最新更新日:2002/10/24
川窪伸光 戻る |
多様性保全学 ノート 2002年度版 |
注意:このノートは、講義の概略を記載した物で、あくまで参考として示します。実際の講義では、予告無く、しばしば内容が変更されます。また、教室では補足説明用にプリントが配布されたり、参考となる映像データを紹介します。常に最新情報を織り込み、楽しい講義構築を心がけていますのでご理解をお願いします。
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I. はじめに: A. 多様性保全学(保全生態学)の視点 1. 人は生物種の1種である(ヒト:Homo sapiens) 2. 生物は単独では生存繁殖できない(食物連鎖・生物間相互作用) 3. 生物種にはそれぞれに異なった生息環境が必要である(生活史・空間的時間的位置) 4. 生物種にはそれぞれ歴史があり、繁殖し、遺伝的に変化(進化)する(私は私か?) 5. 生物は自然の一部であり,地球上の物質循環の一部をなす 6. 生物個体は誕生し、そして必ず死ぬ。 7. わたし、あなたは、間違いなく生物である。私は心安らかに人生をまっとうしたい。 II. 生物多様性の現状 A. 私たちの位置:生物多様性は,どこに,いつ生じているのか? 1. 時空の中で a. 空間的位置づけ:宇宙空間で私たちは? b. 時間的位置づけ:宇宙のはじまりから現在までで私たちは? c. あるイベントは,空間的にも時間的に広がっていく 2. 取るに足らない存在としての私 しかし私が宇宙を認識する B. 生物多様性とは? 1. 膨大な数の生物種 a. 生物種類の比率 b. 未記載,未発見種の膨大さ c. すべてが進化の所産 2. 生物界の認識 a. 大航海時代からの生物認識・自然史 b. 五界説までの道のり c. 膨大な系統関係のなかでの私たち 3. 生物種間のみならず,生物個体はみな異なる 自分は世の中でただ1つ。みな異なった世界に生きている。 a. 異なった生物個体が関連しあい生物多様性を形づくっている b. 生物個体どうしの関連が,あるイベントの波及の媒体となる 「風が吹けば桶屋が儲かる」 III. 生物多様性の起源:私たちは何処からきたのか? 生物進化のエッセンスとは? 進化学の理論は多くの疑問にあるひとつの答えを示してくれる。 進化とは?=生命とはなにか? 多様性はどのようにして生じてきたのか? A. 生命内・間のエネルギーの流れと情報の流れ 1. エネルギーは横糸 エネルギーは地球外からやってきて、地球外へ去っていく。 地球上では生物間をエネルギーがわたっていく a. 代謝:生物の形は一定に保たれているが,それを形作っている元素や分子は 絶えず入れ替わっている。そしてエネルギーがその形を維持する。 (1) 蛇口から流れ出す水 (2) ガスバーナーの炎 2. 情報は縦糸 生物を形作っている情報は、時間を経て伝達される。 a. 遺伝:もっとも基本的な性質,カエルの子はカエル: ひとつの特長は情報の流れ!!!: 現代生物学の中核でありマスターする努力の価値のある現象 (1) DNA(1953年ワトソンとクリック) (2) 情報は保守的でなかなか変化しない。しかし、確かに少しづづは変化していく。 B. 生物多様性のなかみ 1. 差異と変異 a. 差異 ある対象が、ある点において、異なること b. 変異 差異の集合体 (1) 連続性と不連続性 ある2つの個体群があるとき、ある形質では連続性を示すが、 他の形質では不連続性を示すことがある (2) しばしば正規性がみられる 2. 種内変異と種間変異 a. 種内変異 (1) 個体間差 (2) 個体群(集団)間差 b. 種間変異 近縁種間(例えば属内)での種の集合体がしめす変異 C. 進化の基本的機構:時間的に変化する空間構造 1. 社会現象としての流行について考えてみよう a. 服装 b. 車 c. ことば 2. 淘汰の単位としての個体 生物個体を遺伝子の入れ物として考えれば,淘汰の単位は遺伝子とも理解できる a. 