( 2009.10~2010.2 )
全学共通教育―スポーツ・健康科学―「太極拳」:火曜日の3時限、4時限;第2体育館
担当教員:
非常勤講師;清水宏晏 岐阜大学名誉教授(工学部)
(日本武術太極拳連盟2段
公認B級指導員 公認2級審判員)
非常勤講師;清水宏子 (日本武術太極拳連盟2段 公認B級指導員)
非常勤講師;馬場理恵 (日本武術太極拳連盟2段 公認B級指導員)
補助指導員;樋口幸子 (日本武術太極拳連盟2段 公認B級指導員)
写真;左より、樋口幸子、清水宏晏、馬場理恵、清水宏子
「概況」
「太極拳」開講以来6年目を迎えました。一昨年度から、学生諸君の履修希望が多くあるため「太極拳」の授業の数が1コマ増えて、2回実施しており、今学期はその3年目です。ここでは3時限目と4時限目の2つの授業をまとめて報告いたします。これまで5年間の経験を踏まえて、今年度も太極拳の国際的スタンダードである「簡化24式太極拳」を全て教え終わることを主目的とせず、むしろこの「簡化24式太極拳」の基本を徹底することを最大の目標にしました。
一昨年度から学生諸君がパソコンを用いてのウエブ履修登録が始まり、今年度も「太極拳」は希望者多数の対象となり、電子的な抽選により選ばれた3時限目30名、そして4時限目30名の学生諸君をそれぞれA,
B, Cの3グループに分け、3時限目を清水宏晏が主、4時限目を清水宏子と馬場理恵が主となり、また補助指導員として樋口幸子さんの参加を得て、4人全員で2つの「太極拳」授業の指導・習熟に当りました。これは、「24式太極拳」の初期導入には、予想以上に手が掛かるからです。
幸運にも今年度は、実質13回の(各90分)実技授業を実施でき、最終回の学生表演では、各グループが太極拳の格好と雰囲気を漂わせ、十分に満足できる演武を見せてくれ、その成果は十分得られたものと信じています。
「受講者の学年別、学部別の分布数」
3時限目:総数30名(男;10名、女;20名)
1年生;28名、2年生;2名。
教育学部;5名、地域科学部;3名、医学部;1名、
応用生物科学部;5名、工学部;16名。
4時限目:総数30名(男;10名、女;20名)
1年生;29名、2年生;1名。
教育学部;5名、地域科学部;8名、医学部;3名、
応用生物科学部;2名、工学部;12名。
3Aグループの練習模様
3Bグループの練習模様
3Cグループの練習模様
4時限目の集合写真―4A, 4B, 4Cグループ
「簡化24式太極拳への取組み;目標と結果」
「簡化24式太極拳」は、50余年前の1956年に太極拳の普及のために中国で制定され、24組の動作からなる標準的な太極拳として世界で広く愛用されている。それに要する時間は、通常6-7分くらいで、一見短時間と思える24式太極拳であるが、これをマスターするのは、なかなか難しい。それは、ただ24組の動作の順番(套路;とうろ)を覚えるだけでなく、太極拳の本質である「肩を落とし胸を張らず、体をゆるめる」「体の中心軸を垂直に持続して、重心移動を行う」「体をねじらない」「顔、手足、胸腰部の動きを協調一致させる」「動作のスピードを均一に」など多くの要求を満たさなければ、自然で美しい太極拳はできず、ぎこちない太極拳になってしまう。したがって、授業の最初には、毎回十分なストレッチで体を柔らかくし、そして太極拳の基本である手法(手の動き;例えば、体の前でボールをつくる(抱掌))や歩法(歩き方;足の出し方や重心移動の方法)の習得に時間をかけた。そして授業の前半部分では全員の総合練習により、平均すれば1回の授業で2組の新しい動作(套路)を覚え、さらに後半部分ではA,
B, Cの3グループに分かれ少人数でそれらの習得の徹底を図った。
学生諸君は、当初、何をやっているのか判らない様な反応であり(こんなはずではなかった、との表情を示す者もいた)、太極拳は予想以上にたいへんで、筋肉痛を訴える学生もいたようであった。しかし、回を重ねる度に、だんだんと太極拳らしい「ゆったりとした動作」を習得し、彼らの太極拳への順応性とイメージを体で表わす能力に驚いた。
