患者さんのための総合診療

医員

森 充広   

岐阜大学(2016年卒業)

「医療のために患者さんがあるのではなく、患者さんのために医療がある」
総合診療医をやっていて一番に思うこと。
「医師という仕事を通して人間として成長したい」
自分自身いつも考えていること。

実は、学生時代と初期研修の最初まで、私は外科志望で、脳神経外科、耳鼻咽喉科を目指していました。きっかけは、初期研修医時代の一人の患者さんでした。その時感じた何かもやもやとしたことを、全人的に人を診ることを専門にしている総合診療医なら解決できるのではないかと思い、総合診療医を目指すようになりました。

現在、総合診療専門研修の3年目で、岐阜県の北部にある南高山地域医療センターに勤務しています。南高山地域には3つの診療所があり、さらに僻地の出張診療所もあります。それらの診療所を順にローテートしながら外来や訪問診療を行っています。
1日の流れは、午前が診療所での外来、午後が往診(在宅診療)というパターンが主なものです。基本的に無床の診療所で、一人で診療を行っています。診療所のスタッフはベテランが多く人口が少ない地域なので、すべての患者さんの名前・住所や家族構成もわかっていて、アットホームな感じです。患者さんは、スタッフの親戚や優しい飛騨のおじいちゃんおばあちゃんたちです。
行っていることは漫画の「Dr.コトー診療所」の医師のようなイメージに近いのではないかなと思いますが、医療ドラマだと救急の場面ばかりが映像化されていますが、実際はその対極です。人間である限り致死率は100%なので、最期をどうやって迎えるかというところを大切に考えています。私が診ている南高山地域の方たちは最期まで自宅で過ごしたい方が多く、病院に行って頑張って最期まで治療を受けたいという方は少ないです。患者さんから本人らしさの部分を対話して聴き出したり、それが難しい場合には患者さんの生き方や考え方を家族から聴いて一緒に最期の看取りの方針を決めたりすることが総合診療医の魅力であり、能力が問われるところです。

医学生の間は、病気を医学の科学的な部分に注視して学ぶ機会が多いと思います。そういった科学的によしとされていることを全部、患者さんにしてあげることが果たして患者さんにとって幸せなのかと言うと、それは別問題です。その患者さん一人一人に寄り添って、地域や家族も含めてその人を診て、本人が望むような価値観や今までのライフスタイルに合った医療を提供することが、総合診療の一部なのかなと思います。
総合診療専門医というのは、患者さんを生まれてから亡くなるまで全人的に診ることを目指している専門医です。医学生の間は多くの時間を科学的な医学の勉強に充てていると思うので、医学生の時に総合診療専門医を目指すことは稀なことかと思います。ただ、臨床実習や臨床研修に出て、いざ人に触れてみたら、その科学的なことだけの医療に何か違和感がある瞬間というのがきっと多くの医師にあると思います。
そういった違和感をどう解消、解決していくかというところは総合診療専門医が得意にしている部分になるので、違和感を覚えて、それをもっと突き詰めたいという気持ちがあった時には、是非、見学もしくは臨床実習・地域医療研修で総合診療専門医の働き方を見てもらい、興味を持ってもらえたら総合診療専門医を目指してもらえたらと思っています。