<イチゴ萎黄病菌と菌根菌の根面における感染競合>



Fusarium oxysporum f. sp. fragariae (Fof) cultured in vitro (1,2), mass of Fof hyphae in non-AM plot (3, 4),
elongation and penetration of Glomus mosseae in dual inoculated plot (5-8).

【材料および方法】イチゴ(Fragaria×ananassa Duch.,‘濃姫’)のランナー採苗時に菌根菌(Glomus mosseae)を接種し、育苗にはオートクレーブしたイチゴ用育苗培地を詰めたポリポット(10.5cm)を用いた。採苗約2週間後にランナー切断し、施肥 [ロングトータル70日タイプ(N:P:K=13:11:13)]を行った。接種8週間後に萎黄病菌(Fusarium oxysporum f. sp. fragariae: S2)の分生胞子懸濁液(106/ml)20mlを土壌潅注し28℃条件下で育苗した。処理区として萎黄病菌単独接種区、菌根菌単独接種区、複合接種区を設けた。萎黄病菌接種3週間後、各区の根を採取して試料作製し、SEM(Hitachi:S-4300)により根面での感染状態を調査した。また、PDA培地で培養した萎黄病菌も同様にSEM観察した。
【結果および考察】PDAで培養した萎黄病菌では、隔壁を有する菌糸群とやや湾曲した紡錘形の小型分生胞子群が混在し、菌糸先端および菌糸中間細胞において厚膜胞子形成がみられた(第1, 2図)。萎黄病菌単独接種区の罹病根は褐変化し、罹病進行により表皮・皮層細胞が崩壊している部位が多かった。萎黄病菌菌糸は、根の周囲を取り囲むように密集化して存在する場合が多く、根面に沿って菌糸伸長領域を拡大する状態がみられた(第3, 4図)。また、根面では表皮細胞間隙からの侵入が多く観察されたが、表皮細胞へ直接貫入する場合もあった。大部分の侵入点付近では菌糸密度が高い特徴がみられた。次に、菌根菌単独接種区では、萎黄病菌と同様に菌糸群の形成がみられたものの、菌糸が根面を単独伸長して侵入することが多かった。菌根菌は表皮細胞間隙のみから根組織内へ侵入したが、侵入点は比較的隣接し、同一侵入点に複数の菌糸侵入がみられる場合もあった。一方、複合接種区においては、菌根菌菌糸群存在部位および菌根菌菌糸侵入点(200箇所以上を調査)付近の領域では、萎黄病菌の存在が少なく密集化は認められず、萎黄病菌の侵入はほとんどみられなかった(第5〜8図)。これらのことから、菌根菌を先接種した場合、根面における感染領域の菌根菌による優占化が起こり、後接種された萎黄病菌との感染競合が生じて根組織内への萎黄病菌侵入が抑制され、それが耐病性の一因となっていることが示唆された。また、集団化していない菌根菌侵入点領域においても萎黄病菌の存在頻度が非常に低かったことから、菌根菌との物理的な侵入競合の他に、菌根菌感染により萎黄病菌の感染を抑制する因子が誘導されていることが示唆された。