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タ イ ト ル 更新年月日
バラが売れない 2016/12/15
岐阜県の鉢物生産の課題 2016/11/28
岐阜柿の新ブランド「天下富舞」が2個32万円 2016/11/21
国際バラとガーデニングショウでの日本ばら切花協会品評会 2016/07/26
植物と語る能力と植物工場 2016/06/23
生産技術向上と品質向上 2016/06/14
バラは本当に心を満足させるのか? 2016/05/21
園芸学研究のあり方 2016/05/09
花き業界の課題−生産業界と販売業界の連携− 2016/04/22
生産者にとっての生産と販売の分業化の難しさ 2016/04/04
女性が好きなバラが売られていない!(花色編) 2016/03/24
花き産業は物販業ではなく「サービス業」と認識すべし! 2016/03/14
景気低迷の中でのユニバーサルスタジオ・ジャパンの戦略 2016/03/10
景気低迷の中での東京ディズニーリゾートの戦略 2016/02/25
花市場・仲卸の役割 2016/02/19
旅行業界は何をしてきたのか? 2016/02/12
温泉一泊旅行はなぜ不景気に強い? 2016/02/03
景気が悪いから花は売れない?
 −景気に左右されない業界はある−
2016/01/25
景気が悪いから花は売れない?
 −花業界以外の産業を分析する−
2016/01/13
景気が悪いから花は売れない?
 −景気の低迷と花の販売額の推移−
2016/01/04
2016年を迎えて 2016/01/01
2015年を迎えて 2014/01/04

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★バラが売れない (2016/12/15)

 バラの生産者から相談を受けました。「バラが売れなくなった。バラを売れるようにするために生産コストの削減を一層取り組んで、低価格でも売れるようにすることを考えている。」
 確かに、最もバラが売れた1999年は5億3,517万本が流通していましたが、2014年は3億4,179万本となり、国内のバラ流通量は36%減少しています。この数値を見る限りは「バラは売れなくなって」おり、これを打開するためには低価格での販売も一つの方策かもしれません。
 世界のバラの流通量を見てみると、アメリカでは16億本を超えており、アメリカの切り花流通量の46%を占めています。同様にヨーロッパでも切り花総流通量の38%をバラが占めています。これに対して日本のバラの占有割合は8%に過ぎず、キク(24%)・カーネーション(11%)の後塵を拝している状況です。世界の切り花流通の状況を見る限り、バラは圧倒的な地位を確保しているのに対して、日本ではバラは情けない状況となっています。
 「低価格であればバラは売れるようになる」のでしょうか?バラは世界中で人気の切り花で、その高級感から「花の女王」と呼ばれています。女王様の価格が安くなると良く売れるのでしょうか?お歳暮の主役だったシンビジウムの価格が安くなった結果、良く売れるようになったでしょうか?
 ましてや、バラ生産は高度環境制御が進んだ生産体系が整っており、重装備の生産施設では低価格のバラ生産は極めて難しく、低価格大量生産を目指して崩壊したオランダのバラ生産の二の舞を演ずることになりかねません。
 「花の女王」であれば、その様々な魅力をアピールし続けることこそ重要であると考えます。「女王様」には、清純な女王様もいれば、小悪魔的な女王もいます。毅然とした女王様、豪華絢爛な、清楚な、香り高い、華やかな女王様もいるでしょう。
 最近の花き市場で販売されているバラの上位10品種を見ると、第5位のイブピアジェだけが異色である以外はいずれも高芯咲きで、色が違うだけで印象は同じように思えます。
 雪の女王“アナ”だけでは飽きられて購買意欲が低下し、現在の日本国内のバラ消費の低迷を招いているのではないでしょうか。


★岐阜県の鉢物生産の課題 (2016/11/28)

 高度経済成長からバブル景気にかけての時代に、岐阜県の鉢物生産は大きく成長を遂げました。底面給水とプールベンチ生産システムが生み出した大量生産の低価格鉢物市場を作り上げ、シクラメンやシンビジウムに代表される高級志向の高品質な鉢物との二極化時代を生み出して市場を席巻しました。なかでも、1990年の大阪花博を契機として巻き起こったガーデニングブームや寄せ植えブームの追風を受けて、センスの良い低価格の規格商品は寄せ植え素材として高い評価を受け、生産が追いつかない状況となりました。【PDF file】
 しかし、バブルの崩壊と景気の低迷に伴って高級志向の高品質な鉢物生産の販売が低迷し始め、ガーデニングブームが2002年を境に終焉すると【PDF file】、鉢物業界はそれまでの急成長の時代から2004年をピークに低下し始めました。なかでも岐阜県の低下の割合は大きく、愛知・埼玉・静岡の減少率が70〜75%前後であるのに対して、岐阜県は56%と半減しています。【PDF file】
 園芸店は販売額が下がるとロス率を考えて仕入れを抑え始めます。園芸店の店頭から感動をおぼえる商品がなくなり、普及品ばかりが店頭に並ぶ園芸店からはワクワクさせるような園芸の魅力がなくなり、客足が遠のくという悪循環を招きました。この悪循環を回避するために、そして来客数の減少による販売額の減少を回避するために客単価を上げる必要に迫られ、一定以上の価格帯の商品を選んで仕入れを行い始めました。
 愛知や埼玉は以前から大鉢生産の傾向があり、職人の技術に基づく高品質鉢物を生産する風土があったのに対して、岐阜県は大量消費の流れに乗って急成長した産地であったために、低価格大量普及品生産の枠から抜け出ることができず、一人負けの状況となっています。岐阜県の鉢物生産は、園芸業界の大きな流れに付いていくことが出来ず、2022年には静岡県に抜かれて第4位の生産県になる可能性も高まっています。【PDF file】
 岐阜県の鉢物業界は迷っているのではないでしょうか。景気が低迷しているから生産コストの削減を一層取り組んで低価格でも売れる商品を生産するという流れはトレンドではありません。もうそろそろ原点に立ち返ってみてはどうでしょうか。消費者が求める鉢物の魅力とは何でしょうか?園芸店が活気づく鉢物の魅力とは何でしょうか?
 もう大量消費の時代ではないとは判ってはいるものの、手をかけて匠の技を注ぎ込みたいが手間に見合った価格が取れない。流行を作りたいが足腰が弱まり、その力が出てこない。
 しかし、後継者が育っている産地だからこそ、今、戦略を練り直す好機であると思います。岐阜花き流通センターの起死回生を期待しています。


★岐阜柿の新ブランド「天下富舞」が2個32万円 (2016/11/21)

 10月29日の岐阜新聞で岐阜県育成の柿新品種「ねおスイート」の特選果実「天下富舞」が2個32万円の価格がついたと報道されました(pdf file)。
 岐阜県は富有柿が主体で、早生の松本早生富有を含めて11〜12月が収穫期で収穫作業が集中することから、10月中に収穫できる品種の開発が望まれていました。「ねおスイート」は糖度が20度以上と高く、今後の柿の消費拡大に期待が持たれています。その中でも特選果実は「天下富舞」と命名され、糖度25度以上と格段に甘いことが特徴です。
 全国的の柿の出荷量の変化をみると(pdf file)、1982年がピークで25万5000tでしたが2015年は19万8600tと減少しており、減少割合は78%程度となっています。これに対して、岐阜県の柿出荷量は1983年の2万8550tをピークに年々急減しており、2015年は1万3700t(48%)と半減し、1983年の全国第2位の生産県から第4位に陥落しています。
 この間に急速に出荷量を伸ばしてきたのが和歌山県と奈良県です。和歌山県は刀根早生などの脱渋柿が主体の生産県で、奈良県は富有などの甘柿と刀根早生などの脱渋柿が半々の生産県です。これらの県はいずれも1997年頃まで出荷量を年々増加させており、全国で消費される柿の4割近くを出荷する産地です。
 和歌山・奈良・福岡・岐阜の各県におけるピークの出荷量と2015年の出荷量の割合をみると、和歌山74%、奈良90%、福岡62%、岐阜48%となっています。減少率の大きい福岡県と岐阜県は、いずれも富有を中心とする甘柿生産県であるのに対して、減少率が低い和歌山は刀根早生などを中心とする脱渋柿、奈良は甘柿と脱渋柿が半々の生産県です。
 このように考えると、全国的な柿の嗜好は甘柿から脱渋柿に変化していると考えます。脱渋柿の特徴として、種なしの品種であることと、食味の柔らかさがあります。
 岐阜県人は「柿は固いのが美味しい」と思っていますが、全国的には「柔らかい柿」が好まれているようです。そして、「種子がない」食べやすさも重要な嗜好と考えられます。
 「ねおスイート(天下富舞)」の特徴は「20度(25度)を超える高い糖度」で、「甘い柿」が育種のキーワードになっています。花き業界では嗜好調査に基づかないで、研究員の勝手な思い込みによる育種方針が産地の減少を招いている事例もみられます。おそらく岐阜県の研究機関では柿の嗜好調査に基づいて育種が行われていると思いますが、柿の嗜好性として「甘い柿」の選択割合がどの程度あったのか是非聞いてみたいところです。
 「ねおスイート(天下富舞)」は今後高い評価が続いて、岐阜県の柿生産の反転攻勢を支えていくことができるのでしょうか? 楽しみにしています。
 蛇足ですが、私は10月収穫の柿であれば“サクサク食感でジューシー”な「太秋」の方が好みですけど・・・。


