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Rosette, Agro-tech Ltd.
Anandnagar, Bangarole, INDIA

 2007年3月19日に米村浩次氏団長のインド・バンガロール・バラ産地視察に参加し,Rosette, Agro-tech Ltd.を訪問し,PresidentのMr. Srinivasa R. Kaza氏の案内で施設を見学しました。
 Rosette, Agro-tech社はバンガロール市(Bangarole)の北65kmのNandi Hill丘陵地に位置し,標高が970mと他の生産農場に比べてやや高い場所に位置します。バンガロール空港から2時間程度の距離にありますが,2年後にバンガロール空港が移転するとのことで,さらにアクセスがより良くなります。社長のSrinivasa R. Kaza氏はアメリカでMBAの資格を取っておられ,46歳の新進気鋭の経営者です。Rosette, Agro-tech社は1997年に生産を開始し,インドでの切りバラ生産のパイオニア会社の1つです。
 生産施設面積は10haで,イスラエルのYamko Industries社から輸入した6haのパイプハウスと,3年前にSrinivasa R. Kaza社長が設計,自作した4haの木製ハウスから構成されています。従業員は110人で,年間の切花生産量は900万本,生産性は160本/uとのことです。
労働者の人件費は80ルピー(208円)/日です。Meghna Floritech社の人件費が50ルピー(130円) /日でしたので,これよりも高額の人件費を支出していることになります。MBAの資格を持つSrinivasa R. Kaza社長の経営戦略でしょうか?

   

 生産量のうち40%が輸出,60%が国内販売です。輸出先は,日本,中東(ドバイ),オーストラリア・ニュージーランドで,日本へは9月〜3月に輸出し,オーストラリア・ニュージーランドへは4〜8月に輸出しています。輸出のうち40%が日本向けですので,約350万本が日本に輸出されています。日本への輸出はワイエムエスクラシックを通じて日本に輸出しています。
 日本への輸出方法は以下の3種類の方法をとっています。
マレーシア航空  : バンガロール−クアラルンプール−成田・関西
タイ航空      : バンガロール−バンコック−成田・関西
シンガポール航空: バンガロール−シンガポール−成田・関西
 火曜日の夕方に出荷場を出発したバラは,水曜日に日本に到着し,植物検疫を受けます。
 日本の販売価格は35〜40円/本とのことです。
 中東(ドバイ)は大輪系のバラの大消費地となっており,ドバイでの販売価格は15円/本程度とのことでした。ドバイには大規模な国際的花き集出荷施設であるドバイフラワーセンターがありますが,ドバイを経由したオランダへの輸出について聞いたところ,「ドバイでの切花需要のための輸出であり,オランダへは輸出していない」との回答でした。
 Rosette, Agro-tech社の生産する切り花の60%が国内販売されていますが,インドはBRIC’sの一員として急速な経済成長を遂げており,富裕層を対象とした国内の需要も伸びています。インド国内の販売価格は平均12円/本,高値は35〜40円/本で,輸出より高値で販売される場合もあるとのことです。

    

 

 栽培品種は,タンタウ,プリースマン,オライ・ローゼン,NIRPなどの品種を導入しています。栽培品種のなかで,ファーストレッドはインド国内で人気の赤バラ品種であるとのことです。
 苗はオランダのNoordam Roses India Pvt. Ltd.から導入しているとのことでしたが,定植用の苗木を自家生産していました。

   

 挿し木用土はココピートを混合して排水性を高めたものを使用していました。
台木はNatal BriarとRosa multifloraを用いていました。Rosa multiflora(ノイバラ)は温室の裏に野生化させており,そこから台木の穂木を採取します。

 
 温室の建設費は,イスラエル製のパイプハウスが500ルピー(1,300円)/u,木製ハウスは200ルピー(520円)/uととんでもない低価格です。木製ハウスは一見貧弱で,イスラエル製のパイプハウスの方が立派に見えますが,木製ハウスのバラの生育は極めて良好で,イスラエル製のパイプハウスより収量,品質ともに高いと感じました。その大きな理由としてハウス内の換気効率であると思います。木製ハウスの上部開口部はハウスの最も高い位置にあるのに対して,イスラエル製のハウスの開口部は最上部よりやや低い位置にあるため,熱気がハウス上部に滞留して高温になりやすいことが原因であると思いました。

   
  

 イスラエル製のパイプハウスで,樹勢が低下して養分欠乏症と思われるクロローシスが発生しており,改植しても再び発生するとのことでした。マネージャーの説明では,排水性が悪いためということですが,土壌病害の可能性も考えられます。

 養液管理はVanvliet社の全自動養液管理システムを導入しています。また,イスラエルのコンサルタント会社とアドバイザー契約を交わして,専門家に栽培環境,生育診断,経営診断などを依頼しています。
 水は地下水を用いており,100mの井戸からポンプアップしていました。Rosette, Agro-tech社の周囲の3方が岩山に囲まれており,良質の井戸が確保できる地理条件に恵まれているとのことです。

 

 木製ハウスの生産農場は,選花場から離れているため,牽引トラクターで切花を運びます。選花場は6haのイスラエル製ハウスに隣接しているため,水の入ったバケットを輸送するバケット輸送車で選花場まで運びます。

 

 選花は,Meghna Floritech社と同様に,長さと蕾の大きさ,開花度合いで選別されていました。

  
 大型冷蔵庫の建設に当たり,インド政府(APEDA:Agricultural and Processed Food Products Export Development Authority)からの補助を受けていました。冷蔵庫の近くでは切花保持テストが行われていました。

   

 Rosette, Agro-tech社の取り組んでいる課題として,環境に対する負荷軽減対策を挙げることが出来ます。
 コナジラミは黄色粘着板を用いて防除していました。また,インド原産のニームを用いて防除を行っていました。ニームを処理することでハダニの摂食が減退し,体力が低下したダニに対して殺ダニ剤を処理すると殺虫効果が高いとのことです。殺ダニ剤はローテーションを考えて抵抗性が付かないように散布しており,ニームを使用することで散布濃度や量を低減することが出来るとのことでした。さすが,ニームの本場です!

 

 温室の近くにニームの樹を見つけました。白い小さな花が咲いていました。インドでは,昔からニームの枝を歯ブラシがわりに使っていたそうです。通訳ガイドのネギ氏が使い方を実演してくれました。

  

 また,スリップスの防除に昆虫寄生性の有用土壌微生物資材を用いていました。スリップスは蛹の時期に植物体から土壌に移動します。微生物資材を土壌に処理することで,菌糸がスリップスの蛹に感染して殺虫します。
 年間の肥料・農薬費は10haで400ルピー(1,000万円)で,平米あたり100円,切花1本あたり1.1円です。
 夏季の折り曲げ剪定は行っていません。理由は,折り曲げ剪定することで植物体周辺の湿度が上昇し,ハダニの発生がコントロールできないためとのことでした。
 Cleodendron sp.が温室の入口に栽培されていました。インドでは昔から動物の忌避剤として使用されており,木の葉の抽出物水溶液をスプレーすると,害虫の忌避剤としても使用できるそうです。園芸店で「ネコ寄らず」,「イヌ寄らず」の植物の苗が売られていますが,ヒョッとすると使えるかも?

 熱帯高地の特性として無風地帯であることが挙げられますが,Rosette, Agro-tech社のあるNandi Hill丘陵地では夜間に120km/時(30m/秒)の強風が吹くことあるそうです。
 電気は8h/日の停電があり,問題が多いため自家発電装置を設置していました。インドの問題としてのインフラの整備が重要な課題であると感じました。