植物分子生理学研究室
Lab for Plant Molecular Physiology, Fac Appl Biol Sci, Gifu University
some selected articles
Plant thermosensor
Jung JH,,,Wigge PA (2020) A prion-like domain in ELF3 functions as a thermosensor in Arabidopsis . Nature 585: 256-260. PubMed
これまでの植物温度センサーに関連する報告としては、光応答に温度修正の仕組みがあり低温では光応答が促進され高温では抑制されること、その際の温度センサー(温度を感じる分子)としてはフィトクロム(2016)、フォトトロピン(2017)であること、が報告されている。フィトクロムもフォトトロピンも光センサーである。光を受けると活性型になりその後暗所で放っておくと不活性型に戻るがその復帰の速度が低温では遅くなる(=活性状態が長引く)、というのが両者に共通する温度感知の分子機構である。
2020年のこの論文では転写因子であるELF3(壊れると開花が早くなる)に温度センシングの機能があることが報告されている。推定転写活性化ドメインが低温下ではプリオン様ドメインの下で隠れているが、温度が上がるとプリオン様ドメインが外れて推定転写活性化ドメインが露出される、というのが今回提唱されている分子機構。温度による転写因子の活性調節ということなので汎用性があるところがとてもよい。
今回の報告によりELF3と同様のしくみを持つタンパク質が他にあれば配列の特徴から検索できるようになった。
Origin of eukaryotes
Imachi H,,,Takai K (2020) Isolation of an archaeon at the prokaryote-eukaryote interface. Nature 577: 519-525. PubMed
真核細胞のホストの起源が嫌気性古細菌であることを同定。真核細胞に含まれるミトコンドリアの起源はαプロテオバクテリアであり葉緑体の起源はラン藻であること、これらの細菌が細胞内共生を行い共生関係を深めたことでミトコンドリアと葉緑体という細胞内小器官に進化(というよりは退化)したことは広く知られているが、これらの細菌を受け入れたホスト細胞については実は特定されていなかった。有力な仮説として細菌起源説と古細菌起源説があったのだが(まるで絞れてない)、はっきりしなかった。実は私は学生の時から古細菌起源説以外はありえないだろうと思っていた(何をアピールしてるのやらですが)。
2020年に日本の海洋研(JAMSTEC)が発表した論文では、深海の海底沈殿物から採集された嫌気性古細菌Prometeoarchaeum syntrophicumのゲノム配列が真核生物と古細菌の正に境界に位置することが報告されている。真核生物に最も近い非真核生物ということでこれが真核細胞のホストの起源であると結論づけられた(これが、と言っても現存種ではなく15〜20億年前に生存していたと想像される祖先種かその近縁種)。この生物が嫌気性であること、アミノ酸を栄養とし水素と有機酸を放出すること、クモヒトデ状の形状をしており中心部にDNAを保有していること、等々の状況も真核細胞のホストの起源であることを支持している。嫌気性の古細菌が水素と有機酸をエサに酸素を解毒できるαプロテオバクテリアを共生させ(αプロテオバクテリアは水素利用しないので別のバクテリアが介在すると考える)、その後細胞内共生、オルガネラ化と進めたというのが今回のシナリオである。
また、クモヒトデ状の中心部にDNAを保持している部分が核の起源となったと考えられる。真核細胞の核膜は二枚あるが両方ともホスト細胞(共生菌ではなく)の原形質膜が起源であり、内側の膜はクモヒトデの中心部由来で外側の幕はクモヒトデの腕由来、腕が膨らんで真核細胞の細胞質になった、という解釈になる。
真核細胞が普通に持っているはずの呼吸系の遺伝子群が同定された古細菌には無かったのでこれらはαプロテオバクテリアが持ち込んだものらしい。
真核細胞の成立過程については2005年にBill Martinが7つの仮説を紹介しているが(Curr Opin Micorbiol 8: 630-637, 2005)、全部ハズレとなってしまった。
ということなので、真核細胞の出現をプッシュしたのは毒性のある酸素が大気中に蓄積しているという状況である。酸素を地球規模で生産したのは酸素発生型光合成細菌であるラン藻なので、ラン藻のおかげで我々真核生物が世にでることができた、ということになる。
非常に大きなニュースだったのでネイチャー10大ニュースに 異例の前倒しで選出された(ニュース選出は2019、論文出版は2020)。
ちなみに責任著者の人は以前日経に連載されていたような気がする。フルネームで「高井研」というのだが、これだと高井研究室の略称と同じになるのでややこしいな、とか思ったので記憶に残っている。
<ここから上は継時的に載せていきます(新しいのを上に乗せるスタイルで)2023.1.20>
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Plant Stress Physiology
Li Z, Wakao S, Fischer BB, Niyogi KK (2009) Sensing and responding to excess light, Annu Rev Plant Biol 60: 239-260. PubMed
強光ストレスについてのレビュー
Photosynthetic Sea Slug, Kleptoplasty
Evertsen J, Burghardt I, Johnsen G, Wägele H (2007) Retention of functional chloroplasts in some sacoglossans from the Indo-Pacific and Mediterranean, Mar Biol 151: 2159-2166. PubMed
