菌根菌研究内容の紹介

 有用微生物であるarbuscular菌根菌(AMF, 菌根菌)は植物の根に感染して主に土壌中のリンを宿主に供給し、共生関係が成立した宿主生長を促進する共生菌です。菌根菌は、生物肥料、生物農薬的機能を有しており、リン資源の有限性、持続可能型農業の探索を背景として、国内では土壌改良資材として政令指定されています。当研究室では、特に園芸植物における環境ストレス耐性(温度ストレス耐性, 耐塩性, アレロパシー耐性, 耐病性等)の菌根菌による生物的制御法の確立、耐性機構解明を行っています。また、環境及び食に対する安全性の高い園芸植物栽培技術として菌根菌機能の利用を検討しています。

*忌地現象発生機構解明並びに菌根菌による総合的植物生育改善法の確立
 野菜及び薬用植物(オタネニンジン等)で発生する忌地症状(生育不良、改植障害)を対象とし、忌地現象発生機構解明、菌根菌による総合的植物生育改善法の検討を行っています。

アスパラガス忌地現象
バイオアッセイ
PCR- SSCP image(Profile, Detected bands)

SEM(走査型電子顕微鏡)像
健全根(left)、忌地症状根(right)
LR-White樹脂切片による横断面像
健全根(A)、忌地症状根(B)

忌地株根
健全圃土壌検定
左: 無接種, 右: AMF
忌地土壌検定
左: 無接種, 右: AMF
植物体生長促進効果
左: 無接種, 右: AMF
アスパラガス忌地圃場検定(改植障害圃)
左:対照区, 右:AMF

*園芸植物の環境ストレス耐性向上及び抗酸化機能
 菌根菌共生により環境ストレス耐性(耐塩性、耐病性、温度ストレス耐性)が向上するとともに、植物体の抗酸化機能(抗酸化酵素、抗酸化成分)変動がみられます。抗酸化機能は環境ストレス耐性並びに機能性成分と密接な関連があります。これまでに、数種園芸植物において数種抗酸化酵素・抗酸化物質が菌根菌共生により環境ストレス下で増大することが明らかになっています。


1. 温度ストレス耐性の向上
 菌根菌共生イチゴ、アスパラガス、シクラメンでは2タイプの温度ストレス耐性がみられています。イチゴ促成栽培では苗養成期の高温による生育障害・病害が発生しやすく、四季成性品種においても成り疲れ等も背景として高温下での生育改善が課題となっています。そこで、高温障害・病害軽減を目的として菌根菌による生物的制御法の検討、耐性機構解明を行っています。これまでの研究により、高温ストレス下のイチゴなどにおいては、菌根菌共生により生育改善・抗酸化機能等の増大が見出されており、ストレス耐性との関連が示唆されています。また、温度ストレスと病害との交差ストレス耐性についても確認されています。

温度ストレスイメージ(SHS: shock heat stress, NHS: natural heat stress)



*イチゴの高設栽培(AMF共生苗のポット耕方式)
* 高温障害苗(左:無接種, 右:AMF区)


2. 耐病性の向上
 数種園芸作物で菌根菌共生による耐病性(発病率・発病程度の軽減)が確認されており、菌根菌による耐病性を付加的効果として期待できる可能性があります。また、他の物理的、化学的防除法との併用により、減農薬栽培、収穫物安全性の確保を図れると考えられます。

(1)耐病性の事例
 ・ナスー半身萎凋病(罹病圃検定)
 ・アスパラガスー立枯病(罹病圃検定), 紫紋羽病
 ・イチゴー萎黄病, 炭そ病


(2)耐病性機構因子
 菌根菌共生による耐病性機構については不明な点が多く、菌根菌感染による植物根の組織的・生理的変化による耐性因子誘導が関連している可能性があります。
・ リグニン化促進
・ 複相外皮の短細胞における感染競合
・ ペクチン質増大
・ 根面における感染競合
・ 複相外皮短細胞の組織化学的特性及び皮層細胞における細胞骨格変動
・ 抗酸化機能・遊離アミノ酸の関連

3. 耐塩性の向上
 塩害土壌における野菜栽培では、耕地の除塩に長期間・コストを要することから、耐塩性野菜の選抜・導入が検討されています。しかし、耐塩性を有する野菜の実用種は限定されることから、野菜種低依存型の耐塩性誘導技術の開発が急務となっています。本研究では、塩害土壌における野菜栽培法として、植物生長を促す菌根菌(AMF)による耐塩性誘導、植物体生長促進、収穫物高機能化を視野に入れた耐塩性野菜栽培技術を検討しています。

         

*植物体生長促進及び組織内成分変動の利用
 菌根菌共生により主にリンを主とした無機養分吸収促進、宿主生長促進がみられます。また、共生により植物体遊離糖・遊離アミノ酸含量等の変動がみられます。このような効果は、育苗期間短縮・健苗育成、収量・品質改善に繋がると考えられます。また、菌根菌を生物肥料的に使用することにより、減化学肥料栽培を図ることが期待できます。


左:無接種区, 右:接種区

イチゴ

アスパラガス

シクラメン

*菌根菌胞子の形態、感染状態

Glomus属の胞子

Gigaspora属の胞子

根表皮への菌糸侵入

根組織内感染状態