留学生

 

去年の夏にナイジェリア人の留学生が研究室に入った。


入国後1年ほど経って食事事情などを聞いてみると、なかなか不自由しているようである。食べる機会がなくて寂しいといっていた食べ物を羅列すると、 ugu (Naigerian fluted pumpkin leaves、かぼちゃだが実は食べない)、bitter leaves (Vernonia amygdalinaとかいうキク科植物の葉)、ヤム芋(これは東南アジアでも食べる)、なんとか芋(里芋にちょっと似てる)、moi moi(黒目豆の粉をどうかして蒸したプディング)、cowpeaの豆粉(ささげ、スープに入れる)、akara (黒目豆の粉のフリッター(揚げ物)) 、カスタード(トウモロコシの微粉を溶かしてディップにしたもの、卵と牛乳は入るのかと聞くと「それはカスタードではない」とのこと)。私にとっては未知の食べ物が並ぶ。ちょっと調べて見たがアフリカものは日本での購入は難しい。でも、ずっとbitter leavesを食べられていないので体調がいまひとつよろしくない、とかいう。


その昔のアメリカ留学時、ラボにいたイスラエル育ちのユダヤ人ポスドク1は「アメリカには本当のパンがない」と時々愚痴っていた。スーパーで売ってる工場製のパンは確かに本当のパンという感じではないが、町にはイタリア系の食料品店があり、曜日によっては本格的なドイツパン(干ぶどう入りのパンパニッケルはおいしかった)やユダヤのパンであるはずのベーグルを売っていたのだが、お気に召さなかった様子。


ソウルフードというのは繊細なものである。私にしても韓国のキンパを食べさせられて「お寿司食べたいって言ってたよね」と言われても困ってしまう。こんな話も海外では「日本人はスシにうるさい」ということで片付けられてしまうのではあるが、問題の根は深い。フランス人はチーズにうるさいしドイツ人ならハムソーセージだが、美食への欲望ということではなくて、故郷の記憶に関わる問題なのだと思う。


岐阜大学には留学生が多い。近場でインド人留学生が多いのは、インド工科大学とジョイントディグリーというプログラムを走らせているため。インドの大学教授は大きく分けると、上品で物静かな昔の日本の教授タイプ(日本では絶滅してしまったが)と、尊大で他人に命令することに慣れているタイプ2とに分かれる。今現在はシャイな留学生を見て、将来どちらのタイプになるかこっそり想像したりしている。たまにインド式のチャイを振る舞うと喜んでくれる。


ちなみに、インド人は一般的にアルコールは避けがちで牛は全く食べられない。さらに3割程度の人が菜食主義で、この対応が難しい。和食ならなんとかなるか、と思ってもカツオ出汁がダメなので麺類はだめ、和食は全体的にかなり厳しい(高い店へ行けるなら精進料理があるが)。意外によいのがイタリアンで、ここ数年は菜食主義の留学生を食事に連れていくならピザ屋ということになっている。


さて、ナイジェリア料理店どこかにないかと探したら、新宿にはいくつかあるらしい。出張の際にでも一緒に寄れるといいのだが。実はbitter leavesにちょっと興味が湧いている。



2022.3.24


1Daniel Chamoviz  今やBen-Gurion University of the Negevの学長様である。


2インドの空港を出ると頼んでもいないのにポーターの人達に囲まれる。もし他人に荷物を運んでもらうのが苦手なら、「すいませんが、自分で運ぶので大丈夫ですよ。」と何度も言うことになるが、相手がしつこいのでラチがあかない。そのうち命令口調で「荷物に触るな」とハエを追い払うようにポーターを退けるのがいちばんラクなことに気がつく。こうして尊大なインド人的体質が出来上がっていくのである。いわゆるlocal adaptation(局所適応)である。


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