おすすめサイエンス本

 

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科学関連で読んで損はない、という本を紹介するページです。古典だと色々有名どころがありますが、比較的新しくて読みやすい本を抜粋しました。 まるで褒めてませんが、すべてオススメです。


サピエンス全史 ユヴァル・ノア・ハラリ(河出文庫)

4月末に骨折した。1週間の入院の後半はiPodで落語ばかり聞いていた。退院後買って読んだ本がこれ。

アマゾンとアフリカの狩猟採集を行う原住民族ではひとつの集落の最大サイズが120人程度で、それより大きくなると分裂する(関野吉晴)。リーダーありのface to faceのネットワークで意思の統一がとれる限界サイズということらしい。ゴリラやオランウータンでもやはり150頭くらいが集団の最大とのこと(本書)。

さて、ヒト属は同じ科のゴリラ、チンパンジーから離れて100万年前ごろに現れたが、もとはヒト、ローデシア人(アフリカ)、ネアンデルタール人(ユーラシア)、デニソワ人(アジア)、フローレス人(インドネシア)が群居していた。ヒト以外の種や亜種は13~1.5万年前にすべて絶滅している。ヒトはこれらのヒト属の中で最も体格や運動能力が優れていた訳ではないが、戦闘により他のグループをすべて全滅させてきた、ということになる。

ヒトの何が優位だったか、というと、おそらく戦闘時の集団サイズが150を超えてとりわけ大きかったこと、それを可能にしたのは高級言語の使用に基づく共同幻想の実現、というのが著者の主張。共同幻想というのは、例えば占い師のお告げや族長の神聖性とかではないかと思われる。150人を超えて多数の人間を束ねることができるこの共同幻想というものは、今では宗教(キリスト教、イスラム教、仏教)や法律、愛国心、帝国主義、共産主義、自由主義に引き継がれている、ということも主張されている。これらはすべて人を束ねる効能を持つが生物学的に必然性のあるものではないとのこと。

さて、価値観の足並みを整え大きな集団を作ったとしても、それだけで安心できるわけではない。近代以降軍事力は進歩するものになり、強い集団をつくるには日々兵器開発を行う必要が生じた。大国は科学〜工学〜兵器開発をシームレスに支援し、大国としての力を維持する必要がある。そのためには強い経済力も必須となる。

楽しい話ではないが現実なのだから仕方ないか、というのが読後の感想。インパクトは大。ヒトの幸福の実現方法について話を展開しているときには中国の古典を読んでるような感覚になった。合理主義を徹底するとなぜか文学になる。

2024.5.31



若い研究者のために

内藤記念科学振興財団事務局編 (内藤記念科学振興財団)

エーザイ(株)の財団が科学振興賞というのを毎年出している。受賞者は岡崎令治、岡田節人、野依良治、郷通子、田中啓二ほかバイオ・化学界の重鎮。これらの受賞者と三浦謹一郎(スキーヤーにあらず)、中西重忠等の財団理事(この人たちも重鎮の研究者)に数ページずつ若い研究者向けに書いてもらってできたのが本書。だいたい皆さん「オリジナルな研究テーマを見つけるのがいかに難しくまた価値があるか」を述べておられる。「権威を疑え」「流行を追うな」等々。

優れた研究を行うにはどんな能力が一番役に立つのだろうか。テストで100点とれる能力は有用ではあるが、実はそれほど重要ではない。時に勇気も必要だが、勇気だけの人(注1)は期待値は低い。常識人は向いてない(注2)。常識から離れても論理についていける人はとてもよい。そういった脱線を楽しめる性格もよいと思う。

大科学者というのはイメージとしては探検家なのだが、大場所でかつ踏破可能なところを探し出す能力は具体的には何にあたるのやら。。。(注3)

本書は内藤コンファレンスに参加した際に貰ったものなのだが、非売品なので本屋には置いてない。教授の本棚とかを探してみて下さい(注4)。

注1)=バカ

注2)「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのこと」by アインシュタイン

注3)仮説1:整理力、仮説2:広い視野(よく見える)、仮説3:推察力(見えないところを推し量る)、仮説4:想像力(推し量れないところは想像する)、仮説5:美意識(羽ばたく想像力!)。どれが効くのやら。

