歴史は繰り返す?

 個体発生は系統発生を繰り返す、という概念があります。一つの生命が生まれ、そして死んでいく過程は、限られた遺伝子や生体分子の資源をうまく使いながら行われるので、ある部分、繰り返しが行われるのはごく自然なことです。毎日の人々の生活も、大学生活も、社会も、歴史も、地球の構造変化も、あるリズムで(千差万別の周期で)繰り返しています。

 4月になって、また新入生がやってきて、卒研生もフレッシュな顔ぶれになり、少しづつ、螺旋的に繰り返しながらも上昇していけるように、活動が再開されました。桜も満開で、いかにも「日本の春」爛漫という感じでしたが、中旬ともなると葉桜が目だち春雨にぬれた落ちた桜の花びらは、もののあわれという感情さえ引き出してくれます。

 そんななか、彼の国では「戦争」というのか「一方的攻撃」というのか、ともかくも武力の差が百倍もありそうな国家間での殺し合いが、3週間たってようやく決着がつきつつあるようです。こんな、たくさんグランドゼロを作り出す、そして結末は判ってしまっている、気分の悪くなる殺し合いはもうたくさん、というのが自然に沸き起こる感情だったのですが、今ではさらに気分の悪くなる無政府的な混乱が放映されています。こんな時は、画面を見ないで美しい桜に見とれるのが、神経には良い。

 しかし、突然終了した戦況、忽然と消えた軍、国民にとっては残されたのは混乱だけ、という状況は、春雨にぬれた桜の花びらのごとく、哀れという感情しかわきません。いや、これは彼の国のことだけではなく、日本をふくめ世界全体に対して沸き起こる感情のような気がしています。

12年前の湾岸戦争の頃、フランスにいましたが、あれも、終了したときあるアラブ系の研究者の友達は「サダムはイラクに何も良いことをもたらさなかった、ハラキリをすべきだ」と憤っていましたが、同じような感情は今回も少なからずアラブの人たちに出ているんじゃないかな。負けると判っていながら国民をけしかけ攻撃の標的に曝し、沢山の市民を死に追いやっていながら、ギリギリのところで姿をくらました。あるアラブ系の新聞ネタがインターネットに出ていましたが、サダムらとアメリカ・ネオコンは裏取引をやっていて、秘密裏に逃がしてやることを条件にバグダッドから何もせずに兵を引かせる、ということがあった、というような憶測が結構自然に受け入れられるような状況でした。でも常識的にはありえそうにもないのですが、真実はどうあれ、哀れです。

 こんなことが、10数年おきぐらいに、ずーっと続いて、繰り返されてきたのですね。

 それで、もうちょっと冷静に、事態の進行を見るに、歴史的に比較分析しているサイトがありましたので、ちょっと紹介してみます。ヨーロッパ、特にドイツの人たちには常識的なことなのかもしれませんが、http://www.commondreams.org/views03/0316-08.htm にある、「When Democracy Failed: The Warnings of History (by Thom Hartmann)という論文です。

 これを読むと、あのニューヨークでの9.11とそれ以後のアフガンからイラク戦への事態は、「February 27, 1933」という70年前の事態が繰り返されているのではないか、と思わず説得されそうになる自分に気が付きます。確かに、昔歴史で習って知っていたはずなのですが、その911との類似性について、なるほどな、と感じた次第です。これならドイツは反対するわなぁ…。

 ナチスがオーストリア併合からチェコ侵攻に至る経過が、911以降の事態に良く似ているというわけです。1933年の2.27というのは「その国を代表する建物が炎上し、その攻撃がテロリストによるものであると断言したが、その指導者は事前に知っていた」という日です。その後の、「衝撃と恐怖」作戦だとか、自衛のために先制攻撃の権利をもつと主張した、だとか、最大手企業の元幹部らを政府の重要ポストにつけた、だとか、指導者は「わが国の国益を優先しない国際機関など無意味で無用」だと主張し(脱退し)た、だとか、指導者が深い宗教性をもった人だとか、解放者としておもむいたのだという主張をした、だとか、国家と企業上層部の癒着に好戦的ナショナリズムが結びついて生まれるのがファシズム、だとか、という文言を並べてみると、それが、今回の事態(ネオコンおよび産軍複合体主導の)と、言っていることやっていること、そっくりじゃないか、と部分的な相似性に驚くのです。これは、攻撃をした方がナチスの行動と似ている、ということですよ。攻撃された方は、いわば古典的独裁者で、丸裸にされた上まんまと利用され、再び国民を裏切った、ということになるのかな。

 さて歴史的には、ナチスはファシズムとなり「独裁的」となり、さらに拡張していった、となるわけですが、今回の911以降の事態はまだ現在進行形です。世界中が危惧するのは当然です。歴史はそっくり同じ繰り返しをするわけではありませんが、ただ、新しい衣をかぶって違う役者達で新しい歴史劇を開始しているのではないか、と感じてしまいます。911事件自体の真実も、まだ良く判らないことが多い、という事を考えてみても、個人的には陰謀史観には与しませんが、何かどす黒い意志を、やっぱり感じてしまいます。

 人類は進歩が無いな! しかし、「進歩」が、人によっては、必ずしも良いわけではありませんし、進歩なのか退化なのか、区別つかないこともあるし…。でも、人類の危機に進むのならば、退化なんじゃないかな、やっぱり。

(2003/04/12)