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Elbur Flora Ltd.
Elburgon, Kenya

2007年7月26日にElbur Flora Ltd.を訪問しました。
Elbur Flora Ltd.は1998年に設立されたケニア資本の会社です。
社長はキクユ族の部族長で,案内して頂いたFinacial ControllerのEdward Kaarah氏もキクユ族です。キクユ族はケニア第1の部族で,初代ケニアッタ大統領もキクユ族です。
 Elbur Flora社の生産施設面積は約25haで2カ所に農場があります。第1農場は標高2,100mにあり面積は5.5haで,第2農場は標高2,300mで19haの面積です。Elburgon周辺の土地取得費は25万シリング/エーカー(109円/u)とのことですので,第1農場と第2農場の約24.5haの土地取得費は2,670万円になります。
 施設の建設に2億5,000万シリング(4億4,000万円)を投資しており,このうち1億シリング(1億7,600万円)を銀行からの融資を受けています。2008年に20haの施設の増設を考えており,現在建設資金の確保のために銀行と交渉中です。
 銀行からの融資は返済利率が17〜18%ととても高い。日本の貸付金利が3%程度であることを話した所,まじめに「とにかく銀行ローンの支払いが大変です。海外融資を行っている日本の銀行を紹介してくれないか!」と頼まれました。
 施設設備費を計算すると,〔2億5000万シリング(総投資金額)−2,670万シリング(土地取得費)〕/250,000u=893シリング(1,572円)/uと日本では考えられない価格となります。


第1農場の正面ゲート




第2農場の全景パノラマ

 Elbur Flora社の場所はNaivasha湖の北西60kmのNakuru市の西にあり,ナイロビ空港からは150kmの距離にあります。多くの切花生産農場のあるナイバシャはナイバシャ湖の豊富な水を利用できるものの標高が低く,必ずしもバラの生産適地とは言えず,バラの生産に適した標高を求めてElburgonに農場を作ったとのことです。
 ナイロビ空港への輸送は自社の冷蔵トラックを用いて輸送します。ケニアはインフラの整備が遅れており,幹線道路以外はほとんど舗装されていません。農場から空港までは7時間程度かかると思われます。

 ElburgonにはElbur Flora社の他にバラの生産会社が4社あり,標高が高いことに加えて,降水量が少し多いことから周辺に森があり,用水の確保が容易で,空気がきれいなために太陽光線量が多く,花色が鮮やかで花径が大きいことが特色です。

   

 生産施設はすべて木造で,ユーカリを用いた支柱が使用されています。ユーカリは樹脂を多く含むために腐りにくく,温室の支柱に適しています。Edward Kaarah氏の「生産施設はイスラエル製などの方が立派に見えるが,施設の見かけを立派にすることが重要ではなく,バラの品質を上げることが重要」との言葉は印象的で,同じようなことをインドのRosette, Agro-tech Ltd社のSrinivasa R. Kaza氏から聞いたことを思い出しました。
 温室の脇にはユーカリが植栽されており,施設増設の準備が着々と進んでいました。

   

 生産施設は緩やかな丘の傾斜地に作られており,施設全体が傾斜になっています。この傾斜に沿って栽培ベッドが作られており,傾斜を利用して排水性がよいことも品質の高さに関係していると思います。
 7〜8月の施設内気温は,最低気温が8〜9℃,最高気温が32℃となり,エクアドルのような環境です。
 下右の写真2枚は改植直後の状態ですが,定植した苗がずいぶんと小さいのにビックリしました。通常だともう少し成長させてから定植すると思いますが,この状態で活着するということですので,よほどバラにとって最適な気候状態なのではないかと思います。

   

 ネマトーダの予防にマリーゴールドを混植しており,天敵の導入も行うなど,環境に優しい生産方法の確立にも配慮していました。下の写真で白く見えるのは,土壌のpH調整のために処理した石灰です。

 従業員数は,25haの総生産面積で500人です。労働者の給料は最低4,500シリング(7,920円)/月を保証しており,能力に応じて給料は異なっています。従業員の中には20,000シリング(35,200円)を支払っている者もいるとのことです。(1シリング=1.76円)
 また,労働者には給料の他に能力に応じてボーナスを支給しています。給料の他に100%の医療費の支給,小学校までの学費の支給,100%の住宅費・光熱費の支給を行っており,福利厚生は充実していると感じました。
 「従業員はこの給料で生活できるのですか?」と質問してみました。「この周辺の住民はElbur Flora社で働く前は農業をしていたため,それぞれの従業員は小さいながらも農地を持っており,基本的に生活は自給自足に近い状態にある。1家族(子供3〜4人)の生活費は1,000シリング(1,760円)/月以下で,基本的にものを買う必要がない。従って給料の多くは貯蓄に回すことができ,電化製品の購入など生活向上に役立っている。」との答えが返ってきました。

   