性格面で言えば、自信過剰で強引な性格はプラスに働く場合とマイナスに働く場合がある。謙虚さもプラスに働く場合とマイナスに働く場合がある。強引かつ謙虚、みたいなのがいいかも(?)。

注4)アマゾンで古本売ってました(2023.8.8)。


夏は旅行記、ということで3つまとめて紹介(2023.7)。本ページの下の方にある「資源植物学フィールドガイド」も旅行記として読める。

1)チベット旅行記上下 河口慧海(講談社学術文庫)

明治30年(1897)に日本人のお坊さんが仏教の原典を求めてチベットへ行く話。日本にある仏典は漢訳ばかりで、訳によって内容に違いがある。また、中国で加筆された話があったり(あの拈華微笑の逸話は中国での創作らしい)するので、原典を知りたい、というのが旅行のモチベーション。仏教が廃れてしまったインド本国には仏典はあまり残っておらず、ネパールとチベットに翻訳ではあるが信頼度の高い仏典がありそれらを求めることになった。問題は当時チベット国は鎖国しており公式な方法では外国人が入国できない状況だった、ということ。そこから話は学術調査というよりは冒険談になっていく。

ネパールから関所を避けてチベットへ密入国するには道のないヒマラヤを抜ける必要があり、地元の貿易商人等に「正規の街道を通ると税金大変でしょう」とか言ってそれとなく抜け道(裏道)を探っていく。行くとなれば夏とはいえ標高5,000mのヒマラヤの雪山を2週間かけ踏破するのだから命がけである。ネパールで雇った道案内は帰し、荷運び役の羊二頭と共に人はいないが雪豹ならいるという山岳地帯を歩いて超えるのだが、予想通りいろんな災厄に見舞われる。砂嵐に出会う、疲れ果てた羊が雪原の真ん中で座り込んでしまう、氷の浮かぶ河で流される、靴を履きつぶして足が血まみれになる、高山病で吐血する、街道では山賊に襲われる、等々。

が、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」ということでなんとか峠を越える。寺巡りをしつつ首都ラマに到着し、チベット人と偽りチベットで二番目に大きな寺院(大学)へ入学する。最後は日本人とバレそうになり5つある関所をどうにかしつつ超高速で出国し、シッキム国経由でインドダージリンへ逃げる。世界には浮かばない瀬も多々あるなか、強い信心を支えに奇跡的に無事生還できたのだが、慧海は「釈迦牟尼如来の御加護のおかげ」と解釈する。

文中に「カムの国(チベット東部)は強盗本場の国」という表現が何度か出てくる。強盗は「羊を斬るように人を斬る」とも。そのあたりの諺として紹介されていたのが次の一文。「人殺さねば食を得ず、寺廻らねば罪消えず。人殺しつつ寺廻りつつ、人殺しつつ寺廻りつつ、進め進め。」

旅行記とは関係ないが、チベット国は第二次大戦ののち中国共産軍に侵攻され消滅、文化大革命(1976-86)の際にチベットの仏典、仏像、寺院はほぼすべて破壊された。慧海のみた世界も遠い昔の話になってしまった。

2)イザベラ・バードの日本紀行上下 イザベラ・バード(講談社学術文庫)

イギリス人女性(当時47歳)のイザベラバードが明治11年に単身江戸から北海道まで旅行する話。通訳として英語も話せる青年を雇って連れて行くのだが、十全に信用できるという状況ではない(持ち逃げの恐れあり)。そもそも危険な旅行なので周囲の人達は反対するのだが、結局は無事北海道まで旅してしまう。ルートは江戸、粕壁(春日部)、日光(金谷ホテルに滞在)、小佐越、藤原、五十里、横川(男鹿高原)、会津若松、宝川、津川、新潟、越後下関、小国、今泉、赤湯、山形、新庄、湯沢、横手、秋田、能代、大館、弘前、青森、函館、大沼、八雲、長万部、有珠、室蘭、白老、平取、苫小牧。交通手段は街道で借りる馬か徒歩。 当時の日本人や地方の状況が面白い。

3)北海道犬旅サバイバル 服部文祥(みすず書房)