最終回のグループ表演では、A, B, Cグループがそれぞれ選んだ音楽、例えば、ハナミズキ、Forever Love、アラマンタイン、レッドクリフ、はるか、などに合わせて、「簡化24式太極拳」をゆったりと演武してくれました。見ていた他のグループと指導者は、それぞれの表演に大きな拍手をおくりました。今年度は寒く厳しい冬のため、大きくて冷えた第2体育館での練習であったが、当初の基本に重点を置いた「太極拳」習得の目的を達成してくれた学生諸君を見ながら、大きな喜びと充実感を感じました。
「授業の全体の様子を表わす写真」
「2つの授業を終えて;感想そしてお礼」
太極拳を短期間に初心者に教えることは容易ではありません。それは、心(頭で考えること)と体(イメージを動作で表わす)の協調一致と融合には、長い時間を必要とするからです。今年度は、圧倒的に1年生の数が多く(特に、工学部からの受講者が多かった)フレッシュな若者達は、熱心に「太極拳」に挑戦してくれました。しかし、1年生のためか、初めの頃はなんとなく静かで盛り上がらず、指導者達はその雰囲気を心配していました。しかし、回を重ねる内に、自主的に太極拳のそれぞれの動作を質問したり、また具体的に自分の動作のチェックを求めたり、やる気が十分見えてきました。そして、最終的には、最終回のグループ表演に向けて、みんなの気持がまとまりました。
今年度の授業でも、かっての「簡化24式太極拳」を全てマスターさせることをあきらめ、「太極拳」の基本をじっくり習得してもらうことに主眼を置きました。その結果、24組の内の20番目(シャントンペイ)までで終わりました。それは期間的に十分な余裕がなく、また限られた時間内で行わなければならないためです。受講生の授業終了後の感想文の中には、24式の最後までやりたかった、との意見も少しありますが、練習を走らないで基本をじっくりやれて良かったとの意見も多くありました。大切なことは、「太極拳」の真髄を知ってもらうことである、と信じています。
最後に、この「太極拳」の授業を実施することに協力いただいた教育学部保健体育の川岸教授をはじめ、スポーツ/健康科学のスタッフにお礼を申し上げます。今年度も2コマ(2回)の「太極拳」授業が出来たことは、より多くの学生諸君に太極拳を体験してもらったことを意味しており、4人の指導員は非常にうれしく思っています。清水宏晏は、昨年度、工学部教授を定年退職しましたが、この平成21年度も非常勤講師として、昨年度と同様に「太極拳」授業を2コマ実施できたこと、ありがとうございました。また、今年度は、親しい友人の樋口幸子さんが補助指導員として協力してくれたこと、ここに記して厚くお礼を申し上げる。
授業終了後に寄せられた3時限目と4時限目の受講生の感想文の中から,彼らの承諾を得て,7編を以下に載せました。
「岐阜大学で出会った太極拳」
工学部 社会基盤工学科 1年 田中智也
夏休みの中ごろ、数ある体育のどの科目を履修するかを悩んでいた時に太極拳という文字が私の目に飛び込んできました。野球、テニスなどの球技を小、中、高校と全うし、武術とは無縁であった私にとって、中国が発祥の地である太極拳は非常に新鮮で興味あふれるものでした。太極拳について調べたところ、非常にゆったりとした動きで「脳」をかなり使う武術であるということと、それによって医療体育としても脚光を浴びていることを知り、「せっかくの大学の授業だし、自分のまったく知らない世界に挑戦してみよう」と思い履修することを決めました。
最初の授業では3人の先生方が演武してくださいました。「スカボロ・フェア」という名曲のしっとりとした曲調と太極拳の一つ一つの型がとても適合しており、思わず見入ってしまいました。太極拳を目の当たりにして、正直、自分にできるのか…と当初はかなり不安にもなりました。
実際に講義が始まり、先生方の言われることに耳を傾けながら、独特な太極拳の動きを必死に目で追い、基本動作、体重移動などを指先まで真似をしました。柔道も少林寺拳法も素人な私にとって、講義は思ったより少し辛いなと感じましたが、先生方のきめ細かく、優しく、時には厳しい指導のもと、何回も何回も基本を繰り返し、少しずつ太極拳の動作と型を体得していきました。1回の授業で、2つのペースでどんどん新しい動作・型を教わっていき、前の授業までにやった型を忘れそうになるのですが、授業ではいつも最初の型から通して練習するので忘れることがほとんどありませんでした。また、その動作と型がいったいどんな場面を想定しているのか、例えば、搂膝拗歩は片手で相手の足元を払って、もう片方の手で攻撃する、というような武術としての本質も教わることができたので、自分なりに常に意識して毎週休まず取り組めました。
