ジオラマの工作には定石のようなものがあるのかも知れないが、あえてそういうものは調べず、製造設計は基本的に寝ても覚めてもの考案の連続であった。結果としての主なものを以下に記す。
(1)ベースの材料と工法:7層のスチレンペーパー(厚さ:1, 2, 3,
5㎜から選択)を、長良川水面高、渡船場高、渡船場お召道高、小川底高、田畑高、農道高、屋敷/往還高の各層ごとにカッターで輪郭をカットし、「スチ糊」で貼り合わせる。
段差は垂直になるので、紙粘土を使って斜面になるように整形してゆく。
(2)長良川:色の調整が大変。前回の小島城ジオラマの時、粕川の塗装をするとき、現地の橋の上から川の色を撮影すると同時に頭に焼き付け、色を決めた経験がある。
今回はこの経験を元に、リキテックス社製のアクリル塗料「ターコイズ・ディープ」と「コバルト・ターコイズ」を1:2の配合で調整した。
最初に塗装したのは長良川。その上につや出しニスを気に入ったテカリが出るまで何回も塗り重ねた。
乾燥後は、汚れやキズが付かぬよう、治具としての保護カバーを完成まで被せて作業した。
(3)川岸の杭:セリアで偶然見つけた3㎜x200mmの園芸用結束バンドをギザだけ残して両端をニッパーでカット。アクリル塗料で塗装し、スチロール用のセメダインで接着した。
(4)石垣と猿尾の石積み:空き地の砂をバケツで水が透明になるまで洗い、3種類の細かさの網(ふるい)を使って選別した。
網はセリア、CanDo、ダイソーなどを廻り、調理用の網を購入した。
(5)陣屋、屋敷などの建物:各戸の間口が異なるので、1軒1軒、方眼紙に壁と屋根の設計図を画き、同じ寸法で厚紙/スチレンボードに、針のように芯を尖らせたシャープペンシルで線を引いてカッターでカットした。精度は0.5mm。
壁はワイシャツなどの包装に含まれる厚紙を、屋根はスチレンボードを使用した。※スチレンボードとはスチレンペーパーの両面に上質紙を貼り付けた既製品で、スチレンペーパーより高価である。
建物の外柱や窓は後から茶色等の市販のペンで着色するため、下地の薄茶のアクリル塗料で分からなくならないよう、針工具で輪郭を凹ませておく。
(6)瓦屋根の工作:
瓦の表現:屋根の輪郭線を描いたスチレンボードに、クレークラフト用の先の丸まった棒状の工具を使用し、定規を当てながら、1点1点、約1.5mm間隔で穴を押してゆくことにより表現した。
棟瓦:幅2mmにカットした前記厚紙に、まず針工具で1mm弱間隔の凹み線を入れ(これが棟瓦の1枚1枚を表現する)、今度はこれを上記先の丸まった棒状の工具で縦方向にシゴキを幾度も入れ、棟瓦状に丸まってきた時点で指とピンセットを使って円筒状に丸めて完成。これを上の瓦屋根の折り目の上に貼り付ける。
最後に、あらかじめ必要数量だけ作っておいた、鬼瓦を両端に貼り付けて完成。
(鬼瓦は、前記厚紙を直径1mm位の円が横長の三つ葉状に並んだ形でカットしたものを作成)
(7)松並木の工作:神社などのまっすぐな樹木はさほどではないが、松並木の松は「枝振り」を演出しなければならないので苦労した。結果的には電灯線コードの被服を剥がし、中の導線の束を、撚りながら2~3の束に分け、更に各束を撚りながら2~3の束に分ける工法を取った。そのままでは銅は柔らかく以降の工程が困難なので、少量の半田で全体を半田メッキすることで強度を確保した。その上に樹皮色で塗装し、枝の先端に水溶性ボンドでターフ(TAMIYA製のジオラマ用カラー粉末)を乗せた。
(8)畑の工作:畑の特長はその畝(うね)にある。手作業では困難なことが容易に想像できたので、考えた末、段ボールの波を利用することにした。普通の段ボールでは波の幅が大きすぎるので、一見段ボールとは思えないような箱のものを探した。結果としてIO-DATA社の外付けハードディスクの化粧箱のが一番細かいのでこれを利用した。水に浸せば簡単に波の部分が剥がれてくるので、乾燥させ、下地の土色を塗装した後、畝にだけ水溶性ボンドを塗布し、その上にターフを振りかけた。
畝の間にもターフが入り込んでくるので、半乾きの状態にしてから、ピンセットの先で畝の間のターフを剥がす方法を取った。
(9)湿地の風情:明治6年の河渡村地籍図には「池」などと書かれているが、平坦な水たまりでな、くいかにも湿地らしく少し演出したいなと考えていた時、TVの歴史番組で合戦の絵巻物が放映され、考えていた情景に近かったので、これを採用した。
なお、湿地の水の色は、長良川の色に少し薄灰色を加えたものを塗装した。
(10)神社の参道:最初は灰色の塗色をしたが、雰囲気が出ないので、ジオラマ材料の「リアルサンド」を調達して塗布することで改善された。
その他、スチレン系の材料を使用するため、通常の有機溶剤系の塗料・接着剤・スプレーは一切使えない(もし使うとスチレン自体が溶けてしまうからである)。