Fairy Wing の育成秘話

・ テーブルに飾れるコンパクトな観葉植物を!

Fairy Wing を育成する契機になったのは、2002年に岐阜花き流通センター農業協同組合で「花き鉢物のブランド化戦略」という演題で講演をしたことです。
新しい鉢物のブランド化には「差別性のある斬新な商品開発が不可欠」であることを強調し、夢の観葉植物の例として『テーブルで飾れるコンパクトなスパティフィラム』の事例を講演しました。
当時、スパティフィラムは観葉植物として定着していましたが、30〜50cmの高さがあり、テーブルの上に飾るには邪魔な観葉植物でした。
何とか20cm以下の「ミニ・スパティフィラム」を作りたいと考えました。
当時、岐阜大学園芸学研究室では、バラを研究材料として「コルヒチンを用いた倍数性育種」に関する研究をしており、四倍体の植物は「葉が丸みを帯び、コンパクトになる」ことを確認していました。
福井博一教授は「この技術が使えるかも!」とひらめきました。

・ コルヒチンによる染色体倍数化の苦難

早速、『スパティフィラムのコルヒチン処理による倍数化個体の誘導』の研究が始まりました。
2004年の4年生の住吉君がこれを担当しました。
最初は「コルヒチン処理をどのようにしたらよいのか?」が大きな課題でした。
コルヒチンは植物体の成長に大きな悪影響を及ぼすため、濃度が高いと処理した個体がすべて枯死してしまいました。
コルヒチンの濃度と処理時間を色々と変えて、984個体にコルヒチン処理をしたものの、四倍体の個体は一つも得られませんでした。
その当時、岐阜大学には倍数性を調査するための機械であるフローサイトメーターがなく、愛知教育大学理科教育講座の加藤淳太郎准教授を頼って、担当学生の住吉君は岐阜県岐阜市の岐阜大学から愛知県刈谷市の愛知教育大学に毎日往復して、処理個体の調査を続けました。
ある時、住吉君から「先生!四倍体ではないですが、二倍体と四倍体が混じったものがありました!」との電話を受けました。
「そうか!やったなぁ!すぐに戻っておいで!」と答えたことを覚えています。
この「二倍体と四倍体が混じった個体」のことを、専門用語で『キメラ個体』といいます。
早速この結果は、第13回日本育種学会中部地区談話会で「スパティフィラム(Spathiphyllum)のコルヒチン処理による倍数化」として発表しました。

・ 岐阜市からの研究支援

岐阜市の観葉植物生産者である高木ガーデンの社長高木兼雄氏から,[岐阜市の補助事業に新産業育成事業という制度があるが、何か良い課題はないか?」と相談を受けた福井博一教授は早速申請書を取り寄せ、岐阜市平成17年度(2004)産学官共同研究開発助成事業に応募し、「バイオテクノロジー技術を活用したスパティフィラム新品種の開発」が採択されました。
この補助事業による研究助成を受けて、さらに研究を重ねました。
キメラ個体の成長点を無菌的に摘出し、組織培養技術を活用して成長点からカルスを成長させたのち、カルスから多数の不定芽を形成させることに成功しました。
形成された142個体の不定芽の倍数性を検定した結果、1個体が四倍体であることが判明しました。
この成果は、研究を引き継いだ大学院生の小笠原利恵さんが2009年に秋田県で開催された園芸学会平成21年度秋季大会で「スパティフィラム(Spathiphyllum ‘New merry’)のコルヒチン処理による4倍体個体の作出」として発表するとともに、園芸学研究の論文として公表されました。
【小笠原利恵・住吉稔・川原勇太・加藤淳太郎・福井博一:コルヒチン処理・茎頂成長点培養併用法によるスパティフィラム(Spathiphyllum wallisii Regel ‘Merry’)の四倍性個体の誘導.園芸学研究 11:189-194. 2012】

・ 培養苗の増殖

このようにして育成されたFairy Wing は、早速、組織培養技術を駆使して苗の増殖が始まりました。
苗の増殖を担当してくれたのは研究技術補佐員の奈田俊さんでした。
奈田さんは、名古屋市で検査技師を務められたのちにJICA(国際協力機構)のシニアボランティアとしてミクロネシア連邦国に臨床検査技師として勤務したという豊富な経験を持つ方で、「ランの組織培養技術」の習得を目的として、福井博一教授のもとで研究をしていましたが、急遽Fairy Wingの増殖を担当することになりました。
幸い、園芸学研究室では過去にスパティフィラムの組織培養による大量増殖の研究が行われていたこともあり、増殖培地を容易に選定することが可能でした。

・ 栽培過程での苦難

組織培養で増殖したFairy Wing の苗は、岐阜大学応用生物科学部附属フィールド科学教育研究センターの温室で栽培が始まりました。
栽培を担当してくれているのは、技術職員の矢野倫子さんと矢野宗治さんです。
Fairy Wing の栽培でも苦労がありました。
Fairy Wing は強い太陽光が苦手です。温室の設備が十分ではなかったことが原因で、成長したFairy Wing の葉が焼けてしまったり、冬期間の低温と高湿度が原因でべと病が発生したりと苦難が待っていました。
技術職員の矢野倫子さんは、これらの苦難に打ち勝って、ようやく商品化にたどり着きました。
Fairy Wing は、これまでのスパティフィラムの概念を大きく打ち破る高い能力を持ち備えていました。
その第一の特徴は、コンパクトな草姿であることです。大きく育ってもその高さは20cmを超えることはありません。
テーブルの上でもコンパクトに飾ることができます。

・ 世界に羽ばたく!

