萩原研究室  Hagiwara Laboratory since 2013

教員紹介  Staff

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研究室の様子

現在の研究テーマ  Research Topics

外部刺激に応答する双安定性化合物に関する研究


 萩原研究室では、粒子(分子や錯体、錯イオン)を創り、その集合体(結晶)の機能をデザインします。 特に、温度や圧力、光といった外部刺激に応答して機能発現する新しいタイプの物質合成に積極的に取り組んでいます。 機能発現の基盤となる個々の分子の設計に加え、それらの分子を一つのパーツとして捉えて、パーツ間の結びつき( 分子間相互作用の種類や数、強さ、方向性)を戦略的に設計し、分子集合体として優れた機能を発現する物質の開拓を進めています。 研究室に所属する学生は、新しい物質の合成・評価を通じて先端科学研究に触れると共に、個々の分子の構造やそれら分子の結晶中 での集合様式の設計・解明を通じて、理科教員として必要な粒子的なものの見方・考え方を体得していきます。主なテーマは以下の通り です。

・スピンクロスオーバー(SCO)錯体(外部刺激を電子状態スイッチングに)
・飛び跳ねる結晶『Jumping Crystal』(外部刺激を瞬発的運動に)
・様々な強さの結合(相互作用)を利用した分子の集合構造構築法に関する研究

スピンクロスオーバー(SCO)錯体 (外部刺激を電子状態スイッチングに)


 八面体型金属錯体の中には、中心金属イオンを取り囲む配位子の配位子場強度に依存して高スピン(HS)状態、低スピン(LS)状態という異なる二つの電子状態をとるものがあります。中間的な配位子場強度を持つ配位子を用いた錯体では、温度や圧力、光照射といった外部刺激により、これら二つの電子状態間を相互に変換するスピンクロスオーバー(SCO)現象を示すことがあります。SCOを示す錯体は、分子スイッチング素子やメモリー素子、センサー材料等への応用が期待されています。  萩原研究室では、スピン転移特性を左右する分子間の協同効果の本質解明、および実用化に不可欠な室温近傍での巨大温度ヒステリシスの発現を中心的な目標として、研究室独自の1,2,3-トリアゾールイミン型有機多座配位子の設計と錯体合成を行っており、主に次の三つのアプローチによる研究を進めています。

(1)弱い水素結合が網目のように多点で働く超分子単核錯体の開発

 ヒステリシスの発現にはSCO分子間に働く協同効果が重要であり、架橋性配位子を用いた配位高分子構造や、 水素結合、???相互作用等の分子間相互作用を用いた超分子集合構造をもとにした強いスピンサイト間相互作用により 協同効果を生み出す分子設計が提案されてきました。一方で、強い相互作用による分子間の結びつきは、スピン転移に伴う 大きな分子構造の変化を抑制するような負の効果をもたらす場合もあります。そこで我々は、生体系の分子に倣い、 一般的な水素結合よりも弱いCH…X型の水素結合(X = N, O, Fなど)を三次元的に網目のように張り巡らした超分子構造 を設計することで、スピン転移に伴う分子構造変化を柔軟かつ効果的に結晶全体に伝播することができるのではないかと考えました。 この設計方策に基づいて合成した以下の中性単核鉄(II)錯体は、確かにヒステリシスを発現しました。 また、分子の集合様式の異なる2種類の結晶(多形)が得られ、全く同じ分子から構成される結晶であるにも関わらず、 スピン転移温度が室温を挟んで100℃も異なる驚異的な分子系であることも明らかになりました。現在は、この三次元的な 弱い水素結合網に部分的に他の相互作用を導入した分子の合成に取り組んでいます。

多形とスピン転移

・Chem. Commun. 2016, 52, 815-818.

(2)多重双安定性を示す多核錯体の合成

 一つの分子が複数の金属中心を持つ多核錯体であると、 中心金属ごとに外部刺激への応答性に差が生まれ、 多段階のスピン転移を示すことがあります。一分子が多段階でスイッチングすれば、 高密度メモリーとしての利用が期待できます。 我々は、下に示すような二重らせん構造を持つ 二核SCO錯体を世界で初めて報告しました (この成果は、Dalton Trans.誌のInside front coverに選ばれました)。 この錯体は434 K付近で11 Kのヒステリシスを持つ二段階SCOを示し、 これまでに報告されたヒステリシスを示す二核錯体としては 最も高い温度でスピン転移しました。現在は、 二重らせん錯体の架橋アルキル鎖長の修飾や、 さらに核数の多い多核錯体の合成を進めています。

  カバー


・Dalton Trans. 2016, 45, 17132-17140.