何をやるにも普段から、がちがちに緊張してしまいがちで、頭で考えすぎてしまう私にとって、必要以外の力を抜くことが最大の難所でした。太極拳の基本はリラックスすることだからです。そんな私に転機が訪れたのは、授業が後半に差し掛かった頃で、その日は発表会に向けて曲に合わせて練習するいわゆる発表会のリハーサルの日でした。僕ら3B班はX-Japanの「Forever
Love」を選曲しました。自分の大好きな尊敬するバンドのバラード系名曲を聞きながらの太極拳はとても楽しく、このとき初めて肩の力が抜け、腹式呼吸によって「気」がすーっと体中を循環するような気分を味わえることができたのです。結局、発表会はとても緊張してしまいましたが、ほかの人の演技を見ることを通して太極拳をより知ることができたし、達成感を味わうことができました。また、清水先生の話にあった、「体を柔軟にして、ゆるむことは、自分の研究分野などで行きづまった時に、柔軟な思考や新しい発想を生んでくれる」という言葉を、緊張しやすい私なので、忘れずに胸にしまっておきたいと思います。
岐阜大学に入学し、高校時代よりも少しでも視野を拡げて将来に活かしていきたいと思っていた私にとって、後学期は私の人生の中で新たな発見が多かった気がします。「太極拳って何?みせてよ」と友人、先輩に言われた時には僕が一番気に入っている搂膝拗歩の構えをみせるようにしています。実はこの構えが僕の好きな漫画の主人公の決めポーズだったのが、後から知って驚きです。
最後に、諸先生方のとても丁寧なご指導に心から感謝します。本当にありがとうございました。
「太極拳の感想」
応用生物科学部 生産環境科学
課程 1年 山下有希
私が太極拳の授業を受けようと思ったのは、太極拳に興味があったこと、ゆっくりした運動をしたいと思ったことが理由です。太極拳は今まで話に聞いたり、テレビで放映されているのを見たことぐらいしかなかったのですが、あのゆったりした動きを真似していると気持ちが落ち着いてくる感覚を覚えました。太極拳を一度しっかり習いたいと思っていたので、今回授業で太極拳を受けられると知った時は大変嬉しかったです。
太極拳の第一回目の授業では、先生方が「24式太極拳」を見せて下さいました。ゆっくりした動きではありましたが、身体の重心の移動が見えるような動きだと思いました。一見するとゆっくりしていて楽な運動のようですが、実際は身体の様々な部分を動かす、特に足に大きな負担がかかる運動だと思いました。その後、自分たち生徒も太極拳の動きを学んでいて、この時思ったことがあながち間違っていないと思いました。ただ、この時思ったことと違ったことがありました。それは、足だけではなく、全身を姿勢良く維持しつつも、必要のない力を抜かないといけないということでした。
私が太極拳で最も難しいと思ったことは、この適度な全身の緊張を保ちつつ、不必要な体の力を抜いて、身体の重心を感じながら体を動かすということです。習い始めは動きを覚えるのに必死で、そこまで身体の重心を気にすることができませんでした。しかし、自宅に帰った後、授業で覚えた動きを何度も繰り返すうちに身体が徐々に慣れてきて、重心の動きに気を配ることができるようになりました。これは、授業で先生方が教えて下さった動作の一つ一つが持つ意味を意識することで、重心の位置の重要さを自分なりに理解しながら練習をしたことがよかったのではないかと思います。