★国際バラとガーデニングショウでの日本ばら切花協会品評会 (2016/07/26)

 1999年以来毎年西武ドームで開催されている国際バラとガーデニングショウ。毎年20万人を超える「バラ好き」が集まる一大祭典で、日本ばら切花協会が主催する「日本ばら切花品評会」が開催されました。
 切り花生産組織が開催する品評会は全国各地で毎年開催されており、農林水産大臣賞(金賞)・県知事賞(銀賞)・生産団体協会長賞(銅賞)・・・などが授与されます。当然、農林水産大臣賞を受賞することは生産者にとって極めて栄誉なことで、Facebookなどでも「農林水産大臣賞受賞」等の記事に対して「おめでとう。すばらしい!」といったコメントが寄せられます。
 しかし、私は何か違和感を感じながらこれらの品評会に参加していました。この品評会は誰のための品評会なんだろうか?
 各地で開催されている切り花品評会の審査基準を見ると、「品質が良好であること」、「草姿、花形、茎葉のバランス」、「病害虫の有無」が必ず上位に掲げられています。
 「品質が良好であること」は何を基準に審査するのでしょうか?これまでの品評会を見ていると、どうも「花き市場に出荷した時に高価格で販売される」切り花を「高品質」と評価されているように感じます。従って、品評会に出品されている切り花の多くが「開花前の状態」で収穫されたものが多く、審査員にも花き市場関係者が多く選ばれています。開催場所も花き市場あるいは各県の試験場や農協の会議室などで開催されており、花の愛好者や一般の消費者が集う場所では開催されません。
 これまで「生産者?花き市場」と「販売店?購入者」の間では密接な情報交換が行われていましたが、生産者と販売店あるいは生産と購入者との間の情報交換は希薄だったと感じています。
 5月に開催された国際バラとガーデニングショウでの日本ばら切花協会品評会では審査にあたって「バラ好きの購入者の視点を充分に加味して褒賞選考を行いましょう」との観点で選考を行いました。
 全国各地で開催されている切り花品評会についても「誰のための品評会なのか?」、「品評会の目的は何か?」を今一度再考し、開催場所、審査員、出品基準を考え直す時期に来ているのではないでしょうか。


★植物と語る能力と植物工場 (2016/06/23)

 経済産業省と農林水産省の後押しで再来した第3次植物工場ブーム。
 私が30歳の若かりし頃の1980年代に第1次植物工場ブームがあり、日立製作所基礎研究所の高辻正基氏や千葉大学園芸学部の古在豊樹氏らがリードして植物工場ブームを盛り上げました。当時の岐阜大学農学部でも植物工場研究を進めるために生物生産制御学講座が設置され、私もその一員として関与したことから、千葉・船橋のダイエーららぽーと店の「バイオファーム」やJR大崎駅の高架下のレタス工場、JR札幌苗穂工場、福岡県の個人の植物工場などを視察した記憶があります。いずれも高圧ナトリウムランプなどを用いた完全制御型植物工場でしたが、採算性の問題から急速に下火となり、「太陽光併用型植物工場」という変な名前で呼ばれた環境制御による施設園芸へと変遷していきました。
 2009年頃から経済産業省や農林水産省の補助事業の基で、再び植物工場がもてはやされていますが、1980年代の第1次、1990年代の第2次ブームの頃と何が変わっているのでしょうか?冷房設備の効率向上とLEDの開発はありましたが、結局採算性と販売先の課題が解決せず、再び同じことを繰り返しそうな気配です。
 当時と大きく異なるのは、コンピュータの著しい発達によって温度・湿度・日射量・養液組成などの栽培環境を複合的に高度制御可能となったことを挙げることができます。植物の成長に最適な環境制御を行うことで最大の成長量を確保出来、生産の効率化を最大限に発揮でき、専門的な知識や技術・経験がなくても「誰でも植物工場の経営が可能」との謳い文句から、異業種の企業が植物工場に参入しています。
 怖いですねぇ。農業はそれほど甘くない!という感想を私は持っています。
 レタスは植物の中で栄養成長しか考えなくても良い比較的簡単な作物ですが、それでもなかなか思うようには生産効率を上げることができていません。工学的な「ものづくり」の観点では、理想の条件さえ設定すれば必ず同じものが生産できるはずですが、「生き物」を扱う農業では必ずしも簡単にはいきません。栽培室全体では同じ環境に見えても、チョットした照度の違いや風の当たり方、ランプからの熱放射など、微細な条件変化に対して植物は的確に反応し、「私は同じじゃないよッ」と主張してきます。
 経験豊富な篤農家は作物一つずつに気を配り、「機嫌が悪そうだね」と対話をしながら栽培条件を調整しています。ましてやトマトのように栄養成長と生殖成長が並行して行われる果菜類では、まさに植物体との対話能力が大きく問われます。
「植物との対話?」植物は何も語ってくれません。茎の太さや葉のしな垂れ角度、節間の長さ、花の形態・・・、様々な状態を総合的に複合的に判断して植物の状態を推測すること、このことこそが「植物との対話」です。「Integrated Plant Growth Management」
 農業は「ものづくり」ではありません。植物を育成する産業です。
 『工業の技術・知識を駆使すれば、農業はたやすい!』、『フリーターの若者や余剰労働力を農業に従事!』
 「農業は頭を使わない体力勝負の産業」と思われているのでしょうか?このような発想でいる限り、植物工場は間違いなく破綻するでしょうねぇ。
 高度専門職業人を教育する大学でも「植物と対話できる能力」を教えることが重要になってきていると思います。


★生産技術向上と品質向上 (2016/06/14)