これは2023年9月に発刊予定の本。内容は雑誌岳人に連載されていた。

登山者が山を見るなら、山頂までのルートを探して難易度や道中の眺めを推察するのが普通。だが、同じ山でも狩猟者が見ると鹿の通り道を探すので見方が異なる。鹿は山頂には何の用もないし、登山道で好まれる尾根道(落石がなく迷いにくい)にも用途がない。食べ物が多い沢や湿原を峠で繋いでいくのが鹿の道である。ということで、鹿の気持ちになることで「違う世界が見えてくる」らしい(私は経験ないですが)。

著者はお金を持たないで北海道を旅すれば、「開拓前の原始の山々が見えてくるのではないか」との考えを得て宗谷岬から襟裳岬までの山中を沢伝いに2ヶ月かけて歩き通した。携帯電話やGPS、腕時計、ラジオ等の電子機器は持たない。明日の天気は雲の位置と風向きから予測(旅の途中でテレホンカードを発見してしまい、町に出ればちゃっかり公衆電話で天気予報を聞いたりしている。)。食料は山小屋にデポしておいた米と調味料プラス現地調達分。ゴール間際で地元のおじさんに小銭を貰うのだが、どう使うか思案するところがかなり面白かった。


日本人の英語

マーク・ピーターセン(岩波新書)

私は大学院生の時から英語の論文を書いているのでかれこれ、、、30年以上は英語のテクニカルライティングを続けてきたことになる。アメリカ留学のおかげで会話で困るようなことは大分減ったが(といって流暢に話せる訳ではない)、書くのは今でも難しい。

今だにわからないのが冠詞の使い方である。例えば「葉緑体」と書くなら a chloroplast, chloroplasts, the chloroplast, the chloroplasts、それと chloroplast の5通りがある。が、どれを使えばいいのかよくわからないことが多々ある。a chloroplast と the chloroplasts を使う状況はあまりないが、残りの3つのうち「この場合はどれがいいのか」はほぼわからない。記憶を頼りに「目にしたことがある」ようなのを選んで書いてはみるものの、当然自信はない。

ちなみに「細菌」と書くならa bacterium, bacteria, the bacterium, the bacteria,  bacterium の5通りである。Wikipediaの項目にBacteria(複数形)が立てられているのは単数形のbacterium よりbacteria の方が「一般的」だからということらしいが、複数形の方を一般的に用いる感覚は私にはわからない。他の項ではたいがい単数形なのに、とか思ってしまう(Fungus, Bean, Sand, Mitochondrion )。

時制についても少しあやしい。実験をした、とか事実を書くなら過去形でよいのだが、不変の真理は現在形で書くことになっている。「####の実験の結果****ということが解った」と書きたいとき、****は真理なので現在形でいいのかそれともこの場合は真理というほどのことでもないので過去形になるのか。論文中で考察する際は過去形で表現するのがいいのかそれとも現在形なのか。

論文を書いた後は必ず知り合いのイギリス人研究者(アルバイトで英文添削をしている)かプロの英文添削業者、たまに英語ネイティブの留学生に英語の添削をしてもらうのであるが、恥ずかしながら今でも相当直される。

紹介の本は1988年出版のロングセラーであるが、最近同僚の先生が読んでいたので私も手にとってみたら、上記の長年の疑問について丁寧に説明してあったのを見つけた。もっと早く読んでおけばよかった、ということで私からも推薦したい。続編に「続日本人の英語」、「実践日本人の英語」があり、これらもためになる。


Cooking with Pomiane

Edouard de Pomiane (Serif, London)

英語の小説を最後まで読むのはなかなか大変だが、新聞や雑誌なら記事が短いので読みやすい。実は料理本も読みやすいのですすめてみる。この本はジュリアン・バーンズの推薦。

著者のポミアーヌはポーランド系のフランス人で、wikipediaによれば科学者兼ラジオキャスター兼フードライター、とある(フランスの美食アカデミーのヒトだったような)。科学者というのはかのパスツール研でバクテリオファージの研究をしていた人らしい(知らなかった)。

本書はフランス語で書かれたものが英語に翻訳された、とある。翻訳者の名前が見当たらないので自分で訳したのかも(科学者だし)。料理本といえは普通は専門家である著者が素人読者に知識を授けるというスタイルが一般的だが、この本は著者と読者との共感が得られるように書かれている点がユニーク。