(3)高温でSCOを示す錯体を用いた限界特性の解明

 室温以上の温度領域にてSCOを示す化合物は報告例が少なく、高温領域での特性にはまだまだ未解明な部分が多くあります。特に室温以上では、結晶溶媒の脱離や分解、激しい熱運動により、物性評価や結晶構造の解析に困難を伴います。我々の分子系では、室温以上でSCOを示す化合物が多数得られており、それらを基に高温領域での耐久性評価などを実施しています。

飛び跳ねる結晶『Jumping Crystal』(外部刺激を瞬発的運動に)


 温度変化や光照射により瞬発的に飛び跳ねる「ジャンプする」結晶が知られています。 この性質を示す結晶はJumping Crystalと呼ばれており、基礎科学的な興味に留まらず、 スイッチング材料や分子マシーン、アクチュエータなどの応用材料的側面からも近年注目を集め始めています。 飛び跳ねる性質は、分子そのものの形や結晶中での分子配列、分子間相互作用などの 絶妙なバランスにより発現されます。当研究室では最近、SCO化合物の研究で培った 分子構造や分子間相互作用、集積構造の設計、および分子構造変化に関する知見を活かして、 新しい金属錯体系Jumping Crystalの開発をスタートしており、 候補となる分子系を一部見出してきております。

様々な強さの結合(相互作用)を利用した分子の集合構造構築法に関する研究


 生体系に関わる分子は、小さな分子が集まり高度な組織構造を 形成した巨大分子集合体であり、小さな分子単独では成し得なかった 機能を発現しています。この巨大な秩序構造は、様々な強さの結合 (相互作用)を数多く巧みに利用して構築されています。 生命が進化の過程で組み上げてきた巨大な生体系分子の設計に倣い、 高度な組織構造と関連して機能発現するような小分子の自発的集合 方法を模索しています。配位結合や強い分子間相互作用、 弱い水素結合の形成部位を戦略的に小分子に組み込むことで 分子認識能を付与し、狙い通りに分子が集まるための設計方法を研究しています。 また、pHやキラリティにより意図的に集合構造を制御する研究も進めています。

教員に関わるスキルについて


実験技能

 毎日合成や測定実験を行いますので、 器具の取り扱いや実験操作は自然に身につきます。 また、実験手法を改良することもありますので、工夫の仕方も身につきます。 理科の次期学習指導要領では、児童・生徒に観察、 実験などに関する基本的技能を身につけさせるような 育成目標が明確に示されました。つまり教員には、 様々な理科実験の一つ一つを工夫して、 児童・生徒一人一人がしっかりと実験できる 学習環境を提供することが求められています。 日々真摯に実験に取り組み、十分に実験技能を磨いて、 卒業後には自信をもって教壇に立ってください。

観察力

 小・中学校の理科では、見てわかる観察結果や実験事実から 児童・生徒に物事を考えさせることが中心となります。 萩原研究室の卒業研究の大部分には、「目で見てわかる科学」に 主眼を置いたテーマを設定しています。反応の進行具合や新規化合物の結晶性、 機能などを、目視や顕微鏡観察、身近にあるヒーターを用いた温度制御などにより 捉えることで、分析機器に頼らない観察力を優先的に磨きます。 その後、様々な機器分析結果と自分の観察結果を比べながら考察していくことで、 科学的な妥当性を検証していきます。何よりも、金属錯体に特徴的な様々な 色を発する溶液やキラキラと析出する結晶の美しさは、 それ自体が私たちを魅了し、自然と深く観察する心を養ってくれます。

薬品の取り扱い

 錯体合成を行うため、多種多様な有機物、 無機イオンなどの試薬を取り扱います。日々の積み重ねを大切にすることで 薬品の特性は自然に頭に入っていきます。教員になってからも 関係の深い薬品を多数使用しますので、教員になって改めて勉強する 必要はありません。

安全管理について

 研究室で必要な薬品管理や環境改善は、将来、 理科実験室、準備室を管理し、良い教育環境を構築するための一つの 手本になると考えています。教壇に立ってからは、実験経験・ 訓練の少ない児童・生徒を相手にするわけですから、あらゆる危険を 想定するための「気づく」能力が大変重要となります。萩原研究室では、 日々の研究室の管理・改善についても学生と共に行うことを重視しており、 学生からの意見も求めます。様々な工夫の上に実験環境が整備されて いくことを体感し、自ら現場改善ができるような「気づく力」を養ってください。

論文・学会発表など  Publications & Presentations

研究者情報 (researchmap) をご覧ください。