体に悪いレシピ

 

25年ほど昔、アメリカコネチカット州のニューヘブンという小さな町でポスドクをしていた。住んでいたアパートには備え付けのガスオーブンがあったのでときどきパンを作って遊んでいた。テキトーに買ったレシピ本を見ながら作っていたのであるが、あるとき「ビアブレッド」というものに行き当たった。これは、酵母を使わずにふくらし粉とビールの泡の力でパンにしてしまう、という簡単なパンである(混ぜて焼くだけ)。ふくらし粉を使うパンはsoda breadとかself-rising breadと呼ばれており、アメリカ南部では一般的らしい。ふくらし粉が添加された専用の小麦粉が売られているとのこと。

そのレシピ本に紹介されていたビアブレッドであるが、ローフひとつ(一斤)作るのにバター120gを加える(あと生のオレガノ)。120gというのは日本で売ってる箱入りバター(200g)の半分強である。焼き終えてオーブンからローフを取り出して冷ますときに、溶けたバターが焼き型の底に溜まるので上下ひっくり返してバターをなじませるように、とあった。当時の私には底に溜まるほどのバターを入れる勇気が湧かず、指定量の半分弱のバターを投入してお茶を濁したのであるが、思えばこれが「体に悪いレシピ」との最初の遭遇であった。


レモンケーキ 

大学の食品実習で作る。組成はフランス伝統の焼き菓子quatre quart(4/4の意味、小麦粉、砂糖、バター、卵を同量使う)から卵を除き、バターをマーガリンに変えた、みたいな感じである。おまけでレモンとバニラエッセンスを入れる。実習なので原料の砂糖とマーガリンの量を直接見てしまうところがポイントで、100gのケーキには30gの砂糖と30gのマーガリンが入っているということが実感できる。市販のケーキも組成においては大差ないとは思うが、舞台裏を知らないので平和に頂くことができる。何事も「無知は力なり」である。


チャーハン 

大学の近くの台湾料理屋のチャーハン(¥480)は日によってあたりはずれがあり、うまい日のチャーハンは焼豚と油の量が多い。油の量でいえば、ご飯の一粒一粒が油でコーティングされてつやつやしている、くらいなのがうまい日のチャーハンであり、はずれの日のチャーハンは油が足りてなくてぼそぼそになる。別の店(定食屋)のチャーハン(¥700)はいつもうまいが、いつもごはんがつやつやである。

さて、ウチでチャーハンを作るときはあたりの日の台湾料理屋にならって焼豚と油は多めに入れる。そうすると油は小さじとか大さじとかとはちょっと違うスケールになる。卵が油を吸うので困るな、とかいいながら油を追加したりもする。焼豚が無ければウインナーで代用する。 白ネギも入れる。 味付けは塩胡椒と醤油ちょっと。

何かの本で読んだのだが、かの本場中国では「浅い油の海の中央に(油で)しっとりとしたご飯が島のように盛り上がっている」タイプのチャーハンを本式とする向きもあるらしい。いわゆる本場しっとり系チャーハンである。


豚バラ丼  

陳健一のレシピ。豚バラを中火でゆっくり炒める。豚バラの脂がとけて赤身がカリッとしたら豆板醤(本場の黒いやつ、日本の赤いのなら辛いので1/3程度に減らす):甜麺醤(赤味噌でも)(2:1)とにんにくを加える。白ネギもいれてさらに炒めて、酒:醤油(1:1)、砂糖胡椒少々を加えたら熱々のご飯にのせてできあがり。陳建一によれば、「豚バラから溶け出した脂がご飯にからんで絶品」とのこと。油にまみれてくたっとした白ネギもうまい。材料は少なくてすむし何よりうまいのではあるが、出番が少ないのはコンセプト的に「ラード丼」みたいになっているところかも。


マッシュポテト 

ジョエル・ロブションの名物料理のひとつ。私は行ったことがないが、レストランではビーフステーキ(ビフテック)の添え物として現れるらしい。アイスクリームよりも滑らかな食感が特徴である。ジャガイモを茹でて皮を剥いた後マッシュして弱火にかけながらジャガイモの1/20量(v/w)の牛乳と1/4量の無塩バターを混ぜ合わせ、塩胡椒して完成。冷蔵庫には入れないで出来立てのぬるいのを食べる。 ロブションによればバターはジャガイモの半量まで増やしてもよい、とのこと。つまり、じゃがいも大2個(400g)に対してバターひと箱(200g)である。 作れば確実にうまいのではあるが、これも出番は少ない。


何より困るのは上記の料理はとてもうまいことである(レモンケーキは除く)。うまさの核心部にラードやバターがいるので減量できないのが悩ましい。悩ましいといいながら、揚げたてのビーフカツレツ(ビフカツ)にバターをのせて食べたりしている(悩んでない)。


2020.6.30



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