各料理のイントロのところは特に楽しく読める。親戚や知人を呼ぶ食事会を開く心得についても実践的かつややシニカルなコメントがあり、これも楽しく書かれている。料理方法について言えばシンプルで作りやすく紹介されており、例えばジョエル・ロブションの凝りに凝った方法とは大分違う。チーズトーストの紹介があるのが出版当時波紋を引き起こしたらしい。このチーズトーストはナイフとフォークで食べることになっている(そうしないと困ったことになる、本書参照のこと)。あとは、、、料理中の見た目はアレだけれど臆するな、うまいから、みたいな「励まし」が出てくることもある。料理本を読んでいて励まされるのは貴重な経験である、と思う。

ちなみに、英語のBurgundy(バーガンディー)というのはフランス語でいうBourgogneのことで、意味は赤ワインである。ブルゴーニュ産のものでなくてもOK。とはいえ、boeuf bourguignon(ブフブーギニオン、牛肉の赤ワイン煮)は英語ではBurgundic beef、とは言わなくてbeef bourguignonだとか。


ピダハン

ダニエル・F・エヴェレット(みすず書房)

アメリカの若い言語学者がアマゾン奥地の先住民ピダハンの村に住み込み調査する話。ピダハン語は非常に特異な言語で、言語学者の中では理解できる人は全くいないという状況で調査が始まる。ピダハン語には左・右という単語がない。単語がないということは概念がないということになる。グループでの狩の際には「我々の右側から回り込んで仕留めるぞ」とは言わずに(言えない)、「川(アマゾンである)の上流側から回り込め」という表現になる。ピダハンが筆者に連れられて初めて都市に行った際、見渡す限り川がない世界に非常に動揺した、という話がちょっとおもしろい。彼らにとっては高層ビルとか車の群れよりも、川がないということにまごついてしまうのであった。身を隠す樹木の茂みもないので「歩道を歩く」というのもピダハンには難行である。彼らの生死観、子育ての方法、霊の具現化、などが異世界風に見えつつ現実的(このスタイルで現実世界に適応している)だったりする。



ポアンカレ予想

ジョージ・スピーロ(ハヤカワ文庫NF)

ユークリッド幾何学のいわゆる平行線の公準を捨てると、ちょっと変わってはいるものの幾何学としては成立する(矛盾はでてこない)、という話から始まって、ガウス、クライン、ポワンカレ、そしてグレゴリー・ペレルマン(ロシア)まで。 数学者には変わった人が多いが、ペレルマンはその中でも際立っている。<書きかけ>


文明崩壊

ジャレド・ダイアモンド(草思社文庫)

千年程昔、ポリネシアから太平洋の孤島イースター島に移民がやってきて住み着いたらしい。入植当時は巨大ヤシなどの樹木が茂っており、人口は最大六千人〜三万人(推定)になるまで繁栄した。しかし消費過多で島の樹木を使い果たしてしまったのである。カヌーが作れないので外洋へ漁に出ることも貿易を行うことも出来なくなる。樹木が無くなったために土地の養分が海へ流出する。貝塚から人骨が出てくるようになる。人口は大きく減少し、石器時代のような暮らしに戻ってしまった。というような話がいくつか紹介される(グリーンランド、マヤ、ハイチ、オーストラリア)。同著者による「銃・病原菌・鉄」もベストセラーだが、こちらの方が高インパクト。


宇宙創成

サイモン・シン(新潮文庫)

私が中高生の頃は物理学の啓蒙書といえば都築卓司が有名であったが、今や時代はサイモン・シンである。「地球の周りを太陽が回っている」からアインシュタイン経由でビッグ・バンまでの宇宙論を巡ることができる。ドラマもある。とてもわかりやすく書いてあり、啓蒙書としてはすばらしい出来映え。変光星の周期からその星までの距離が推測できて、星から来る光の色のずれ具合から地球との相対速度がわかる。これだけのことから思いもしなかったような大胆な宇宙観へ連れて行かれるのであるからサイエンスというのは本当に面白い。


