科学者のミッション

 


植物生理学会(2018. 3/27-30、札幌)でノーベル賞受賞者の大隅良典先生の講演があった。受賞以来昨今の日本の応用研究偏重に対する警鐘として、基礎研究の重要性を説いておられる。バブル崩壊後日本の科学政策はいわゆる「後進国型」に回帰しており、端的に言えば「儲かる」研究にシフトしている
のであるが、大隅先生はその点を危惧されている訳である。このスタイルでは研究が先細ることになるのは目に見えている。種まきをしないで収穫だけをしてるようなものであり、刈り取るものがある今はよいが後々困ることになる。種まきというのは誰にでもできるものではないが、幸い日本人には比較的能力があるように思う。向いているというか。


科学者は開拓者である。今まで見えなかったものを見えるようにしたり、できなかったことをできるようにする、のが主なお仕事である。現代においては雇用主は「社会」であり、雇用主のニーズに沿って仕事をこなす。「月へ行きたい」というニーズがあれば行けるようにする。「海の底がどうなっているのか知りたい」のなら、調べて、理解してレポートする。


大きなニーズは大科学者が取り組み、小さなニーズは小科学者が担当する。科学者全員がノーベル賞級の仕事に取り組んでいる訳ではないが、リベラルな社会なので大小地続きなのが特徴であり研究者社会の魅力のひとつである。大きなニーズについて言えば、「この世界(宇宙)はどのようにできあがっているのか」、「我々生物とはどのようなものなのか」、という問いに答えるのが二大目標である。


このあいだ、10年ほど昔のドラマを見ていたら「世界はどうでもいいこととどうにもならないことでできている」という閉塞感のある台詞がでてきた。主人公の猫目の男子高校生の台詞である。考えてみれば我々人類はどうでもいいこととどうにもならないことの間のうすい隙間のところで活動している、ということになるのだろうか。ジャムサンドのジャムの層というか。


この薄い隙間の中で、科学者はどうにもならないことをどうにかできることに変えていくという活動を続けている。ある意味魔法である。


一見どうでもいいこと、から役立つ情報を引き出すのも科学者は得意である。例えば、微小な粒子が水中でジグザグに揺れるというホントにどうでもいいような現象は、1827年に「ブラウン運動」という名前が付けられ数理モデルが作成されている(ウィーナー過程)。細胞生物学の分野においては細胞中の生体高分子の分子間相互作用の検出にも利用される。細胞中のひとつの分子を顕微鏡下で連続的に観察すると動きが鈍くなる(=分子が重くなる)ときがあり、そこから「他の分子が結合した(ので重くなった)」という有益な情報が得られる(蛍光相関分光法という)。


隙間を広げる活動をして、どこをどのくらい広げたか、という成果が重要なのはもちろんではあるが、活動をしているというそのこと自体にも意味があるのではないかとときどき思う。これがなくなると世界は世知辛いゼロサム社会になり、戦争の機会が増えるような気がする。


とか考えると、科学者の仕事には隙間を広げる活動を通じて「夢を与える」ということも含まれているのかも知れない。夢を与える仕事、それが科学者2




注1)博士課程の卒業年度になって自分の進路に迷っている学生を見かけたので今回の文章を書いてみた。研究職楽しいですよ。高学歴、低収入、でも高満足。

注2)夢だけを与える仕事はまた別の職種である。エンターテイナーとか詐欺師とか。


  1. 2018.4. 4


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