表現型=遺伝情報(保守的部分と可塑的部分)+外部環境 b. 変化(突然変異)→判定(淘汰圧)=生き残り c. 遺伝的変異:突然変異:組み換え 3. 遺伝的変異源 a. 突然変異 (1) 生殖細胞において (2) 減数分裂時 b. 相同染色体の交叉(遺伝物質の組み換え)によって 4. 自然淘汰 (自然選択と同じ言葉,「選択」にはさまざまな意味があるので, 混乱を避けるために「淘汰」を使用) a. 世代交代:一世代の問題ではない b. 繁殖成功度の差によってのみ作用する:死亡率の差では作用しない(繁殖後の死亡) c. ある生物個体が他の個体以上に成功する(生存し繁殖する)子孫を残せるなら, その個体の遺伝子は個体群の遺伝子プールの中で優占するようになるであろう. d. 出産率と繁殖までの生存率 5. 淘汰の3つの型 a. 安定化淘汰 b. 方向性淘汰 c. 分断淘汰 変化する環境では平均的(ある環境に最も適応した形態をもつ)個体が もっとも適合した個体群の構成員とは限らない. 6. その他の進化的要因 a. 遺伝的浮動(ライト効果) b. 創始者効果 c. 獲得形質の遺伝? 現在のところ,証拠がない。現代生物学では否定的 7. 適応度 a. 自然淘汰にたいする個体の有利不利の程度を表す尺度 b. 特定の遺伝子型(表現型)の適応度は,個体あたりの次世代に寄与する 子供の数によって測る.ただし,生まれる総数ではなく, 生き延びて生殖年令に達する子の数である. 8. 個体は遺伝子が操る乗り物のようにみえる a. あたかも,遺伝子自身が個体の世代をとおしての生き残りをかけて, 個体という乗り物を操作しているように見える. D. 自然淘汰の例 1. 工業暗化 非生物学的環境変化と他の生物(天敵)による淘汰 2. 性選択 繁殖における配偶者選びでの淘汰・性選択による形質進化 a. 雄鳥の派手な羽をめぐって (1) 素朴な疑問:なぜ派手なのか? あれでは捕食者(敵)に見つかってしまう. ->子孫を残しにくいのでは?------------不利では? (2) 生物学的な疑問:どんな有利さがあって,派手な羽は進化してきたのか? WHY?->HOW? (3) 観察結果:派手な羽の雄を,雌は選ぶ傾向がある. ->派手な羽の雄は子孫を残しやすい!-----雌による性選択 b. 進化機構の解明:どのように進化してきたか? (1) 初めは,すべての雄は地味だった. そして,すべての雌も特に派手好きではなかった. (2) 雄の一部に突然変異が発生-------------------------雄の遺伝的多様性 遺伝的にますます地味な雄や、少し派手な雄が登場 (3) それぞれのタイプの雄を雌は選択して 交尾して,子孫を残す. 雌にはさまざまな派手さの程度を好む 遺伝的に制御された嗜好が発生している ----------------------雌の遺伝的多様性 (4) この集団に病気が発生. 雄の派手な羽には病気の有無が,はっきり現れる. 派手な雄を選ぶ性質の雌は,病気にかかりやすい雄を選ばないことになる ---------雌による特定遺伝子の選択 (a) 派手な羽の雄を好んで交尾した雌の産んだ子孫は 病気にかかりにくくなる. 子孫には, ・派手な羽を好むような性質を発現する遺伝子(雌側)と 派手な羽を発現する遺伝子(雄側)が含まれる. (5) 進化的結果・性選択による形質進化 雄の派手な羽が進化! 雌の派手好きの進化! c. 多くの場合の誤った説明文: 雌は健康である(健全な遺伝子を持つ)雄を選ぶために(見かけ上の話)、 雄の羽を評価しているのです....など しかし実際には,雌は健康さや遺伝子など気にしてもいない!! 3. 行動の一部理解: 遺伝子が個体の行動を支配していると見ることが可能である a. ゲームとして進化を考えてみると 子供はなぜかわいいのか?: 子供の何に(保護してやりたいという)かわいさを感じるか ミッキーマウスの例:「かわいさ遺伝子」を仮定しての遺伝子の戦略 注意:実際には「かわいさ遺伝子」なるものは把握されていない! この遺伝子の例はあくまで,思考ゲームである。 (1) 誕生 (2) 身近の大人を引き付ける「かわいさ」を発現 (3) 可愛がれることで生存確率を高める (4) 可愛がれた個体が成長する (5) 成長できた個体は大人になる (6) かわいい子供であった個体は,かわいくない子供より大人になる確率が高まる, つまり,かわいかった子供の遺伝子は大人になって子孫を残せる----> 子供は大人にかわいく思わせる形態へと進化していく) (7) 大人になる (8) 交尾し子供とつくる (9) 子供をかわいいと思う大人は,子供を保護する (10) (子供をかわいいと思う大人個体は,子供のなかの自分の遺伝子を,子供を かわいく思う遺伝子ともども(通常1/2)保護する-----> 大人は子供をかわいく思うように進化していく) (11) かわいさ遺伝子の挙動は,遺伝子自体が意志を持って,乗り物(入れ物)で ある個体を操作して,生き残っていくように見える (12) しかし機構としては,突然変異で生じた遺伝子が,単にその突然変異をもつ個 体を生存させ,繁殖させるかいなかである.その遺伝子が個体の子孫の存続に 有利であれば,残り,広まっていくのである. 4. 行動に関する遺伝子の残り方 a. ある行動を起こす遺伝子は,その行動が遺伝子自体が乗っている個体の包括適応度を 高めるものであれば,次世代へと伝わっていく. b. 見かけ上,利他的であろうがなかろうが,利己的であろうがなかろうが, その行動遺伝子が消滅しないかぎり,その行動は世代を越えて伝わっていく. IV. 生物多様性を制御している因子 A. 多様性保全学(保全生態学)の領域 1. 取り扱うレベル 分子---細胞---個体---家族---個体群---種---群集---環境 2. 多様性保全学における環境とは? a. 物理・化学的環境(無機環境) 気温・日照・湿度・土壌・地形・風速・流速・水温・降雨量・積雪量・etc. b. 生物学的環境(有機環境) (1) 個体レベル 保育親・兄弟 (2) 個体群レベル 同種他個体たち・異性個体・配偶個体 (3) 群集レベル 捕食者・食料(他の生物個体!) 植物個体(生育・生息環境として) B. 個体のレベルの特性 1. 淘汰の単位としての個体(遺伝子の乗り物?) 個体の生態的性質はいかに進化してきたか? 2. 生物個体の誕生・成長 a. 胎生・卵生 b. 多産・少産 c. 大型・小型 d. 保護・放置 e. 群・単独 f. 移動性・固着性 3. 生物個体の繁殖 下項目の個体死以前に繁殖が行われる。 a. 例えば植物体の一生 個体死と繁殖のタイミング (1) 生活史 (a) 一年生,越年生,二年生植物 一回稔性 (b) 多年生植物 一回稔性 多回稔性 (2) 繁殖様式 (a) 有性生殖 (b) 無性生殖 i) 単為生殖(アポミクシス) 非減数の卵が受精せずに単独で種子をつくる ii) 栄養繁殖 4. 生物個体の消滅 これは一般に個体死といわれる(個体群消滅は絶滅)。 C. 個体群のレベル 個体と個体の相互作用,個体群と環境の相互作用 1. 個体群の概念 a. 個体群とは何か?=1種で構成される集団 以下の用語を理解することが,個体群の意味を考えることになる (1) 遺伝子プール 有性繁殖をおこなう生物は各世代ごとに遺伝物質を混合している. こうして配分される遺伝物質群を遺伝子プールという. (2) メンデル集団(個体群) ある遺伝子プールに含まれる全個体をメンデル集団 (3) 定義の具体的検討 個体群とは,細胞や生物などよりも抽象的・概念的な実体で, 多少難解であるが,しかし確かに実在する. (a) ある個体群に属する生物個体は共通の祖先をもつか,あるいは 潜在的に交配可能であるかのどちらかである (b) また個体群は,他の個体群の構成員と交配する確率に比較して, 互いに高い確率で交配する個体の一群であるとも定義できる (c) 実質的な遺伝子交換のある生物個体のグループ (d) 実際には,特別な場合は別として,個体群間に境界線を引くことは非常に 困難である. i) 例えばクスノキ 地理的隔離が明確な場合とそうではない場合 (1) 帰化植物として (2) 街路樹として植えた場合 (4) 種との関係 (a) ヒトが認識している単位 (b) 潜在的な交配可能性のある個体群 b. 