 都道府県の試験研究機関の研究員の中には生産技術指導に力を発揮し、産地育成に大きな成果を挙げておられる方がみえます。生産技術向上によって、産地の収量がアップし、品質向上が図られた事例は至る所で見ることが出来、生産指導に携わる研究員は、産地から「神様」と尊敬されています。しかし、そのような研究員が退職後に第二の人生として「生産農家」を選択された時に、思うような成果を出すことができず、現役時代の輝かしい業績に曇りが見えることがあります。何故そのようなことが起きるのでしょうか。
 生産技術の向上は「自己完結型の取り組み」であり、植物との対話の中で収量の向上を図ることができます。これに対して販売価格の向上には価格を決定する相手(人)がおり、価格は品質によって大きく変動します。「品質」の判定基準が一定であった時には、求められる品質の生産物の生産に取り組めば良いのですが、需要に応じて求められる品質が異なる場合には大きな問題が発生します。
 生産者にとって「生産技術」は「品質向上のための技術の一つ」であるはずなのに、「生産技術」を向上させれば自動的に「品質も向上する」と錯覚しがちな所にあります。価格の向上に結びつく「品質」には、誰が求めるどのような品質か?が重要となります。
 高度経済成長の時代は「重・厚・長・大」が価値判断の基準でした。年配の方は覚えておられるでしょうか。昭和42年(1967年)の森永エールチョコレートのCM「大きいことはいいことだ!」。バラで言えば「70cm以上の長い切り花で、花径が大きい切りバラが良い品質」で、このような切り花をいかに多く収穫できるかが重要。まさに「エクアドルのバラ」が高品質なバラです。キクで言えば切り花長の長い、重量の重い切り花のキク」が高品質な切り花です。
 しかし、文化成熟度が高くなってくると価値観の多様化が進み、しな垂れて咲くオールドローズ、ブーケに使うのだから短くても香りの良い切りバラ、フルブルームのキク・・など、ワンパターンの価値観ではない需要が生まれてきます。とは言っても、「重・厚・長・大」の需要もあります。
 ここで重要なことは『「自分が目指すバラ」の需要がどこにあるか』ということであり、「需用者は何を求めているのか」を正確に把握することです。イベントで必要な一定の長さの切りバラの場合には「規格が揃った一定以上のロット(量・本数)」が要求されます。生産面積が小さくて少量多品種を生産する場合には、このような需用者の要望に合わせた「70cm以上の長い切り花で、花径が大きい切りバラ」を生産しても、ロットの需要を満たすことができず、低い評価(低価格)しか得られません。
 一方、ブーケに使う「短くても香りの良いバラ」は販売価格は高いものの、生花店1軒あたりの需要数は小さく、広範囲に需用者(生花店)を開拓して提携する必要があります。当然、このような需用者は品種にもこだわります。多品種を生産しながら、一定数の切り花をコンスタントに収穫し続ける高度な生産技術が要求されます。
 『園芸は作ってナンボではなく、売ってナンボ!』
 自己満足の「生産技術の向上」ではなく、経営者として「生産技術の向上」と「品質の向上」を両立させることを目指しましょう。


★バラは本当に心を満足させるのか? (2016/05/21)

 女性がもらってうれしい花のトップはバラです。しかし、男性からバラの花束をもらった女性の全てが満面の笑みを見せてくれるでしょうか?
 2010年に始まったフラワーバレンタインの昔のポスターを見ていて私は違和感がありました。それは男性が女性に贈っているバラがいずれも「赤いバラ」だったからです。確かにMr.フラワーバレンタインの三浦知良さんが持つ花束は「赤いバラ」がピッタリかもしれませんが、バレンタインデーは三浦知良さんのための日ではなく「花をもらう女性」が主役の日です。
 岐阜大学で実施した全国5,343人の女性に対する「バラの花型と花色に対する印象アンケート調査」結果から【pdf】、女性が好きなバラの花の色は赤色ではありません。赤いバラの花言葉は「熱烈な恋」や「情熱」ですが、女性が赤いバラに抱く印象は「濃厚な」や「ダイナミックな」、「派手な」といった用語が選択されており、バレンタインデーで男性から女性へのメッセージを伝える花としては必ずしも適切ではありません。
 「ピンク色のバラ」が好きな女性が「赤いバラ」をもらった時に、どのように感じるでしょうか?「ベージュ(赤茶色)のバラ」が好きな女性は「赤いバラ」を贈る男性に対して「ダサい男!」と感じて逆効果になるかもしれません。バラは贈る人のための花ではなく、「もらう人のための花」です。もらった人がうれしいと思うバラを贈ることで感動が生まれ、バラの消費が向上すると思います。
 女性が好むバラの色は人によってまちまちです。淡いピンク色のバラを好む人、黄色のバラを好む人、白色のバラが好きな人、ベージュのバラに魅力を感じる人。人によって異なるバラの色の好みをどのように判断すれば良いのでしょうか。
 花色と花型の異なる74種類のバラの写真を見た印象を言葉で表現してもらいました。「カジュアルな」や「陽気な」バラは黄色やオレンジ色のバラが該当し、「上品な」や「さわやかな」バラは白色のバラが、「刺激的な」や「濃厚な」バラは赤色や濃赤色のバラが、「女性的な」や「カワイイ」バラは淡いピンク色のバラが該当しました。
 別の表現をすれば、「陽気な女性」はオレンジ色や黄色のバラが好きで、「カワイイ女性」はピンク色のバラが好きです。女性の性格や雰囲気に合わせたバラを選択することで、バラの花束をもらった女性が喜んでもらえます。


★園芸学研究のあり方 (2016/05/09)

 数十年前までは、農学部と理学部との間には棲み分けがありました。理学部は科学理念を探求するのに対して、農学部では産業への貢献を主眼とした研究が行われていました。私は岐阜大学教育学部生物学科を卒業したこともあって、どちらかといえば理学部的な研究を目指していた時期がありました。北海道大学農学部の恩師である田村勉教授から「君は植物ホルモンの生理作用に興味があるようだから、博士課程は理学部に進学したらどうか?」と言われました。『農学部に進学したい』と答えると、「リンゴを研究している意味をよく考えなさい。リンゴの研究をしていると言うことは、リンゴの農家のために研究をしていることを認識しなさい」と言われて気が付きました。
 この20年間で分子生物学に関する研究が急速に進み、理学部と農学部での研究の区別が付きにくくなっているように感じます。私の所属する園芸学会でも、なにがしかDNAに関わる実験を組み込まないと論文になりにくく、ましてや栽培技術の開発に関する論文は極めて稀になってしまいました。
 当然のことですが、研究にも流行り廃りがあります。30年前は猫も杓子も組織培養、バイオテクノロジーがもてはやされました。理学部と農学部での研究の区別が付きにくくなってきたのはこの頃からでしょうか。
 分子生物学の研究は日進月歩で、世界での競争に勝つための研究が優先されます。当然、遺伝子解析が難しく成果の出にくい園芸品種に比べて、野生種は遺伝子解析が容易なため、園芸学研究者であっても園芸品種ではなく野生種を材料として研究が進められています。園芸学研究者の中には「植物の基本は野生種も園芸品種も同じ」と考える人達も見られ始め、園芸品種を使いたくない園芸学研究者が増えてきています。
 私のような古い園芸学研究者は野生種を育種材料として評価しますが、彼らは野生種をDNA解析対象としてしか見られないようです。
 分子生物学の研究は確かにトレンドですし、研究機材の進歩も相まって、実験室レベルでの人海戦術を駆使して研究論文を書くことができます。しかし、画期的な研究成果はそれほど多くなく、ややもすれば重箱の隅をつつく研究が増えてきています。本来は、研究成果の現場への落としどころを明確にもつことが研究者として重要ですが、研究成果についても「誰かが実用化を図ってくれるはず」といった姿勢がみられます。また、管理職研究者も研究の目的や落とし所を評価できず、論文数のみを研究能力の指標と考え、応用研究としての現実性についての評価ができなくなっています。
 園芸学研究者の中には、生産現場での栽培指導ができない研究者が増え始め、生産現場に出向くことなく、研究室から一歩も出ないで研究生活のほとんどを過ごす園芸学研究者もみられます。
 園芸学研究者は、生産現場に毎月1回は出掛けるべきです。生産現場との強い人間関係のもと、全面的協力関係を持つ生産地があるくらいの生産現場との強い関係を確保するべきです。
 だれにも負けない園芸学研究とは何か?生産現場に直結した園芸学研究こそ、真の園芸学研究であると考えます。


★花き業界の課題−生産業界と販売業界の連携− (2016/04/22)