観葉植物の消費国の中で、アメリカとヨーロッパはその趣向が大きく異なります。
アメリカは大きい観葉植物が好まれ、ヨーロッパではコンパクトな観葉植物が好まれます。
このことに気が付いた福井博一教授は、ヨーロッパでの評価を受けることを思い立ち、2012年にオランダ・フェンローで開催される国際花き園芸博覧会「Floriade 2012」に出品することを決断しました。
Floriade2012に出品するためには、日本からオランダに植物を輸出する必要があります。
オランダに植物を輸出するためには、3ヵ月前から植物検疫を受ける必要があります。
農水省の植物検疫官による病害虫の発生検査を定期的に受け、審査を通ったものだけがFloriade2012の品種コンテストに出品することが許されます。
この植物検疫を担当してくれたのが大学院生の小笠原利恵さんで、栽培技術支援には岐阜市の観葉植物生産者の高木ガーデンの高木兼雄氏が協力してくれました。
厳しい検査を通るためには、まさに強い熱意と根性が必要でした。
しかし、この努力が報われ、2012年9月の秋コンテスト「花咲く鉢物部門」で『金賞(優秀品種)』を受賞することができました。

・ 和の陶器鉢へのこだわり

さて、金賞という栄誉を受けたFairy Wing を世に出すにあたって、鉢をどうするかが課題となりました。
一般に、観葉植物の鉢にはプラスチックの鉢が使われます。
しかし、岐阜大学ブランドとして販売するのに「プラ鉢」では情けないと思いました。
そこで、陶器の鉢を使ってみたいと考えた福井博一教授は、早速、美濃焼の産地・東濃地方に出向きました。
しかし、美濃焼の販売店を回っても『底に穴の開いた鉢』を見つけることができませんでした。
美濃焼卸業者を頼りに大手製造会社に要望を伝えると、「陶器に穴をあけるのは簡単ではありません。今の美濃焼はラインで製造しているので、穴あけ工程を加えるだけで1千万円の投資が必要です。」と言われました。
岐阜県土岐市の南に位置する瀬戸市は瀬戸焼の産地でもあります。
福井博一教授は、瀬戸焼の産地もくまなく見て歩きました。すると、たまたま訪問した窯元で「個数が揃えば作ってみても良い」との返事をいただきました。
しかし、瀬戸焼は愛知県の焼き物です。岐阜大学で育成したFairy Wing だからこそ岐阜県にこだわりたいとの想いがあり、再度、岐阜県内の窯元を訪ねることにしました。
とはいっても、幾多の窯元を訪ね歩き、すでに2ヵ月が過ぎようとしていました。
途方に暮れた福井博一教授は、瑞浪市の友人で日亜マテリアル事業部長の稲垣宏氏から土岐市の美濃焼窯元「隆月窯」の土田育弘氏の紹介を受け、Fairy Wing 専用の『底に穴の開いた鉢』の製造を依頼しました。
土田育弘氏は福井博一教授の依頼を快く引き受けてくれ、早速Fairy Wing 専用鉢の生産に取り掛かりました。
完成した陶器鉢は惚れ惚れするような出来の「和の陶器鉢」でした。
後で判ったことですが、土田育弘氏は美濃焼伝統工芸士の資格を持つ有名な職人でした。
土田氏の職人気質と福井博一教授の熱き想いがFairy Wing を引き立たせる「和の陶器鉢」を完成させたのでした。

・ 培養土のこだわり

Fairy Wing の特性である「耐寒性と耐暑性」は消費者の手元にわたって栽培管理しやすいことです。
この特性を充分に活用するためには、 Fairy Wing 購入後にインテリアグリーンとして長く楽しんでいただくための培養土が重要です。
岐阜県には、国内でも有数の園芸培養土製造会社の揖斐川工業(株)があります。
早速、Fairy Wing 専用の培養土の配合を依頼しました。
最初に提示された培養土は、ピートモスが55%配合された培養土でした。
ピートモスは品質が安定していることから、多くの花鉢物の培養土の素材として使われています。
しかし、ピートモスには「一度乾燥すると再度吸水しにくい」という欠点があり、消費者にとっては使いづらい培養土との評価が広がりつつあり、できるだけピートモスの配合割合を少なくしたいと考えました。
また、Fairy Wing の特性である「水が大好き」、「肥料が大好き」、「根の成長がよい」を充分に満たす培養土を作るために、過去に園芸学研究室で得られたデータから再度検討を行いました。
その結果、「水が大好き」を満たすためにハスクチップとロックウールを配合し、「肥料が大好き」を満たすために亜炭とバーク堆肥を配合しました。
そして「根の成長がよい」の条件を満たすためにパーライトとロックウールの増量にたどり着きました。
この培養土の配合は、これまでには例のない新たな配合であったため、担当者の吉村繁一氏は大いに悩みました。
特に、亜炭は素材の入手が困難でした。
これを解決してくれたのが、瑞浪市の(株)トーケンヒロミの稲垣宏氏でした。
トーケンヒロミは亜炭の採掘権を持つ鉱山を持っており、培養土の重要な素材としての亜炭の供給を快く引き受けてくれました。
揖斐川工業の吉村氏の献身的な協力を得て、ようやくFairy Wing 専用の特殊配合培養土が完成しました。
これで、Fairy Wing を購入した消費者は、1年間の栽培管理が約束されたのです。

・ Fairy Wing 生産の協力者たち

2013年7月に岐阜大学応用生物科学部の柳戸農場で試験販売が始まりました。
これを受けて、岐阜花き流通センターに「フェアリーウィング部会」が立ち上がり、テスト生産が開始されました。
生産を担っていただける生産者は、「高木ガーデン」、「岐孝園」、「ブロメリアギフ」、「渡邊祐一」、「ブリリアント・グリーン 川瀬良樹」の5名です。
2014年春から、これらの生産者から岐阜花き流通センターを通じて全国の花き市場に出荷されます。


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