個体群の諸特性 個体が生長し,生殖し,環境に反応するように, 個体群も生長し,生殖し,反応する. しかし,個体群はこれらの共通する性質に加えて集合体で あるがための特性として以下のようなユニークな社会的性質を持っている. (1) 量的性質の表現 我々は「ネコの大きさは?」と聞かれて答えることが可能であるが, 答えはあるネコ個体の大きさではなく,ネコ個体群の特性について語っている (a) 平均値(位置の統計量) (b) 分散・標準偏差(ばらつきに関する統計量) Σfy^2/n-1 (n) (2) 生長率 時間的変化を表現する (a) 出生率 (b) 死亡率 (c) 生存率 (3) 年令組成・齢構成 (4) 性比 (5) 遺伝子頻度 (6) 遺伝的変異性 (7) 密度 (8) 個体群の動態に関する統計的研究をデモグラフィーdemographyという 2. 個体群の生長 a. 生長率 指数的生長 (1) Nは個体群の個体数 Δは変化率 tは時間 ΔNは個体群における個体数の変化 Δtはこの変化に要する時間 個体群の成長率は ΔN / Δt (2) ある瞬間の出生率と死亡率の差を測ることで個体数増加を表すことができる 個体数増加率(単位時間あたりに増加した個体数) ΔN / Δt = B - D Bは出生率 Dは死亡率 B=bN D=dN BやDは個体群サイズに依存している(Nの関数) ΔN / Δt = B - D = bN - dN ΔN / Δt =(b-d)N 実際には(b-d)は内的増加率を表わす定数rで置き換えられ ΔN / Δt = rN (3) 瞬間的な表現としては dN/dt = rN (4) 増加率 (a) 内的増加率 r rが正の値を持つときはいつも指数的個体群生長 もし死亡率dが出生率bより大きく,rが負なら個体群は減少し, それが続くなら個体群は絶滅する (b) 最大内的増加率 物理的・生物的に環境による制限要因がない理論上の理想条件下で, 個体群は最大内的増加率をしめす 例えば,20分ごとに分裂していく大腸菌は,1日半で・・・・・・・・ (c) 実現内的増加率 自然条件下で増加率は抑制される 通常,出生率と死亡率はほぼ等しく,個体群サイズは平均値付近で一定. 抑制するものを環境抵抗とよぶ 3. 環境抵抗 環境抵抗によって与えられる個体群生長の限界はKで表わされる a. ロジスティックモデル dN/dt = rN(K-N)/K ある環境で,個体群が達することができる大きさには限界があり, これは一般に収容力として知られる この限界は,普通,食物供給量,もしくは空間の不足などによってもたらされる 競争と捕食 4. 個体群の密度変動 ある個体群において,個体数レベルを決定もしくは調節している要因とは? 厳密には区別できないかも知れないし,区別には意味がないかも知れない. a. 密度依存性と密度独立性 (1) 密度独立性 季節的変動 物理的環境--温度変化による.季節的変動が大きい温帯など----->密度独立性 (季節的変動が餌とする生物Aにあれば,捕食する生物Bはその影響をうける. しかしこの場合,生物Bの密度の変化が起因して 生物Bが変動するのではないので--->密度独立性) (2) 密度依存性 密度増加による食物不足や 捕食者と被食者の関係 5. 個体群構造 個体群動態上の概念 a. 生殖のタイミング 生殖期以前,幼年期 生殖期,成年期 生殖期以降,老年期 植物では,未成熟,幼齢個体,成熟個体,成体 b. 年令ピラミッドなど D. 群集のレベル 1. 