 生産業界と販売業界の連携ができていないことが花き業界の大きな課題です。その原因は、花き生産業界が農水省管轄であるのに対して、販売業界は経済産業省の管轄にあることです。このことは都道府県でもそのまま現れており、例えば岐阜県では農政部と商工労働部に分かれており、補助金などの施策にも反映されています。花き業界の発展という観点から見ると、このことは決して良い状況であるとは言えません。
 歴史的に見ると、生産業界と販売業界の分離は花き市場で見られ始めました。私が花き業界に足を踏み入れた30年程前は生産者は零細で、花き市場の競り価格に一喜一憂しており、心ある生産者は価格の安定を求めて販売店との直接取引を模索し始めました。花き市場は10%の流通手数料で経営が成り立っている業界ですので、当然のことながら直接取引が始まると手数料収入がなくなります。これを避ける目的で市場に出荷する生産者と購入する販売店を別々に組織化し、両者が顔を合わせる機会を避けるようにしてきました。そして、直接取引を行う生産者には圧力をかけてこれを排除することも行われていました。
 1995年頃から量販店が花き園芸販売を強化し始めたことを受けて、大規模花苗生産者が量販店との直接取引を始めました。これと時を同じくして日本の花き生産額は1998年から急激に減少し始め、流通手数料で成り立っている花き市場の経営が厳しくなり始めました。これらのことを受けて花き市場は、経営目標を「取り扱い数量」から「単価の維持」に舵を切り替え始めました。高単価を生み出すためには販売店の意向を的確に生産者に伝える必要が生じたことから営業力の強化を図ると共に、信頼の置ける生産者に対しては積極的に販売店との接点を設ける取り組みを始め、花き市場主催のトレードフェアなどが開催されています。また、現在では生産者からの要求があればその商品を購入した販売店を公開する取り組みも行われています。
 一方、都道府県の花き業界に対する対応は、現在でも生産体制の強化に重きが置かれているのが現状です。高品質な花を安定して生産できる体制の確保は何を差し置いても原点であることは事実です。しかし、「高品質な花」の価値観が消費ニーズとズレていた時には大きな問題となります。
 花き産業に携わる都道府県職員の多くは「農学職」で採用された方が多く、いわゆる理系の大学卒です。彼らにとって社会科学系のマーケティングは専門外の分野であり、大学では経営学に分類されるマーケティングをほとんど学んだ経験がありません。また、教育を受けた理系の研究者(大学の先生)は社会科学に興味がなく、一部の研究者に至っては「社会科学はサイエンスではない」といった偏見もあり、このような教育を受けた農学職の都道府県職員にとってはマーケティング分野の仕事はアンタッチャブルな分野なのかもしれません。
 このことは流通販売業界を支える経営学などの社会科学系の研究者にも同じことが言えます。社会科学系の研究者の口からは「生産技術は専門外なので良く判らない。できれば避けて通りたい。」といった言葉も聞かれます。
 これからの花き産業の発展を考える上で、マーケティングは極めて重要な課題です。社会科学を専門とする職員が生産者に技術指導をすることに比べると、生産される花のことを良く知っている農学職の職員がマーケティングを学んで消費ニーズを分析することの方が、越えるべきハードルは低いように思います。ある程度の年齢を重ねて花き業界のことが理解できる都道府県の職員が改めてマーケティング分野を学び理解することで、生産・流通・販売の業界の連携を統率できる職員を養成できると思います。是非とも、このような職員の育成を考えていただきたいと思います。


★生産者にとっての生産と販売の分業化の難しさ (2016/04/04)

 最近生産者との会話の中でよくでてくる内容です。「息子は売ることには一生懸命になるが、もっと生産技術の向上に一生懸命になって欲しい。」
 後継者が販売に力を入れる理由はよく理解できます。後継者の人達はSNSやオフ会などで販売店の方達との交流を積極的に行い、情報交換をしています。その中で、販売側のニーズをかなり的確に把握しているからこそ、市場に一切を委ねた販売ではなく、販売側への情報提供の重要性を理解しています。一方、市場も注文取引やネットでの事前販売に力を入れて、ニーズに応じた着実な販売を推進してきており、同じ1,000本のバラを出荷しても注文取引での価格と競売価格では天と地との格差が出てきます。当然、「いかに注文を取れるか」で大きな収益差が出てくることから、『売ること』に力を注ぎたくなるのは当然のことと言えるでしょう。
 一方父親にとっては、「俺が温室を見ているからこそ出来ることで、俺もそう現役で長く続けられるわけではないので、そろそろ栽培管理のことも学んでくれないと」という気持ちがあります。また、「家のことを顧みないで出歩いている(遊んでいる?)」というヤッカミもあるかもしれません。さらに、作れば売れた高度経済成長期には農協や市場が適切に営業活動を分担してくれましたし、高品質な切り花とは「長尺物のバラ」という単純な価値観で評価されていたことから、とにかく「長いバラをいかに本数を多く収穫するか」ということに全力を投入していれば良かった時期でもありましたので、自ら営業することに対して違和感があるのでしょう。
 1998年以降の花き園芸業界の長期低落時代を経て、業界自体が大きく変化しました。業務ユース(仕事花)が減少して個人消費に頼らざるを得なくなったことで、「長尺物のバラ」といった単一な品質評価が出来なくなり、消費ニーズが多様化しました。
 花き市場はそのことに気が付いているのですが、いまだにバブル期の品質評価基準である『長さ=高品質』という基準から抜け出せていません。その理由として、取扱金額が年々減少して収益性が低下している中では、市場管理システムの大幅な変更を伴う価格評価基準の変更は体力的に不可能であり、一市場で対応できることではないという思いもあります。また、花き市場の経営状態の格差も生まれているため、日本花き卸売市場協会としても前向きに取り組むことが出来ない状況です。
 その結果として、生産者にとって最も影響の大きい「市場価格」が販売店のニーズと乖離した状況となっており、正当な価値評価を求めて「生産者と販売店の直接相対」による注文志向に移行していると考えます。
 後継者達は市場主催のトレードフェアにも積極的に出品して、自分の花の評価を直接聞くことで近い将来の商品開発を考えているものと思います。しかし、生産者の原点は「商品性の高い花を想定通りに生産すること」であるのは間違いありません。
 そろそろ全てを一人でまかなう『農家』から『経営者』へと変化しなければいけない時期なのかもしれません。
 生産者の皆さん。法人化を考えてみましょう。法人の中での役割分担として、営業部長と生産工場長の分業化が必要なのではないでしょうか。


★女性が好きなバラが売られていない!(花色編) (2016/03/24)

 全国5,343人の女性に対する「バラの花型と花色に対する印象アンケート調査」を行いました。「高芯丸弁、半八重、カップ・クォーター、波弁」の4種類の花型タイプと、「赤色、淡ピンク色、白色、黄色、淡茶色(ベージュ)」の5種類の花色タイプのバラを選択して、写真一覧【pdf】を作成し、これら20種類のバラの写真の中から好きな花を1位から3位まで選択してもらいました。1位のバラには「3点」、2位のバラには「2点」、3位のバラには「1点」として得点を総計し、得点割合として集計しました。
 得点第1位は「淡ピンク色」で31.3%、2位が「淡茶色(ベージュ)」で19.3%、3位が「赤色」で18.8%、4位が「白色」で17.8%、5位は「黄色」の12.8%でした。年代によって花色の嗜好性はやや異なり、年齢が高くなると「赤色」の嗜好性が高まり、30〜40歳代の女性は「淡茶色(ベージュ)」の嗜好性が有意に高くなりました。
では、花き市場で流通しているバラの花色割合を見てみましょう【pdf】。大田花き、名港フラワーブリッジ、なにわ花市場の2015年の取扱量のなかで、最も多かったのはピンク色のバラで36.8%を占めていました。2位は黄色・オレンジ色で21.5%、3位は赤色の19.5%、4位が白色で14.5%となり、藤色・緑色・赤茶色(ベージュ)はいずれも一桁で、赤茶色(ベージュ)の占有率は1.6%でほとんど売られていませんでした。
 ピンク色のバラは市場で流通しているバラの1/3を占めており、花色嗜好調査結果でも同様の割合を示していました。しかし、嗜好調査で19.3%と2位であった「赤茶色(ベージュ)」のバラは市場ではほとんど販売されていません。これに対して、5色のなかで最も嗜好性が低かった黄色のバラは市場では21.5%と第2位でした。
 この結果をどのように思いますか?消費者と連携を密に取っている生花店では「赤茶色(ベージュ)のバラは売れると思います!」と言っていましたが、市場ではほとんど流通していません。
 生産者が「赤茶色(ベージュ)のバラは売れないと思って生産していない」のでしょうか?それとも、生産者から相談された花き市場担当者が「赤茶色(ベージュ)のバラは売れないからやめた方が良いと指示している」のでしょうか?種苗会社(育種会社)が「赤茶色(ベージュ)のバラは売れないから育種していない」からなのでしょうか?
 市場で流通しているバラの花色割合は何を根拠に、誰が決めているのでしょうか?もし誰もコントロールしていないとしたら、これはもっと大きな問題です。消費者の嗜好性と全く異なる商品を生産している業界に明日はありません。
 赤茶色(ベージュ)のバラを買いたいと思って生花店を訪れた女性は、店頭に「赤茶色(ベージュ)のバラ」がないので、代わりにトルコキキョウを買ったかもしれません。生花店を訪れた女性が「赤茶色(ベージュ)のバラがないので、花を買うことをやめた」かもしれません。
 種苗会社の育種担当者が勝手な思い込みで育種する。生産者が自分の好みで生産品種を決める。過去に売れていた花をこれからも売れると思い込む。欲しいと言われても今手元にはこれしかないとうそぶく。客の好みなんか一人一人違うので良く分からないと無視する。
 花き業界としてこのような対応を続ける限り、花き産業に将来はないと思います。消費ニーズを正確に把握し、それに適切に対応して商品を提供する。このことは食品産業界などでは当然のこととして対応しているのではないでしょうか。


