-
戻 る
-
-
消化管・食道の運動を調節する内在神経の役割
【興味の焦点】
消化管の運動は、非常によく統制されています。
例えば、食べたものを後方へ移動させようとするとき、図のように二つの筋層が上手く収縮と弛緩をします。
食塊が移動したらそれに合わせて、今まで収縮していた部分が弛緩し、弛緩していた部分が収縮するようにできています。
このような蠕動運動は、消化管自身が状況をモニターし、その情報を基に考え、応答するという流れで実現します。
感覚神経(情報の収集)→介在神経(情報の統合)→運動神経(応答)という流れを考えると、まさに「消化管には脳が存在する」といえます。
私たちの興味は、このような統制のとれた消化管運動を可能にする神経回路を明らかにすることです。
|
少々専門的になりますが、以下に食道の運動制御に関する実験内容を挙げます。
研究の背景
1) 食道壁には内在神経ネットワークが存在しているが、食道(特にヒトを含めた哺乳類全般の横紋筋食道)の運動にこれらの内在神経がどのように関与しているかは十分に解明されていない。
2) イヌの巨大食道症や、ヒトのアカラシア(特発性食道拡張症)、食道痙攣といった神経性運動障害に起因する食道疾患があるが、その病態生理について不明な点が多い。
研究目的
本研究の目的は、外来神経によって引き起こされる食道運動を調節する内在神経の役割を解明することである。
1) 横紋筋のみからなる食道をもつハムスターやラットの食道壁内の内在神経ネットワークが放出する神経伝達物質を形態学的(免疫組織化学など)に明らかにする。
2) それらの神経伝達物質を機能学的(伝達物質のアゴニストやアンタゴニストを用いた実験系)に同定する。
3) 内在神経による調節の引き金となる知覚神経の機能(どのような刺激を感知し、それに応じてどのように食道運動を調節しているのか)について解析する。
研究内容とこれまでの成果
1) カプサイシンによる食道運動の抑制
ラットやハムスターから摘出した食道標本の迷走神経を電気刺激することで生じる横紋筋収縮反応が、知覚神経刺激薬のカプサイシンによって抑制された。これは、食道運動を制御する「知覚神経ム内在神経反射経路」が存在することを機能面から示唆している。
2) 内在神経ネットワークの神経伝達物質の解析
カプサイシンによる食道運動の抑制が、NK1レセプターアンタゴニストおよびNO合成酵素阻害薬の前処置によって阻害された。これは内在神経反射経路にはタキキニンおよびNO作動性神経が存在していることを示唆している。
3) 内在神経による抑制機構
収縮反応の抑制は、迷走運動神経に起因しているのか、効果器(横紋筋)に起因しているのか明らかにするために、迷走神経刺激した食道標本からのACh放出量を測定した。カプサイシン投与によって、ACh放出量が減少した。この結果は、収縮反応の抑制は、ACh放出の抑制を介していることを示唆している。
このテーマと関連した最近の論文
Eur J Pharmacol. 556 :157-165, 2007
J Vet Med Sci. 69: 365-372, 2007
Res. Vet. Sci. 82:246-251, 2007
Pharmacol. Res. 54:452-560, 2006
Neuroscience 139: 495-503, 2006
Eur. J. Pharmacol. 517:120-126, 2005.
J. Vet. Med. Sci. 67: 115-117, 2005.
Life Sci. 73: 1939-1951, 2003
J. Physiol. 531: 287-294, 2003
J. Neurophysiol. 89:2346-2353, 2003
Eur. J. Morphol. 40:137-144. 2002
Neuroscience 110:779-788, 2002
Br. J. Pharmacol. 137:629-636, 2002
Br. J. Pharmacol. 129:140-146, 2000
特色
この分野の研究は、主に形態学・組織学的な立場から、食道の内在神経の存在を証明する多くの報告がある。しかし、機能学的なアプローチによる内在神経の研究はほとんどなされていないのが現状であり、この点がこの分野の弱点である。横紋筋食道で内在神経に関する機能学的な研究がほとんど行われてこなかったのは、内在神経を特異的に刺激する手段がなかったからである。しかし、当研究室ではカプサイシンによって知覚神経を刺激する実験系を確立しており、さらに他の刺激因子も加えて、知覚神経−内在神経−運動の制御というループを標的に、機能面からアプローチした研究を展開できる。
|