光合成ウミウシの絶食時(葉緑体の供給を止める)のFv/Fm値の動向をいくつかの種で比較した。盗葉緑体はFv/Fm値(PSIIの健全さの指標)を下げながらウミウシの細胞から消えていく、ことがわかった。葉緑体数の減少はFv/Fmの減少の理由にはならないので、葉緑体が消える前に「生理学的な無理」が高まっている、ことが示唆されることになる。
Johnson MD, Oldach D, Delwiche CF, Stoecker DK (2007) Retention of transcriptionally active cryptophyte nuclei by the ciliate Myrionecta rubra, Nature 445: 426-428. PubMed
繊毛虫Myrionecta rubraの細胞の真ん中にある核は実はクリプト藻Geminigera cryophila由来の「盗核」であることをin situ hybridizationにより同定。ついでにクリプト藻由来の葉緑体やミトコンドリアも含まれていることがわかった。とはいえ、これらもクリプト藻がまるごと入った「細胞内共生」ではなくて、「盗葉緑体」や「盗ミトコンドリア」である。盗核はちゃんと転写活性が維持されており、mRNAを産出しているのであった。生物のアイデンティティーについて深く考えさせられる現象である。核をモジュール化していいのか?盗核が利用不可能なときはどうする?
ちなみに、クリプト藻の葉緑体は二次共生によって獲得されているという点もこの現象に「深みを与えている」。海の生き物はよくわからない。
Plant Synthetic Promoter
Rushton PJ, Reinstadler A, Lipka V, Lippok B, Somssich IE (2002) Synthetic plant promoters containing defined regulatory elements provide novel insights into pathogen- and wound-induced signaling, Plant Cell 14: 749-762. PubMed
Increase of copy number of a cis-element in a promoter causes higher expression accompanying with higher background.
転写制御配列の繰り返し回数の効果を見ている。植物の合成プロモーター研究としては初の本格的な論文。
Puente P, Wei N, Deng X-W (1996) Combinational interplay of promoter elements constitutes the minimal determinants for light and developlental control of gene expression in Arabidopsis, EMBO J 15: 3732-3743. PubMed
Combination of cis-elements causes unexpected effects
植物で転写制御配列の組み合わせを見た初の報告。光合成関連遺伝子などから見つかった2つの制御配列の組み合わせで、組織特異性と光応答性を同時にもつものが作成できた。
Plant Genomics (Functional, Comparative, Evolutionary, Population,,,), QTL, GWA, LD
Atwell S,,,,Nordborg M (2010) Genome-wide association study of 107 phenotypes in Arabidopsis thaliana inbred lines, Nature (in press) PubMed
Paving the way for Arabidopsis GWAS, encountered a problem caused by the solid population structure
近頃Nature Genetics誌の8割を占めているのがヒトの全ゲノム相関研究(Genome Wide Association Study, GWAS)である。ヒトで出来て植物で出来ないハズはない、ということでシロイヌナズナでは1001 Genomes Projectというのが進行中である。ヒトの場合は患者と健康者を集めてSNPタイピングする(患者 vs 健康者で分ければ表現型タイピング完了)が、植物科学者の野望はそんなものではない。1)世界中からシロイヌナズナの野生型(表現型の多型を持つ)を数百系統用意する、2)全部のゲノム配列を決定してしまう(1001 Genomes Project)、そこで、3)表現型タイピングすれば2)の結果を使ってGWASが出来てしまう、というストーリーである。2)は一度やっておけば二度やる必要はないので、オンデマンドでやるのは3)の表現型タイピングだけである。つまり、「表現型タイピングをする」と、「GWASが出来て原因遺伝子が同定される」のである。すばらしい。
実際にやってみたところ(シークエンシングはまだ進行中)、、、ヒトと比べれば相当少ないサンプリング数(たかだか100~200系統である)でハプロブロック程度にまではマッピング出来てしまう、が、サンプル数を増やしても確実に一遺伝子座におとせるということにはならなさそう、という感触である。ナズナは最近は自殖率が高くて(1.0である)、集団構造がカタイのであった。何かもう一工夫必要、もしくは材料を変えるか。
それにしてもNatureというハレ舞台に現れた割には否定的な文章が多いのであった。
Turner TL, Bourne EC, von Wettberg EJ, Hu TT, Nuzhdin SV (2010) Population resequencing reveals local adaptation of Arabidopsis lyrata to serpentine soils, Nat Genet 42: 260-263. PubMed