ご冗談でしょう、ファインマンさん

リチャード P ファインマン (岩波現代文庫)

物理学者のファインマンの伝記。気楽に読めて読んで楽しい。続編あり。

本の中に著者が田舎で道に迷ってしまった際に「電線を辿っていけば町へ出られる」という仮説を立て無事町へ出たという話がある。私は真冬の北海道の牧場地で1人で歩いていたら道が分からなくなってしまったことがある(これまた似たような景色ばかり現れるのである、道沿いの防風林と雪の牧草地、サイロのある農家)。そこでファインマン方式により脱出しようとしたところが、見事に失敗。結局農家の人に泣きついて車で駅まで送ってもらうことになってしまった。


ソロモンの指輪ー動物行動学入門

コンラート・ローレンツ (早川書房)

楽しい話題満載の動物行動学の入門書。著者は比較行動学という研究分野をつくった先生。ちなみに学会のエクスカーション(国際細胞共生学会、エクスカーション参加率が8割超という異端の学会)でオーストリア南部の山間部にあるコンラート・ローレンツ研究所に行ったことがある。例のハイイロガンがいた。ウィーン大の大学院生が自身の研究内容についていろいろ説明してくれた。定番の本である(古典)。


資源植物学フィールドガイド

小山鐵夫 (朝日選書)

ニューヨーク植物園の研究官として南米やアジアの奥地へ植生調査・資源植物採集に行くという話。私は学生時代に「世界で活躍する日本人」の話として読んだ。


マッチ箱の脳 ー使える人工知能のお話ー

森川幸人 (新紀元社)

遺伝的アルゴリズムやニューラルネットワークについて分かりやすく解説している。挿絵も楽しい。オビは糸井重里。


自然界における左と右

マーティン・ガードナー (紀伊国屋書店)

数学の啓蒙家として有名なガードナーの左右の対称性についてのエッセイ集。たしか向田邦子がこの本を勧めていたように記憶している。文系でも楽しめる。


生命とは何か ー物理的にみた生細胞

E・シュレディンガー (岩波新書)

まだ遺伝物質の実体がわかっていなかった時代の話(1944)。講演の記録だったかも。著者は物理学者である(「」で有名)。量子論のゆらぎの法則から「遺伝物質はこれくらいの大きさ」と予測した。生物の何処が不思議かというとまずは「増殖する」という点である。しかも子孫は親と全く同じという訳ではなくて、ほんの少しだけ変化している。そこさえ説明できれば、というのが物理学者の視点。古典。この講演(本?)にワトソンとクリックが大きな影響を受けた、というのは有名な話。

今では、遺伝情報の揺らぎは本書で予言されたような物理法則ではなくラジカルによる化学的な揺さぶりに由来する、という話になってはいるが、それはそれ。近年のゲノム比較研究から、遺伝情報の揺らぎに由来する生物の変異と進化についてはそれなりに常識の範囲に収まる話にはなってきたが、今だにミステリアスなのは増殖するところである。今後この謎は解明されるのであろうか?「解明された」と思えるためにはどのような説明があればよいのであろうか。


二重らせん

ジェームス・D・ワトソン (講談社文庫)

DNAが遺伝子の実体であることを発見するまでのワトソンの自伝。ワトソンはフランシス・クリックと共にDNAの立体構造を解明しそれが半保存的複製を可能にする形状であることを指摘した。二十世紀最大の発見と言われている。当時の上司ブラック卿がとても言葉を選んで前書きを書いているのも、嵐の後というか、独特の雰囲気である。そういえば、ニューヨークJFK空港の入国審査でコールドスプリングハーバー研究所(CSHL)へ行くと言ったら、審査官に「ジム・ワトソンは元気か?」といきなり聞かれて驚いた。ワトソンは最近までCSHLの会長であったのはバイオ系研究者の間では有名であるが( 今調べたら1968年からずっとCSHLの住人である)、そんなこと新聞にでも出てるのだろうか?