★花き産業は物販業ではなく「サービス業」と認識すべし! (2016/03/14)

 これまでのコラムで、1998年以降の景気の低迷にもかかわらず順調な伸びを示している業界として宿泊旅行、海外旅行、ディズニーランドを示しました。同様に景気の影響を受けていない業界として自動車業界があります。【pdfファイル】
 乗用車保有台数はバブル景気の時期にはGDPデフレーター以上の伸びを示しています。しかし、GDPデフレーターが低下し始めた1998年以降も保有台数は減少することはなく、ほぼ一定で推移しています。これに軽自動車を含んだ保有台数になると、むしろ増加しています。乗用車が停滞して軽自動車が増加したのですから、景気の影響は全くないというわけではありませんが、家電製品や日用品のように販売額が減少しているわけではありません。
 車は生活に不可欠な必需品だから減らないのでしょうか?自動車業界のHPを見てみると、Fun to drive, again (TOYOTA:もう一度新しいクルマの楽しさを創造させたい。)、Be a driver (MAZDA:走る歓びを分かち合い、深い愛着を覚える。クルマは単なる道具ではない。)、The Power of Dreams (HONDA:こんなものがあったら楽しいなあ。夢は私たちを動かす大きな力。)、Innovation that excites(NISSAN:今までなかったワクワクを。)のように「車を運転する楽しさ」や「車に乗ることで生まれる夢」を強調しているのが判ります。決して『車は必需品』とは言っていません。
 車を買い換える時にはディーラーを訪問しますが、車を売ろうとはしていません。じっくりと話を聞いて、仕事や趣味の話しをしながら生活スタイルを把握し、様々な情報を基に最適な車を提案してくれます。まさに車のディーラーは車を売る「物販業」ではなく『サービス業』といえます。そして、トヨタは自動車製造会社ではなく、『車にまつわる情報提供会社』だと思います。
 宿泊旅行、海外旅行、ディズニーランド、自動車業界に共通するものは、「物」を売っているのではなく、「非日常の体験」と「感動」、「心の満足」を売る業界です。これに対して、家電製品や日用品などの「物販業界」は景気の低迷の影響を直接受けて販売額が急落しました。
 よく「花保ち向上」こそが花き産業の発展に繋がる近道ということを聞きますが、本当にそうでしょうか?「花や植物の効用」のPRが重要と言いますが、本当にそうでしょうか?
 販売しているのが「物」であれば、確かに「花保ち」は重要なファクターでしょう。しかし、誕生日に花をもらった時の感動は何物にも代えられません。結婚記念日にご主人から花をもらった奥様は満足と喜びを表現してくれるでしょう。確かに翌日以降も花が咲いている方が良いとは思いますが、それは本質ではありません。切り花であっても鉢花であっても既に「物」が残っていない半年後でも、奥様は結婚記念日にもらった花のことがしっかりと心に残っていて、「結婚記念日にお父さんから花をもらったことは一生忘れないわぁ」と言ってくれるでしょう。
 鉢花や観葉植物を「物」と考えるならば、植物の効用を脳波の変化で示す必要があるかもしれません。しかし、鉢花や観葉植物が「非日常」を体感させるアイテムであれば、脳波測定に頼らなくても実感できるはずです。それは鉢花や観葉植物が職場にあることで、植物がない職場に比べて「非日常」を毎日感じることができるからです。
 花き生産額が家電製品や日用品販売額ほどは下がっていないのは、消費者が花を「物」と見ていない側面があるからです。しかし、宿泊旅行、海外旅行、ディズニーランド、自動車業界のように景気の影響を受けない業界と比べると、明らかにGDPデフレーターを上回る低下が見られることから、花き業界が目指してきた「カジュアルフラワー」や「ホームユースフラワー」、「花を必需品に」をいうキャンペーンが「花は身近な物」という印象を生み出し、GDPデフレーターの低下以上の販売額の減少を招いたものと考えます。
 『花は必需品ではないから不景気では売れなくなる』という人がいます。そうではありません。花が必需品になると、景気の低迷の影響をまともに受けた家電製品や日用品の二の舞を演ずることになるでしょう。
 生花店や園芸店は物販業であってはいけません。花き産業は「心の豊かさ」と「感動を与える」サービス業に徹するべきです。そして、生産者、花き市場、仲卸はサービス産業を支えるために過剰なほどの情報を提供する役割を果たしましょう。


★景気低迷の中でのユニバーサルスタジオ・ジャパンの戦略 (2016/03/10)

 大阪にあるテーマパーク「ユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)」について見てみましょう【pdfファイル】。USJはGDPデフレーターの低下が顕著となった2001年に開業しました(2001年は東京ディズニーリゾート(TDR)がディズニーシーを開業した年にあたります)。USJの入場者数は開業当初は1100万人を確保しましたが、TDRとは異なり、景気低迷の影響をまともに受けてGDPデフレーターの下降曲線に従って低下しました。しかし、開業10周年(2011年)を期に子供入場無料(大人1人につき子供1人)と2012年の子供向けアトラクション「ユニバーサル・ワンダーランド」のオープンが契機となって入場者数が増加し始め、2013年に「スパイダーマン」、2014年にお馴染みの「ハリーポッター」をテーマとしたエリアがオープンして入場者数は一気に急上昇しています。この他にも「ワンピース」、「進撃の巨人」、「妖怪ウォッチ」などのアニメアトラクションを追加しています。
 USJは、当初は「西のディズニーランド」を目指して開業しました。名前の通り「映画の世界を再体験」を前面に出したのですが、TDRのようにリピート率を上げることが出来ませんでした。その理由の一つとして、大ヒットした映画に頼り切って「新たな物語」の提供がなかったことです。「映画の世界の再体験」は、映画「ジョーズ」を見た人にとっては記憶を再現できたかもしれませんが、新たな魅力を体験することは出来ず、もう一度行ってみたいというリピーターとなることはありません。話題性に飛びついたものの口コミは広がらず、次第にブームが冷めてきてしまいました。
 2011年以降の入場者の増加は、「子供連れファミリー」に明確にターゲットを合わせたことです。子連れファミリーでは子供が選択権を握ります。子供が「もう一度行ってみたい」といえば、親は必ずそれに従います。そして自分が主役になれる体感型の感動は、子供の成長に応じて感性が変化しても、彼ら自身が成長に応じた主役の立場で楽しめることから、「行くたびに楽しい」経験を積み重ねることが出来ます。
 「西のディズニーランド」を目指していた時期と「子連れファミリーをターゲット」とした2011年以降ではコンセプトが全く異なります。大人にとっては「ユニバーサル・ワンダーランド」や「ワンピース」、「妖怪ウォッチ」の魅力を子供目線で追求することは難しく、新たなコンセプトで運営がなされているものと考えます。
 バラ生産者は平均して十数品種を生産しており、ブライダルに向く特殊な品種から一般的な赤バラまで、ターゲットを絞ることなく品種を選んでいます。誰にでも合わせられるバラ生産は「○○バラ園のバラが欲しい」というニーズには繋がりません。「誰にでも合わせられる」は「誰からも欲しがられない」を意味し、開業当初のUSJと同じ運命を歩むことになります。特色を出すことはリスクを負いますが、ターゲットを絞ることで強いニーズを生み出すことが出来、コアなバラユーザーを引き付け、景気に左右されにくい強固なリピーターを確保できるものと考えます。
 20年ほど前からバラ生産者の間で広がった「少量多品種」生産は、それまでのバラユーザーの想いを満たすことが出来ず、バラの魅力を語る人達が減ったことで新たなバラユーザーを広げる力も減退し、バラの消費量が減少する現状を招いたと考えます。
 生産者一人一人がバラの魅力を追求し、バラを愛する人達を満足させ続けることこそが国内のバラの消費を増加させる最も重要な戦略であると考えます。