Comparison of genome variation in populations for ecological studies, a batch method
シロイヌナズナ近縁種の「生態ゲノム」解析。蛇紋岩地帯(超塩基性土壌)と比較地域に生息するナズナ近縁種を25個体づつサンプリングし、バッチで次世代シークエンサー(Illumina社の超並列型)にかけ、出現アレルの頻度解析をゲノムワイドに行った。蛇紋岩地帯において濃縮率が高いアレルがそこでの適応に重要である、というロジック。掃き出されて消えてしまったアレルや100 %占有アレルがあると占有度は計算できても淘汰圧は測れないということはあるが、十分解決できる問題である。占有度比較でいうとトランスポーター関係の遺伝子がランキング上位を占めており生理学的にも納得のいく結果。ということで生態学とゲノム科学を繋ぐ新しい研究分野が開拓されたのであった。☆☆☆!
Ossowski S, Schneeberger K, Lucas-Lledo JI, Warthmann N, Clark RM, Shaw RG, Weigel D, Lynch M (2010) The rate and molecular spectrum of spontaneous mutations in Arabidopsis thaliana, Science 327: 92-94. PubMed
Comparison of the whole genome sequences between original and descendants after 30 generations revealed spontaneous mutation rates (one substitution per a generation)
シロイヌナズナを栽培室内で30世代継代して、前後で全ゲノム配列決定、比較して変異を調べた。世代あたり1塩基置換が起こる、というのが結論。
Kover PX,,,, Mott R (2009) A Multiparent Advanced Generation Inter-Cross to fine-map quantitative traits in Arabidopsis thaliana, PLoS Genet 5: e1000551. PubMed
Trial for smooth GWAS using multiple sets of RI lines
シロイヌナズナは自殖率が高くてGWAには不向きだ、というならQTLの方から拡張すればいいのでは、という論文。
Clark RM,,,Weigel D (2007) Common sequence polymorphisms shaping genetic diversity in Arabidopsis thaliana, Science 317: 338-342. PubMed
Detection of genome-wide SNPs using oligoarray among 20 accessions, the most variant gene family is related to stress response.
1001 Genomes Projectの一環。シロイヌナズナ20系統をリシークエンシングしてSNP discoveryした。最も変異が多い多重遺伝子族はストレス系のものだった。
Yamamoto YY, Tsuhara Y, Gohda K, Suzuki K, Matsui M (2003) Gene trapping of Arabidopsis genome with a firefly luciferase reporter, Plant J 35: 273-283. PubMed
自分の論文を入れてみる。植物のライン化が進まなくて思ったほど利用が広がらなかったが、ベクターのリクエストは多かった。特に概日リズムの研究者に人気があった。ルシフェラーゼを用いた遺伝子トラップ(初!)、ナズナで機能するIRESの発見(これも初)、T-DNAの単コピー挿入系統の選抜(これも)、といったあたりがセールスポイント。
Promoter Analysis
Thomson JP,,,Bird A (2010) CpG islands influence chromatin structure via the CpG-binding protein Cfp1, Nature 464, 1082-1086. PubMed
Trans-factor for CpG islands is identified
哺乳類で最もメジャーなCpG型プロモーターではあるが、転写開始の分子機構は実は分かっていなかった。CpGアイランドはSp1に認識される、というレビューも出ていたくらいである(そんなハズはないと思う)。
Sasaki S,,,Morishita S (2009) Chromatin-associated periodicity in genetic variation downstream of transcriptional start sites, Science 323: 401-404. PubMed
Nucleosome-free regions show higher mutation rates
メダカの2系統のゲノム比較からDNAのヌクレオソーム領域では変異が少なく、多いのはヒストンが巻いてない領域であることを発見。
Yamamoto YY, Yoshitsugu T, Sakurai T, Seki M, Shinozaki K, Obokata J (2009) Heterogeneity of Arabidopsis core promoters revealed by high-density TSS analysis, Plant J 60: 350-362. PubMed
自分の論文を載せてみるシリーズその2。Carninciらのマウスでの先行研究を忠実になぞった仕事(自嘲してどうする)。しかし掛かった経費はおそらく1/100程度(推定)なのでCPは抜群(!?)。この仕事でTSSが同定できた遺伝子は全体の1/3程度なので課題は残るが、コア構造の解析としてはこれで打ち止め。