科学者たちの自由な楽園ー栄光の理化学研究所

宮田親平 (文藝春秋)

>>「科学者の楽園」をつくった男:大河内正敏と理化学研究所

宮田親平(河出文庫)

理研設立何十周年かの記念に書かれた社史。題名は朝永振一郎の自伝風のエッセイ「科学者の自由な楽園」(岩波文庫)に由来すると思われる。意外なところで田中角栄(元総理大臣だが、この本では出入りの若い業者として登場)や武見太郎(元日本医師会会長、当時は理研の主任研究員)が出てくる。GHQも出てくる。「二重らせん」はワトソンの研究スタイルが生々しく描かれているが、ちょっと違う意味での生々しさ。もちろん湯川秀樹や朝永振一郎も出てくる。終戦後理研のサイクロトロンは進駐軍により東京湾に捨てられてしまったが、そんなこんなで朝永振一郎は研究テーマを「光合成に変えようか」と思っていたらしい。

和光市(東武東上線・東京メトロ有楽町線・東京メトロ副都心線 和光駅)にある理化学研究所本所に展示棟がある(構内地図<link>でいうとたぶんC04理研ギャラリー)。昔の写真に来客のボーアやアインシュタインが写っていたり(二人とも船で来日)、理研の発明であるアルマイトや八木アンテナの展示などもあってなかなか面白い。長岡半太郎が湯川秀樹をノーベル賞に推薦したときの手紙もあったように記憶している。関係者でなくても一般公開日(春のツツジの頃)には自由に入れるので興味がある方は見学されるとよいと思う。


磁力と重力の発見

山本義隆 (みすず書房)

駿台予備校の先生による充実の力作。磁力と重力を軸に据えた科学史。カタい本ではあるが難しいという訳ではない。


別役実の人体カタログ

別役実 (平凡社)

含蓄のある人体の解説本。随所に深い生物学的知識が感じられる。


ゲーデル・エッシャー・バッハ あるいは不思議の環

ダグラス・R・ホフスタッター (白揚社)

私が学生の時に出た本で、当時話題になった。あまりに面白くて読みかけのまま置いていくことができずにクラブの合宿(吹奏楽団)にまで持ち込んだ記憶がある。ちなみに相当重い本である。 最近復刻されて本屋で平積みになっていたのを見かけた。 今何を覚えているかというと、、、、1)アキレスと亀が出てきてしゃべる、2)バッハは「フーガの技法」がテーマになっていた、3)表紙はエッシャー。ゲーデルはどう話に絡んでくるんだっけ??読み返してみないと、、、(とんだ書評ですね)。理系向き。


フェルマーの最終定理 

サイモン・ジン (新潮社)

フェルマーの最終定理を1995年に証明したアンドリュー・ワイルズの仕事の紹介。ピタゴラスの昔から順を追って「フェルマーの最終定理」について説明してくれる。証明後のインタビューの場面は感動的である(別の本だったか?)。数学が好きな人におすすめ。


暗号解読

サイモン・ジン (新潮社)

著者は上の本と同じ人。これも科学史的な書き方で楽しい。最後はインターネットでよく使われるRSA暗号のしくみが紹介されている。エニグマ(enigma)という第二次大戦時にドイツ軍が発明した暗号生成・解読器についても紹介されている。ドイツ人はエニグマを忘れてはおらず、論文や日常会話で時々出てくるのである。そういえばエドガー・アラン・ポーに羊皮紙に書かれた海賊の暗号を解読する話(「黄金虫」だったか、、、)があった。読んだ当時は「なるほど!」という印象であったが、「暗号解読」で一通りの知識を得てしまうと、「そんな素朴な暗号じゃあね」としらけてしまうかも。


藻類30億年の自然史 藻類から見る生物進化・地球・環境 第2版

井上勲 (東海大学出版)

現役の大学教授が一人で書いた643ページの大作。地球の歴史は実は藻類が作っていたのだな、と説得させられるほど。一気に読むというよりは必要に応じて章ごとに読んでいるが、どこを読んでも楽しいエピソード満載である。七輪(珪藻土!)もノーベルのダイナマイトも石油も鉄鉱石も酸素も何もかも藻類のおかげで存在するのである。


イノベーションのジレンマ

クレイトン・クリステンセン (翔泳社)