★景気低迷の中での東京ディズニーリゾートの戦略 (2016/02/25)

 2002年6月17日のコラムで「ディズニーランドの不思議」を述べましたが、ディズニーランドとGDPデフレーターとの関係を見てみましょう。【pdfファイル
 東京ディズニーランドはバブル景気まっただ中の1983年に開業しました。最初の年の入場者数は993万人でしたが、1986年には1067万人となり、バブル景気最終年の1991年には1614万人まで急増しました。これにはオフィシャルホテル・プログラムの導入、ビッグサンダー・マウンテンや昼夜のパレードの開設、京葉線舞浜駅の開業などの影響もありました。しかし、1991年のバブル経済の崩壊を受けて伸び悩み、2000年まで1600〜1700万人前後で推移しました。GDPデフレーターは1998年以降低下し始めて景気の悪化が顕著になり始めたのですが、東京ディズニーリゾート(TDR)は2001年にディズニーシーを開園させました。ディズニーランドとディズニーシーを合わせた入場者数は2200万人に達し、2003年以降は2500万人を超えて一定しています。2012年に強化したハロウィンなどのスペシャルイベント開催の効果は覿面で、2013年以降は3100万人を上回る入場者数です。東京都の人口が1335万人であることを考えると、これはとんでもない数値で、日本の人口1億2800万人のうち、4人に1人がTDRに行っている計算になります。
 渡邊喜一郎著「ディズニーこころをつかむ9つの秘密」によると「過剰な程の物語の提供」が重要です。TDRのレストランのお皿に『小さな宝石』が埋め込まれており、「これはなんですか?」の質問に『シンデレラ城の壁画に埋め込まれているダイヤモンドと同じものです』と言われれば、なにがしか感動をおぼえます。男性にとって「隠れミッキー探し」と言われても特に興味は感じませんが、『アッ、こんなところにミッキーが!カッワイイ〜!』と喜ぶ女性の姿は容易に想像できます。『追い切れないほど、情報をあふれさせる』という手法はとても有効です(立教大学経営学部教授・有馬賢治氏)。
 TDRの入場者は70%が女性、50%が18〜39歳で、関東地方が66%を占めています。そして、TDR入場者のリピート率が95%を超えていることも特徴です。このデータから、一度はディズニーランドに行ったことがある人数を算出すると5,000万人程度と推定され、関東地方の20歳以上の人の90%程度が一度はディズニーランドに行っていることになります。しかし、関東以外の人では一度もディズニーランドに行ったことがない人の割合は75%に達します。
 一般に考えると、入場者を増加させる対策として「一度もディズニーランドに行ったことのない人」に対するマーケティングを考えそうですが、TDRの戦略はそうではないようです。リピート率95%から判断すると、一度ディズニーランドに来てくれた人を再度来場してもらえるための取り組みに重点を置いており、初めてディズニーランドに来てくれる人達へのマーケティングは、リピーターの口コミや、彼らに同行しての入場を期待しているように感じます。
 花を一度も買ったことのない世帯の割合は50%といわれています。花き業界では「一度も花を買ったことのない人達」に『花を買ってもらう』取り組みを考えていますが、TDRの戦略を参考に考えると、別の新たな取り組みが見えてきます。「花を買ったことのある人達」は『花の魅力』をある程度理解できる人達です。この花の購入経験者を「よりコアなヘビーユーザー」に育ってもらう取り組みです。
 地方創生資金の活用方法として、各自治体のプレミアム商品券がブームになりましたが、岐阜県では「花で彩る清流の国ぎふフラワークーポン券」を発行しました。花の購入経験者にとって、お値打ちに花が購入できるフラワークーポン券の取り組みは魅力的です。間違いなく花を家の中に飾る頻度は高まり、より「花の魅力の虜」になっていくことでしょう。花の魅力の虜となった「花の購入リピーター」は近所の人達に花の魅力を口コミで広げ、若い人達にも花を勧めるようになります。
 彼らはどこの生花店・園芸店でも構わずに花を購入しているわけではありません。必ず贔屓にしている生花店・園芸店があり、「このお店は私の好みに合っている」と思っています。生花店や園芸店は「幅広い品揃えの確保」を目指すのではなく、来店する顧客の嗜好に合った「店の特色」を前面に出しましょう。「花の購入リピーター」は必ず好みが共通する仲間を誘ってくれるでしょう。まさに東京ディズニーランドの戦略です。
 花き生産者にとっても同じです。自分が生産している花がどのような場面で使われ、どのような人達によって消費されているのかを把握することは極めて重要であり、最も良くないのが「市場に出荷すれば私達の仕事は終わり」という考え方です。「どの花屋さんでも売られている花」というものは存在せず、「自分が生産した花」を販売してくれている生花店・園芸店は限定されています。生産者は、市場・仲卸・販売店までの過程をしっかり見ることで、自分の商品の特性を見極めることが可能となり、戦略が見えてきます。このことが出来ているかどうかが、これからの花き生産・経営には不可欠であると考えます。


★花市場・仲卸の役割 (2016/02/19)