Yamamoto YY, Ichida H, Matsui M, Obokata J, Sakurai T, Satou M, Seki M, Shinozaki K, Abe T (2007) Identification of plant promoter constituents by analysis of local distribution of short sequences, BMC Genomics 8: 67. Journal Site
その3。解析が終わり論文としてまとめている時に同じアイデアでヒトのプロモーターに対して解析したという報告を見つけてしまって(FitzGerald et al, Genome Res 14: 1562, 2004)、もうがっくりである。慣れない作業も多く(頭を使うとか:)思い出深い仕事の一つでもある。バイオインフォ初論文(祝!)。
Blanchette M, Bataille, AR, Chen X, Poitras C, Laganiere J, Lefebvre C, Deblois G, Giguere V, Ferretti V, Bergeron D, Coulombe B, Robert F (2006) Genome-wide computational prediction of transcriptional regulatory modules reveales new insights into human gene expression, Genome Res 16: 656-668. PubMed
Subgrouping of cis-regulatory elements for their appearance site in gene structure
転写制御配列はモジュールとして集合している、という主張の論文であるが、-100 kbp, -1 kbp, 1st intronで異なる種類の制御配列が現れる、という結果はインパクトあり。遺伝子の3’側にも制御配列モジュールが。
Carninci P, Sandelin A,,,, Hayashizaki Y (2006) Genome-wide analysis of mammalian promoter architecture and evolution, Nat. Genet. 38: 626-635. PubMed
Large scale TSS analysis
Cap-Trapper法により調製された転写開始点(TSS)タグを大量同定することで、転写開始点の利用度が定量解析できる。例えば、構造遺伝子に対するプロモーターの位置が特定できる、一つの遺伝子に対して複数のプロモーターがある(オルターナティブプロモーター)場合がわかる、一つのプロモーターについてTSSの分布パターン(一点集中型か散在型か)がわかる。ゲノム配列からコアプロモーターのタイプ(TATA型かCpG型か)が同定できれば、上記の特性と相関をとることが可能になる。
de Gobbi M,,, Higgs DR (2006) A regulatory SNP causes a human genetic disease by creating a new transcriptional promoter, Science 312: 1215-1217. PubMed
A SNP creating a new promoter
ヒトの遺伝病(αサラセミア)を引き起こす優性のSNPにより新しいプロモーターが生じているということを発見。ヒトといえども構造遺伝子の外のSNPの生物学的解釈はまだまだ困難であるが、こういう例も。rSNP(regulatory SNP)と呼ばれる。
Taylor MS, Kay C, Carninci P, Hayashizaki Y, Semple CA (2006) Heterotachy in mammalian promoter evolution, PLoS Genet 2: e30. PubMed
TATA-type promoters are more conserved
プロモーター領域に変異が生じる頻度を哺乳類の種間比較により解析。他のプロモータータイプと比較すると、TATA型が最も変異が少ない(変異が許されない、というか)ことを発見。
Fujimori S, Washio T, Tomita M (2005) GC-compositional strand bias around transcription start sites in plants and fungi, BMC Genomics 6: 26. PubMed
CG-skew in plant and fungal promoters
CG-skewというのはDNAの表鎖と裏鎖とでCとGの出現頻度に偏りがある、という意味であり、転写(遺伝子)の向きに対してCGの出現が非対称になっている。植物とカビとで共通する性質(動物は違う)がある、というのが印象的。
Schug J, Schuller WP, Kappen C, Salbaum JM, Bucan M, Stoeckert CJ Jr (2005) Promoter features related to tissue specificity as measured by Shannon entropy, Genome Biol 6: R33. PubMed
Preference of TATA type-promoters in regulated genes with tissue-specific expression, CpG type for constitutive expression
発現に組織特異性がある遺伝子はTATA型のプロモーターを持ち、恒常的な発現を示すものはCpG型である、ということを示した。題名のシャノンのエントロピーというのは発現の恒常性(裏返すと制御の強さを示すことに)を測るのに使われた。読者を選別するかのようなタイトルではある(客を減らしてどうする?)。
last updated in May. 2010
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