僚に抱っこさせるように勧めています。自分の知らない子どもが熱を出したと言われても、「また仕事を押し付けられる」としか思いませんが、自分の腕に感触が残っている子どもであれば、「ああ、あの子が熱出しているなんてかわいそう。早く帰ってあげて。」という気持ちになります。つまり、「配慮」は必要ですが、「配慮のし過ぎ」は同僚にとっても、また、キャリアアップを目指す本人にとってもいいことではありません。本人が十分に働けるようになってから、会社に「貢献」しようと思える社員を育てるには、「(突発的であろうと)必要な時に支援」することです。そのためには、「プライベートを会社に持ち込み」、日頃からコミュニケーションで部下の状況を知っておくべきです。来週あたり体調の悪い社員が出そうだとわかれば、緊急でない仕事は後回しにするなどして事前に準備ができ、突発的な欠席にも余裕を持って対処ができます。こうすれば、病気が他の社員にうつることもなく被害が最小限で済み、しかも休んだ社員は感謝の気持ちで働くことができます。
ダイバーシティは「良かった作り」です。障がい者の職場を担当した際に、こんな当たり前の仕事なのに「仕事ができてうれしい、ありがとう」と言われたことに感動した経験から、「ありがとう」探しを始めたところ、職場の雰囲気がとても明るくなりました。また、父の介護の経験から、「何もできなくなる」のではなく、「その時できること」を探して父にやってもらい(買い物など)、「ありがとう」と言うことによって、その場が明るくなることを知りました。ワーク・ライフ・バランスは、そのような「周りを照らすことができる」人間をつくりだす「幸せの道しるべ」なのです。