「飛驒の歴史再発見」No1~No8を、発行人の長瀬公昭樣より、ご寄贈頂きました。
地域資料・情報センターの飛騨地方のコーナーに収蔵させて頂きました。
これは、長瀬さんのラジオ番組「ヒッツFM 飛騨の歴史再発見」で話された内容の書き起こしをされたものと、深く掘り下げた話題、飛騨地方の神社仏閣のデータベースというべき(社寺仏閣カルテ)、飛驒地方の獅子舞についての解説等が連載されています。
飛騨と聞けば、それぞれ思い浮かべるキーワードがあるかと思います。
「小京都」・「高山祭」・「飛彈の匠」・「野麦峠と女工哀史」等々…。
それらについて、一話題を見開ページで書き起こされていています(創刊号はちょっと形式が違いますが、基本は同じです)
「飛驒学」と言えば、「斐太紀」があります。「斐太紀」はその資格を問うものではないですが、飛騨地方についてのあらゆる分野について、研究された事が記載されており、どちらかと言えば、専門的な感じです。
この「飛驒の歴史再発見」は、そう言った難しさはありません。ラジオで放送されるものですから、それは当然のことかもしれません。
けれど、何回かにわたって話される内容の書き起こしを読んで行くと、それぞれのトピックスについて、写真も入り、専門的な知識を得ることができます。
少し読んで面白かったものを書いてみたいと思います。
例えば、高山祭に欠かせない屋台についてですが、その屋台の構造や、彫刻-それを彫った人の事、夫々の屋台の説明が詳しくなされています。これを読んで現地に行けば、屋台の見方が違ってくると思います。
彫刻師の一人、谷口与鹿という人については、その一生を何回かに分けて連載していますが、大変興味深く読ませて頂きました。
木から造形物を掘り出すことが、芸術と呼ぶにふさわしいものとなっていく、この谷口与鹿の技量!それを裏打ちする研鑽がある一方で、職人にありがちな大の酒好き! 酒席を用意されれば断れず、高山唯一の名亭“洲岬”で散々お酒を飲んで、仕事が断れなくなった等、かなりお酒にお金を持って行かれた話、最期は飛騨の地でなく兵庫でなくなった等、そこに血の通った一人の人間を見ることができます。
ただこの谷口家は代々“飛驒の匠”の家であったようで、そう言った、彫刻師の家系なども調べられています。
飛山濃水と言われるように、飛騨は山に恵まれて土地です。その山林資源や鉱物資源に眼を付けた徳川幕府は、飛騨一国を天領としました。
その山の木材について、この「飛驒の歴史再発見」では、運材について何回かに分けて述べられています。
飛騨地方は、宮峠が分水嶺となって、太平洋に流れる飛騨川-木曽川と、日本海に流れる宮川-神通川に分れますが、夫々を南方山と北方山と呼んでいます。
当初南方山の材木は「京都・江戸の資材」として、北方山の材木は主に「富山藩や加賀藩の調達木」として用いられたとのことですが、天領になってからは、まず南方山で本格的な伐採が始まり、宝永二年(1705)には切る木が無くなってしまい、明和八年(1771)留め山(木の伐り出しをやめること)になってしまします。
それで北方山からも木を伐り出し、江戸に運ぶようになります。何と言っても、江戸は火事が多く材木の需要も高い場所です。
その経路は、富山の“黒崎の湊”で船に積まれて、日本海を西へ進み、下関から瀬戸内海、大坂を通って紀伊半島を回って江戸へと、当時の日本を半周するような行程を経ることになります。
そして、その運賃は「荘川町史」からの転載がありますが、“南方山元伐採材木5567本、総経費970両に対し、北方山7470本、総経費3773両となり、1本当たりでは、南方山が1.7分余、北方山が5分余と、3倍もの運賃をかけなくてはならない事となっています(「飛驒の歴史再発見」No3.p42-43)
長瀬さんの 個人的な研究の成果が、惜しげなく述べられている夫々の記事は、飛騨と言う土地を知る手がかりになるでしょうし、実はそうだったんだと、見方が変わることもあるでしょう。
個人的な意見ですが、常々巷にあふれる観光ガイドブックというものは、どこの食べ物が美味しいとか、どんなお土産を買うべきとかの情報にあふれていて、あまり用をなさないと思っています。このような飛騨の歴史をあらゆる角度から丁寧に解説している本に出会うと、こういった本は、その土地を知る道標になるでしょうし、一級のガイドブックだなあと思います。
夫々の地域に根付く研究を「~学」と言ったりします。先日“郡上学”の雑誌について紹介させていただきましたが、この「飛驒の歴史再発見」も間違いなく“飛驒学”の門戸を開く本であると思います。あまり興味がないな~と思われる方でも、何かしら、興味が湧いてくるテーマがあるに違いないと思います。
ラジオ番組としての「飛騨の歴史再発見!」は、現在も放送中です。
本放送は、毎週土曜日 午前10:30~
再放送は、 〃 午後 7:00~です。
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