これは経済学の本。「破壊的」技術革新という用語はこの本が由来。技術革新と企業の成長・破綻についての法則を発見。斬新な切り口で内容はオリジナルで面白いのだけれど、結局同じストーリーの繰り返しでだんだん飽きてくる。著者は非常にクレバーな人だとは思うが、読ませる才能はほどほどかも、、、でもおすすめ。


素数の音楽

マーカス・ツートイ (新潮社)

フェルマーの定理に並ぶ残された難問「リーマン予想」についての本。これも科学史風(=私のお気に入りのスタイル)である。 読んでいくとタイトル通りリズミックなイメージが喚起される。数学が好きな人におすすめ。


心は孤独な数学者

藤原正彦 (新潮文庫)

数学者ニュートン、ハミルトン、ラマヌジャンの伝記。著者は数学者でエッセイストの藤原正彦。この人は山本夏彦に「最後の武士」と冷やかされたことがある。山本夏彦は亡くなられてしまったが、、、(合掌)  ラマヌジャンの章は特によい。インドの事務員ラマヌジャンが宗主国であるイギリスの大学の先生に手紙を書いたのがきっかけでその才能を認められる、という一見サクセスストーリーなのだが、読後はしんみりしてしまう。


ある数学者の生涯と弁明

GHハーディー CPスノー著 (シュプリンガー・フェアラーク東京)

これは上の本がきっかけで読んだ。ラマヌジャンを受け入れたのがケンブリッジ大学のハーディーである。読後のしんみり度はこっちの方がはるかに上。


鼻行類 新しく発見された哺乳類の構造と生活

ハラルト・シュテンプケ (平凡社ライブラリー)

南海のハイアイアイ群島(Hi-Iay Islands)で発見されたユニークな哺乳類について記載されている。翻訳者の1人の日高敏隆氏が後書きで「このような大きな分類群がこれまで全く知られていなかったというのは驚くべきことである」というようなことをさらりと書いていた。生物多様性の減少に警鐘を鳴らす社会派作品。

実はこの本の話を日高先生から直接聞いたことがある。正確にいうと日高先生と私の恩師の辻英夫先生とが会話しているのを横で聞いていた。場所は京都市岩倉の日高宅で、お二人ともまだ現役の頃(大昔の話である、、、1987?)。「このような大きな分類群がこれまで全く知られていなかったというのは驚くべきことである」というようなことをさらりと書いておいたのですよ、と言っておられた。


UNIXという考え方

Mike Gancarz (オーム社)

これはプログラマー心得の本。私にはとても参考になった。アタリのゲームソフトの運命が教訓的。

1:動作環境にぴったりとフィットさせた小回りのきくプログラムは別の環境への移植が出来なくるため短寿命になる。従って基本設計がすっきりとした良いプログラムならたとえ動作が遅くても「改良」してはいけない、ということになる。どことなく生物の進化と盛衰を連想させるストーリーであるが(過剰適応、進化の袋小路、等々)、、、それでも動作を早くしたいときはどうするか?マシンのスペックアップを「待つ」のが基本的には正しいらしい。

2:入出力のデータはコンパクトにまとまるが特殊なバイナリー形式ではなく汎用性のあるテキストデータにすること。これも長期利用を考えれば有利になる。

3:大きなプログラムを作ると保守や変更が大変なので、プログラムは小さくして組み合わせで使う。元データを入れたら最終形のデータが一気に出力されるプログラムを目指すのではなく、小さなプログラムでステップごとに加工していく、という形が推奨されている。


アンドロメダ病原体

マイケル・クライトン (ハヤカワ文庫SF)

SF。著者は「ジュラシックパーク」でお馴染みのマイケル・クライトン。大学院で医学を修めた理系のヒトである。一見突飛な話を、情報(SFなのでフィクションではあるが)を積み上げていき「これらを整合的に説明するにはこういう解釈以外にはない」という形で読者を説得していく。そのやり方が理系的、と村上春樹が書いていた。


理科系の作文技術

木下是雄 (中公新書)

読んで楽しいという訳ではないが、テクニカルライティングとはこういうもの、というのを教えてくれる。ロングセラーである。卒論の前には一読しておいたほうがいいかも。「10年間心血を注いで行った研究内容を5分で紹介しろと言われたら、5分間であますことなく紹介するのがプロの科学者」というようなことが書いてあったように記憶している。古典。


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