群集の概念 種個体群が共存する集団 質と量 種組成(個体群数)と構成個体数 種(個体群)の特性による結び付きをもった集団 同じ生育地に生活する同所的な個体群が,相互に依存し合って集まりとして 結び付いている性質について論じる. 空間的構造・時間的構造変化 2. 群集の構造 a. 空間的構造 b. 時間的構造変化・遷移 ある場所の生物集団の種組成が時間的経過とともに変化する現象 (1) 地質学的遷移 種の進化,滅亡を含むきわめて長い時間変化 その間の地球的規模の気候変動の変化に影響もされる (2) 生態遷移 特別,外部から力や変化がなくても起こる普遍的な変化の現象 生物学的な変化が物理的環境を変化させ,その変化に生物が影響され,種組成が 変化していく. (a) 自律遷移 植物群落の遷移は,気候の変化や,外力がなくても起こる (b) 他律遷移 一般的に,消費者や分解者は,生産者である植物群落がない所では 生活することができない.したがって,これらのグループの遷移は植物群落の遷移と 平行して,植物群落の性質に左右されながら進む. 3. 植物群集 a. 多様な種個体群 田んぼを見てみよう 松林どうか? 自然界では種個体群は単独で存在できない b. 階層群集という見方 種の枠組みをはずして 上層 下層 林冠層(高木層) 亜高木層 低木層 草本層 c. 植物群落の遷移 (1) 一次遷移 植物の繁殖のもとになるもの(胞子・種子・根茎など)を 含まない基質(一般に土壌)の上に成立する. たとえば桜島では 最初に入ってくる植物は先駆者(パイオニア)と呼ばれる (a) 地衣類(ハナゴケ,キゴケ) (b) 苔類(スナゴケ,ススキゴケ) (c) シダ類(タマシダ) (d) 顕花植物(イタドリ) クロマツ ヤシャブシ ササ (2) 二次遷移 一旦,出来上がった植生が破壊され(大部分はヒトによる), 再び植生が出来上がっていく過程. 一般的に一次遷移とはことなる植生ができる 多くは人間の農耕活動に起因する 焼畑農耕 人の影響と共に帰化植物の侵入 (3) 極相 遷移の結果,長い時間をかけて到達する植生,それ以上,種組成が変化しない. 一次遷移の結果であろうが,二次遷移の結果であろうが一様に極相に収斂する. (a) 特徴 森林の高さが遷移の途中に比べ一番高い 階層が一番多い.その数は森林型によって異なる 林床い優占種の実生や稚樹が多い 林床が一番暗い 優占種の大径木や,その倒木がみられる 優占種でない倒木は極相林の特徴とならない E. 生態系として 1. 自然生態系がもたらす恩恵 微生物,植物,昆虫,鳥類,ほ乳類(ヒトも)が,バランス持って共存する空間では, 物質循環とエネルギーの流れが好適に維持される a. エネルギーの流れを考える b. 生物多様性内での物質循環を考える 2. エネルギーの流れ 3. 食物連鎖 4. たとえば生物の基本的骨格を担う炭素 5. 生物代謝に不可欠な窒素 V. 生物多様性の維持・保全:私たちは何処へいくのか? A. 今までのまとめ 1. この講義は,生物多様性が生じている場所,時間を検討し,私たちの 時間的空間的位置の確認から始まった。私たちが,地球生命体,いわゆる 生物の一員である観点から,生命進化の機構の理解を試み,そして生物 多様性の生じる背景を考えてきた。 そこで今回,ここで議論したいのは, ・なぜ生物多様性は(たぶんヒトにとって)必要なのか? ・生物多様性を保全するとはどのようなことか?である。 2. 地球環境の保全:自然保護?:人間のおごり? 生物の多様性とその進化機構を検討すると・・・・ 生物の1種であるヒト,自分を生物学的に理解し,生物の1種として, 自然の一部として謙虚な姿勢が必要という結論 B. なぜ生物多様性は(たぶんヒトにとって)必要なのか? 1. 多様性があるとは? a. 生態系という概念:連鎖:風が吹けばおけやが儲かる b. ある生態系の破壊は新たな生態系の誕生を意味する。 つまり,生態系をなくすことはできない c. 系を単純化してしまったり,もろくすることはできる 2. 多様性は生態系の弾力性・可塑性を維持し,あるバランスを保つ。 