 不景気にもかかわらず増加する温泉宿泊旅行業界。それに対して景気の減退と共に販売額が急落する花業界。サービス業としての花業界を目指して、生花市場、仲卸は何をするべきなのでしょう。「鮮度を維持して需要者に的確に流通させること」でしょうか?それでは物を販売する「製造販売業界」の中間流通業者であり、業界としてはGDPデフレーターの低下と共に販売額が急落した家電製品や家庭用品と同じです。サービス業としての花業界における生花市場、仲卸の役割を考えてみましょう。
 花市場・仲卸の役割は、温泉宿泊旅行業界で言えば、地域の魅力を総合的に発信する「観光協会」、あるいは独自のパッケージ旅行企画を立案してアピールする「旅行業者」の役割だと思います。
 観光協会は地域の観光資源の魅力を正確に把握し、それらを分析してジャンルごとに分類し、ターゲットを絞って発信する役割です。熟年の人達には温泉や自然の風景、若い人達に対してはカワイイ郷土民芸品の紹介、蝋燭作り・ガラス細工など体験可能な職人の店の紹介、家族連れには子供と一緒に楽しめる体験館やリゾート地の紹介などを行っており、網羅的に全ての観光資源を紹介するような取り組みは行いません。
 旅行業者は複数の観光地を連携させた旅行企画をプランニングして提案する役割です。若い女性を対象とした「パワースポット・古刹神社巡りとほっと和む温泉」や「美術館巡りとリゾートホテルで蟹フレンチ」、「春を先取り・花爛漫とバラ風呂で心のリフレッシュ」など、興味を持つジャンルごとに分類して旅行を楽しむ企画を提案します。
 地方の花市場には2種類の役割があります。地域の生産者から切り花や鉢物を集荷する役割と、近隣の生花店・園芸店に花を販売する役割です。地域の消費者の特性を住宅事情や消費動向調査結果、年齢・世帯構成、ファッション業界の流れなどから正確に把握し、ニーズの高い切り花や鉢物の種類と数量を確保することが仕事です。地域の生産者から出荷された商品が近隣の生花店や園芸店のニーズにマッチしなければ、それらを他の市場に販売することも仕事の一つです。
 すなわち、消費者ニーズを分類統合してそれに適合する販売店に企画提案する役割=旅行業者に類似した役割と、地域で生産された切り花や鉢物の魅力を的確に把握して全国に発信する役割=観光協会に類似した役割を持っています。当然、販売店の特性に応じて提案する企画は異なりますし、必要な花の種類や数量は充分に確保しなければいけません。また、出荷された花の生産情報や特性・利用法・魅力などについては、正確に豊富な情報を把握していることが重要です。
 花市場の皆さん。物の売り買いに終始していませんか?単純な品揃えと着実な販売を目標にしていませんか?それでは「物としての花」を扱っているのであって、景気の影響をまともに受ける業界になってしまいます。
 仲卸は販売店の需要に応じて的確に品揃えを行うことが仕事です。しかし、花の情報を本当に正確に豊富に理解しておられるでしょうか?「バラはこの色が売れるはず」とか、「最近この色がよく売れている」という情報で仕入れていませんか?競売に際して、その時のインスピレーションでボタンを押していませんか?
 「サービス業としての花業界」になるためには『情報の入手と分析』がすべてです。花市場も仲卸も「やっちゃ場」から「情報分析・企画センター」としての役割を重視する体質変化を求められています。根拠のない勝手な想像ではなく、豊富な情報と論理的な分析に基づいた仮説に基づいた企画提案が、生産者と販売店を活性化させることに繋がります。


★旅行業界は何をしてきたのか? (2016/02/12)

 景気の低迷にもかかわらず国内宿泊者数が増加しているのは、消費者の口コミによる自然現象でしょうか?そうではありません。
 個々の旅館は相互に競争相手であり、温泉地同士も競合関係にあります。そして旅行業者も同様です。旅館、温泉地、旅行業者それぞれが切磋琢磨し、魅力を磨き上げた結果として国内宿泊者数が増加しているのです。
 奥飛騨温泉には180軒の旅館があります。それぞれは目の前の競争相手で、「おもてなしの心」を従業員に徹底する、腕の良い料理長をヘッドハンティングする、和室ではなく洋室ベッドの部屋数を増やす、フロントロビーの花飾りを充実させるなどの特徴を前面に打ち出すことで差別化を図り、客数の確保に努めています。しかし、これらの旅館は競争相手でありながら、奥飛騨温泉郷旅館組合を形成して、奥飛騨温泉の魅力を発信しています。これらの温泉地は泉質や周辺の景色、旅館外の町並みなどを独自のPRを行っているものの、総合して飛騨高山の魅力発信するための組織「飛騨・高山観光コンベンション協会」があります。コンベンション協会では、温泉だけではなく、古い町並み・新穂高ロープウェイ・飛騨牛・高山祭・朝市など、「飛騨高山に行ってみたい」と思わせる魅力の発信を行っています。そして、旅行業者も自社のパッケージ旅行企画を立案して独自性を打ち出して新聞広告を行うことで、消費者の目に留まる機会が多くなり、サブリミナル効果のように温泉に行きたくなるのでしょう。
 さて花業界はどうでしょう。生花店や園芸店から時々耳にする言葉です。「生花店は『待ちの業界』だからねぇ。なかなか打って出ることができないんだよ」。本当にそうですか?温泉旅館こそ『待ちの業界』ではないですか?
 生花店には毎日店の前を通ってくれる消費候補者がいるでしょう!お店の周囲には顧客となる多くの住民が住んでいませんか?それに対して温泉旅館の前を毎日通ってくれる人はいません。温泉旅館の周辺の住民は宿泊者ではありません。どこにいるかも、いつ来てくれるかも判らない人達を相手に情報を発信し、唯一目の前にいる宿泊者の満足度を高めるために「おもてなし」をすることが最大のPR戦略になっています。当然、ターゲットとする地域や年代など、マーケティング戦略を立てて動いており、決して「待ちの姿勢」ではありません。
 奥様の誕生日に花を買いに来た男性に「物としての花」を売っていませんか?「男性の客はなかなかリピーターにならないんだよね」。本当ですか?
「花を贈る方の性格は?それでしたら淡いピンクの花をメインにされると喜ばれますよ!」「女性に花を贈られる男性は格好いいですね!」このようなトークを交わすことで、『花屋で花を買う自分が格好いい』と思ってもらえれば、男性もリピーターになるでしょう。
 花を買いに来てくれたお客さんに対して「花を売る」のではなく「サービスを売る」。「花店の人と話をしていて楽しかった」「うんちくが勉強になった」「花屋さんで花を買っている自分が格好良く思えた」「プレゼントする時のアドバイスをもらえた」・・・。
 温泉旅館の「おもてなし」の気持ち。来店してくれたお客に同じ気持ちで接することか始めましょう。花が売れなければ、生産者は生産する意味がありません。


★温泉一泊旅行はなぜ不景気に強い? (2016/02/03)

 普通に考えると、景気が悪くなり家計収入が下がれば節約志向となり、不要不急な出費を抑える気持ちが働きます。泊まりで温泉に行くことは、まず節約の対象になるのではないでしょうか。ましてや、温泉旅行は物の購入とは違うので、温泉に行って美味しい料理を食べたとしても何も手許には残りません。
 ひょっとすると、購入するのが「物ではない」ところに大きな意味があるのではないでしょうか。
 温泉旅行には様々な魅力があります。「ゆったり露天風呂につかる安堵感」、「美味しい料理を堪能する満足感」、「新緑や紅葉、雪景色などをめでる感動」、「旅館の方々のおもてなしによる癒やし」、「家族と共に過ごす充実感」・・・。そうです。温泉宿泊旅行は「温泉」だけではなく、食材、自然環境、人など様々な物を含んだ「商品パッケージ」を販売しているのです。
 花はどうでしょう。「物」を売っていませんか?花業界は「物販業」ではなく、本来は「サービス業」ではないでしょうか?
 GDPデフレーターと各種業界の比較をしてきましたが、景気の低下と共に販売額が低下しているのは、いずれも「物を製造販売」している業界で、不景気の影響を受けていない国内宿泊旅行も海外旅行も「サービス業」であることに大きな違いがあります。物を売ろうとすればするほど消費者は離れていくのに対して、旅行は消費者が近づいてくる(消費者を引きつけている)業界です。
 温泉一泊旅行に行った人の「奥飛騨温泉は良かったよ〜!深山渓谷の中で、都会の雑踏から離れた何もないところが最高だった!」という声を聞いて、『私も行ってみよう』と思う口コミ効果が次第に大きな波となっているのだと思います。
 花業界は「物販業ではなくサービス業」という発想から、もう一度業界の課題を見つめ直してみましょう。


★景気が悪いから花は売れない?
 −景気に左右されない業界はある− (2016/01/25)