労働管理は徹底されており,制服の色で職階が区別されています。
黄 : 品質管理責任者
青 : スーパーバイザー
緑 : ワーカー
スーパーバイザーの給料は20,000シリング(35,200円)/月で,案内をしてくれた品質管理責任者の上位の職階にあたる生産管理部長(30歳代)の給料は100,000シリング(176,000円)/月とのことでした。
収穫した花は温室内で一次選別されてバケツに区分されて選花場に搬入します。

  

 第2農場では最も高い場所に貯水池がありました。温室に降った雨水を最も低い場所にある貯水漕で回収し,貯水地にポンプアップして潅液用の用水に使用しています。貯水池と温室の間には10m以上の高低があるため,潅液のためのポンプ電力費はほとんどいらないとのことでした。

  

 貯水池の直下には農薬調整用の施設がありました。農薬の散布は温室内に張り巡らされた農薬専用の配管施設を通じて行います。当然,温室と農薬調整施設との間には高低差があるので,圧力ポンプの電力費も少なくてすむと思います。温室内の農薬専用配管口には「HATARI SUMU(毒危険)」の看板がありました。

  

選花場では40人ほどの従業員が選花調整作業をしていました。

  

 Elbur Flora社の第2農場は標高2,300mにあり,温室内の温度がエクアドルに近い日格差があることから,花茎の大きさに加えて切花長も長いのが特徴です。下左の2枚の写真でも判るように,80cm以上の長さの切花が多く見られます。選別された切花は5℃の冷蔵庫で保冷されます。

   

 年間生産本数は2,000万本です。ドイツの花き市場Landagardオランダの花き市場Flora Hollandに収穫量全体の97%を輸出しており,市場以外のスーパーマーケットや仲卸への直接販売は3%と著しく少ないとのことです。
 スーパーマーケットなどとの直接取引を行わない理由として,スーパーマーケットとの契約だと品種選定や規格などの選択権が取引先にゆだねられ,主体性がなくなる可能性が高いためとのことです。
 出荷箱のほとんどにはドイツのLandagard花き市場が記載されていましたが,別の出荷箱にはアラブ首長国(UAE)のドバイの仲卸会社ブラックチューリップ社が記載されている物があったことから判断して,ドイツやオランダへの輸送はエミレーツ航空を用いたドバイ経由で行われているものと思います。

   

 Finacial ControllerのEdward Kaarah氏は輸出先のドイツとオランダに毎年数回訪問して,花き市場の仲卸会社を対象としたマーケティング調査を行い,品種動向,品質と価格との関係,花色と価格の関係などを把握し,翌年以降のマーケティング戦略をたてることに努めています。ドイツ,オランダでの調査時には育種会社を訪れ,新規導入品種を選抜して試作するとのことです。
 栽培品種はMarie Claire, Chelsea, Sunny Rose Wave, Magic Wave, Red Calypso, Rodeo, Sacha, Vivaなどです。ドイツで最も人気の高い品種Marie Claireの販売価格はFOBで0.3〜0.4ユーロ(33〜65円)/本ととんでもない高い価格がついているとのことです。
 話題の中で日本への輸出に対しても強い意欲を示しており,日本の輸入商社の紹介を頼まれました。品質から見て,日本でもエクアドルのバラに匹敵するかなり高い評価を得ることが可能ではないかと思いました。
 2006年の売上げは8,000万シリング(1億4,000万円)とのことで,年間生産本数2,000万本から推計して平均販売価格(FOB)は4シリング(7.04円)/本と推定されます。2007年は1〜7月の半年で9,000万シリング(1億6,000万円)を売り上げており,売上げは昨年の倍増する予想とのことでした。
 昨年の純利益は2,500万シリング(4,400万円)とのことで利益率は31%とのことです。人件費が安く,施設建設費が安いことが関係しています。
 単純な資本計算をしてみました。自己資金での施設建設費1億5000万シリングを10年で償却するとして,年間1,500万シリング。銀行からの借入1億シリングを10年返済するとして,年間200万シリング。銀行への利子返済を平均10%として1,000万シリング。従業員500人の平均給料を5,000シリング/月として3,000万シリング。おそらく農薬肥料費が人件費と同じ程度かかるとして3,000シリング。以上を合計すると年間経費58,700万シリングとなり,ほぼ2006年の年間売上金額と同等になる計算です。
 したがって,10年で自己投資金額1億5000万シリングが回収できる計算です。会社の設立が1998年とのことですので,そろそろ新たな生産施設拡大の時期といえるかもしれません。
 冷蔵庫には台木のナタルブライアー(Natal Briar)と接ぎ穂品種が保存されていました。改植用の苗の生産の準備です。ヨーロッパで育種された品種のロイヤリティーは日本とほぼ同じ1ユーロ程度で,必ず支払っているとのことでした。

 

 花保ち試験はハイシーズンのみ行っており,7月はオフシーズンなので行っていないとのことでした。この点については出荷している以上年間必要なのではないかと思いました。