a. 生命の増殖の制限:環境 (1) 物理的環境 (2) 生物学的環境:栄養源の制限,食物連鎖(被食・捕食)など b. 例1:なんの制限もなく,大腸菌5立方マイクロが20分で一回2つに 増殖するとすると,36時間後には,地球上の陸地148890000km2を5〜10mで覆う。 3. つまり,私たちは生物多様性の一員であり,生態系のひとつの因子でしかない。 多様性に富んだ生態系の維持保全は,私たち自身の生命維持にほかならない。 C. 私が出会った生物個体群の絶滅・減少 1. 山・里にて a. クマガイソウなどラン科植物(園芸乱獲・盗掘) b. ミツバツツジ類(岩ツツジ:園芸乱獲) c. ノカイドウの保全(自然減少と園芸乱獲) 2. 小笠原諸島にて a. ホシツルランの絶滅(園芸乱獲) b. アカギの侵入(移入植物) c. ムニンノボタンの保全(自然減少と園芸乱獲) d. 聟島列島の植生回復(移入動物:山羊) 3. グアム島にて 4. 高山帯にて D. レッドデータブックの作成 1. 多様性の把握 2. 絶滅リスクの評価 3. 調査実施 各地の植物研究会を中心とした組織(県別) 調査票への記入 4. 集計 調査票の集計 解析 5. 保全・保護・対策 E. 生物多様性を保全するとはどのようなことか? 1. 私たちは無知である。にもかかわらず,自然環境を制御できると錯覚。 a. 例2:院内感染;抗生物質を過信したばかりに,細菌類の突然変異を無視し, 病院内の生態系を大きく変化させてしまった。その結果,あらたな未知の病気が, 病院内に蔓延した。 b. 例3:かつての農業は謙虚であった (1) 農業では,生産性の向上のために,自然環境を部分的に均質化してきた。 (2) そのために,その地域の生物多様性のバランスは崩れ,大量の農薬散布と 化学肥料の散布を招いた。 (3) 畑やたんぼ以外の地域も含めた,大きな視野の多様性保全が望まれる。 (4) つまり,空間的に見た多様性(単位面積農地の利用の作物多様性), 時間的に見た多様性(昨年とは異なった作物を植えるex.輪作など)を意識しなければ・・・ c. 例4:森林破壊は,いまや自然災害(土石流や崖崩れ)防止の問題どころではない。 (1) 下流域の洪水 (2) 河口,沿岸地域の魚類相の変化 (3) 地球大気の二酸化炭素濃度の上昇にともなう温暖化 2. 罪滅ぼし・安全弁の自然保護は破滅の道:一度失った自然状態は元にもどらない a. 保護すればよいのか? (1) 本当に我々はある生物やその群集を保護できるのか? (2) 私たちが無知である限り,臆病であることは重要であろう。 (3) 保護するつもりで,新たな破壊が陰にはないのか? (4) 多様な環境の維持を常に意識する必要がある。 (5) なぜなら,失った自然はもとに戻らないからだ。 我々(ヒト以外も含めて)は生命体なのだ。 (6) 保護しなければならなくなった現状を解析し, 反省・教訓がないかぎり,未来は無い。 b. 回復させればよいのか? (1) 回復させなければならなくなった現状を解析し, 反省・教訓がないかぎり,未来は無い。 (2) イベント的な保護事業の多くは,企画者,参加者たちの 罪滅ぼしの場となりやすい。 したがって原因追究はうやむやに F. ヒトにとって住み易い環境の追求 1. 私たちの幸せとは何か? 2. 環境の均質化が理想的空間であるのか? 3. 無知を認めた上での,科学技術の成果を応用; しかし,その応用がいいのか?わるいのか?を判断するのは私たちである。 4. 人間は生物の一員であることを,意識しなくなった時点から環境教育の必要性が 生じたのであろう.したがって,生命体である自己(ヒト)を見つめ直すこと から出発しないかぎり,「自然」や「環境」について議論・教育しても成果は 得られないと思う.本来の多様性保全の出発点においては,「人間」と 「自然・環境」とを別々に意識させるのではなく, 「自然」の一部である「人間」を意識させることが求められるであろう. |