 国内宿泊旅行者数を見てみましょう【pdf】。宿泊者数は1980年から1998年までGDPデフレーターとほとんど同じ変化を示しており、バブル期は景気に伴って着実に宿泊者数が増加しました。1998年以降はGDPデフレーターが低下し始めても宿泊者数は減少していません。私の感覚からすれば、景気が低迷し始めて節約志向が進むと、てきめんに家族旅行は控えられるものと思っていましたが、そうではないようです。「家計が少々苦しくても温泉で一泊してプチ贅沢」といった気持ちや「景気が悪いこんな時だからこそ家族旅行で絆を!」という気持ちが起きているのかもしれません。
 海外旅行者数の変化をみると【pdf】、バブル景気の勢いを受けて1980年の400万人から1995年には1700万人へと急増しました。この伸びはバラの生産額など足下にも及びません。まさにバブルの象徴ともいえます。GDPデフレーターは1998年を境に低下し始めますが、海外旅行者数は多少の変動はあるものの一定というよりもむしろ増加する傾向をみせています。景気が悪くなっても「日常から離れた一時の贅沢」、「心の豊かさを求める」強い志向を示していると考えられます。
 夫婦二人で温泉に一泊すると5万円程度はかかります。そして、海外旅行ともなると10〜20万円を必要としますが、GDPデフレーターの低下で示すように景気の低迷にもかかわらず、これらの経費が支出されていることに驚きを感じます。一泊温泉旅行や海外旅行には心の癒やしや、美味しい食事による心の満足があり、不景気ですさんだ心をリフレッシュする効果が高いと感じます。
 そういえば、毎日のように新聞に海外旅行や国内旅行の全面広告を目にします。旅行業界は各社が競ってあの手この手で世界遺産やリゾートの紹介、温泉や見所に加えて、美味しそうな海産物や特産牛などの料理など、一種のサブリミナル効果のように次々と記憶にインプットされています。温泉旅館も従業員に「おもてなしの心」を徹底させ、食材にも気を配って、ゆったりと過ごしていただく気配りを徹底させています。
 そうです!国内宿泊旅行者数や海外旅行者数は、何もしないのに、不景気にもかかわらず増加したのではなく、旅行の魅力を消費者に的確に伝え続けた結果として「心を豊かにする旅の魅力」が理解され、景気に左右されない旅行産業の発展に繋がっているものと思います。
 これに対して、バラは海外旅行と共にバブル景気を受けてブームとなったものの、生産者も販売店もバブルに踊って「バラの魅力」を消費者に伝える努力を怠った結果、バラは景気の低迷と共に急低下したのではないでしょうか。
 「バラは日保ちが悪いから売れないのでは?」という声が聞かれます。本当にそうでしょうか?バラの花束の値段は5,000円前後なのに対して、温泉一泊旅行は5万円、海外旅行では20万円です。一桁・二桁金額が高い温泉旅行や海外旅行には支出できても、数千円のバラに支出できないのは不思議な現象です。温泉旅行や海外旅行では、家に戻れば何も手元には残りません。むしろ、豪華な食事のグルメ海外旅行から家に戻った夫婦が「あぁ〜疲れたねぇ。お茶漬けでも食べようか」という光景が想像できます。旅行から戻って残るのは、楽しかった記憶やノンビリできた思い出、そして「何よりも感動」です。バラが売れないのは「花保ち」ではなく、「感動を与えられていない」ことが原因ではないでしょうか!


★景気が悪いから花は売れない?
 −花業界以外の産業を分析する− (2016/01/13)

 家電業界を見てみましょう【pdf】。1980年代の家電業界は世界をリードする産業でした。私が大学生だったこの時期にSONY、シャープ、サンヨー、東芝、ナショナルなどの企業に就職が決まると親族あげて「良い企業に就職が決まって良かったねぇ。将来は安泰だねぇ。」といわれたものでした。
GDPデフレーターとの関係をみると、1980年から1990年までの家電製品販売額の上昇はGDPデフレーターの上昇を大きく上回り、CDプレーヤー、DVDレコーダー、薄型テレビなどの新製品が次々と投入され、まさにバブル景気の象徴ともいえる状況でした。しかし、中国や韓国からの追い上げを受けて各社の業績が厳しくなると共に、1995年を境に景気の低迷の影響を受けて家電製品販売額は想像以上に大きく減少し、明らかな買い控えが起きています。景気の低迷感から節約志向が定着して「まだ使えるものは買い換えない」という風潮が定着し、2003年以降に大きな落ち込みは止まったものの、未だにGDPデフレーターを上回る減少が続いています。これを受けて2009年にサンヨー電気が倒産し、SONYやシャープのような世界を代表した企業も経営危機に陥っています。
 家庭用品(日用品)を見てみましょう【pdf】。家庭用品販売額は1980年から1997年まで着実に上昇を続けています。その上昇はバラ生産額や家電製品販売額を比べると、それほどの急上昇ではなく、景気感やや上回った着実な上昇ということができます。1997年に景気が低迷し始めると、さすがに日用品といえども買い控えが起きましたが、2004年にはそれも歯止めがかかり、それ以降の変化はGDPデフレーターの変化に同調する状況となっています。すなわち、必需品は景気が悪くてもそれなりに購入せざるを得ない状況であることを示しています。
 このようにしてみると、バラ生産額の変化【pdf】は家電製品ほどではないものの、GDPデフレーターを上回る減少を示しており、家庭用品(日用品)の変化とは異なっていることが理解できます。
 花は日用品(必需品)ではないので、景気が悪くなると買い控えが起き易いといわれます。しかし、家計の中での節約効果は毎日購入しなければならない日用品の方が大きいことから、グラフから判るように、GDPデフレーターが下がり始めた途端に家庭用品販売額は急激に低下しており、不景気感によって日用品(必需品)の購入は強く抑制されます。これに対してバラの生産額はGDPデフレーターの低下と共にジワジワと下がっており、(結局は同じ減少率にはなってしまいましたが)節約の程度は日用品(必需品)に比べて小さいとみることができます。「花より団子」の方が景気の影響を受けやすいといえるでしょう。 【次回に続く】


★景気が悪いから花は売れない?
 −景気の低迷と花の販売額の推移− (2016/01/04)

 失われた20年と言われて久しく、1998年以降景気が低迷して花の売り上げが減少し続けています。本当に景気が悪いから花が売れていないのでしょうか。
 バラの総流通量は1999年の5億3517万本をピークに減少し続けており、2013年には3億6000万本と33%減少しています。この間、輸入量は8000万本とほぼ一定であることから、国内のバラの生産量は実に40%減少し、バラ農家の廃業やトマトなど他の作目への転向が起きています【pdf01】。景気の低迷が1998年頃から始まったと言われていることから、この数値を見る限りバラの消費は景気低迷の影響を如実に受けていることを示しています。
 景気動向を示す指標として「GDPデフレーター」があります【pdf02】。名目GDP ÷ 実質GDP × 100で示され、国内の企業の利益や労働者の賃金など所得の変化を示す指数として用いられます。GDPデフレーターの変化を見ると、バブル景気を受けて1980年から1992年まで91.3から110.4に上昇しました。バブルの崩壊を受けてGDPデフレーターは停滞し、1998年の110.1から減少し始めて2013年には91.0となり、現在でも回復の兆しは見られません。
 このGDPデフレーターの変化とバラの生産額を重ねてみると、興味深い現象が見えてきます【pdf03】。1980年から1991年までのバラの生産額はGDPデフレーターの上昇を大きく上回って急上昇しており、「バラはバブル期にもてはやされたバブリーな花」であったことが判ります。この時期は第1次園芸ブームと言われた時期で、室内鑑賞用の大鉢観葉植物と共にバラは作れば売れた時期でした。
 バブルが崩壊して景気が停滞すると共にバラの生産額も停滞しましたが、1998年以降急速に生産額が減少し、現在に至っています。その減少はGDPデフレーターの変化を大きく上回っており、「景気が低迷すると一斉にバラ離れが始まった」ことを示し、バラの販売額の減少は未だに歯止めがかかっていない状況です。すなわち、景気感以上にバラの購入が控えられており、バラは景気の動向を受けやすく、「景気が良ければバラは売れるが、景気が低迷するとバラは売れない」と考えられ根拠ともなっています。
 本当にそうでしょうか。1990年までのバブル景気の時期にバラを購入してくれた「バラ愛好者」の心を繋ぎ止めることができなかったのではないでしょうか? 【次回に続く】


学部管理職の業務が以前にも増して激務となり、1年ほどコラムをお休みしておりました。
心に思うことがあり、コラムの執筆を再開することにいたしました。
とはいえ、以前のように頻繁には更新できないかと思いますが、お許しください。


2016年を迎えて (2016/01/01)

 申年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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 本年もよろしくお願いいたします。



2015年を迎えて (2015/01/04)

 未年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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 本年もよろしくお願いいたします。