今でも何か集中してやりたい事がある時、身体をなんとなく動かしたいと思ったときに「24式太極拳」をやって気持ちを落ち着かせたりしています。太極拳をしている時は、頭と身体がすっきりして、ただひたすら自分に無心になれるような気がします。自分の身体の重心を感じながら身体の動きに合わせながら呼吸をしていると、小学生のときに体験した座禅を組んでいる時の感覚が思い出されました。座禅は特に身体を動かすようなことはしませんが、呼吸に意識を集中することで自然と身体の緊張を適度に保ちながら力を抜くことができます。そして、この時、頭と身体がすっきりする感覚を覚えます。自分の身体の運動に意識を集中することで、余分な力を抜くことができるのが太極拳と座禅の共通する点なのではないかな、と思います。
太極拳をしている私の姿を見て、家族は太極拳に対して興味を持ったようで、時々太極拳について話しています。いつか一緒に太極拳をやれたらいいな、と思っています。
半年間、太極拳のご指導をして下さった諸先生方、ありがとうございました。
「太極拳を受講して」
工学部 人間情報システム工学科 1年 塩谷明宏
太極拳の授業を終えて、本当に貴重な体験ができたと思いました。普段生活しているだけではなかなか関わることがない太極拳を、授業として学ぶことは新しいことの連続でした。私は体育の授業を選択する時に、この太極拳を見かけましたが、太極拳がどんなスポーツで、何をやるものなのか全く知りませんでした。そして正直言うと「それならいっそのことやってみるか」という好奇心と思いつきで受講することを決めました。後になって考えるとこの好奇心のおかげで太極拳に出会えたようなものなので、挑戦してみて良かったです。
授業では簡化24式太極拳の動作を、一つ一つ丁寧に指導してもらったことが印象に残っています。太極拳は手も足も同時に使い、体全体を動かすスポーツなので、初めて取り組む私にとっては大変難しいものでした。しかし、先生方は手と足の動きをまず別々でやって、動作を理解しやすくしてから、手と足を合わせてやったり、足の代用のスリッパを使って足の位置や角度を視覚的に分りやすく教えてくださったり、グループ練習や質問の時間をつくってより細かいところまで動きを確認したりして、難しいはずの太極拳が初心者の私でも易しくなじみやすいものになっていったと思います。私自身、初心者だったのですが、太極拳の動きを1つ1つ区切ることでとても分りやすく学ぶことができたし、区切られていた動きが構成する新しい動作を習得することで、1つ1つの動作がつながっていき、1つの流れになるという面白い感覚を味わいながら受講していました。
太極拳の感想としては、動き自体はゆったりとしているが、動作の最終的な定式をとる時にはビシッと決める緩急のあるもので、しかしながら、全体を見てみると1つの大きな流れになっている何とも表現しがたいもので、これは実際に太極拳をやってみないと分からない感覚だと思いました。各動作の中では、特に弓歩(ゴンブー)と肩の力を抜くことが大きなポイントのように感じました。弓歩については、先生方の重点的な指導の通り、これをマスターすることが太極拳の基本だと思えるようになりました。授業の後半では弓歩の形をとることがもっとも体が安定する姿勢になり、やっていて落ち着く姿勢であることが、理解できました。肩の力を抜くことは、24式太極拳のほとんどに関わっており、あのなめらかでゆったりとした動きを作り出している原点である、と思いました。日常生活で自分の体に力が入っているな、と感じた時に太極拳をやっているときの感覚を思い出し、簡単に腕だけ形をとることで自然に肩の力を抜くことができるようになりました。
太極拳の授業を受けたという記憶と体に覚えた太極拳の動きは、自分にとって忘れることのできないものになると思います。来年度以降も自分のように好奇心で受講してくる学生がきっといると思うので、太極拳という貴重な体験ができる機会として、この太極拳授業があり続けてほしいです。
「太極拳感想文」
教育学部 社会科 1年
中西玲那
この授業を通して、初めて太極拳を体験しました。何の前知識もなく、ほとんど武道の経験も無いところからの挑戦でしたが、それがかえっていい刺激になって毎回の練習が楽しみになりました。
簡化24式太極拳の動作を(講義では20番まで)授業の内になんとか一通りできるようになりました。しかし、先生方のお手本を見ていると、自分の型はまだまだ未熟だと思いました。手の動きや重心の移動、目線などにも気をつけて、全体の流れを意識しつつそれぞれの型をきめていくことは、とても難しいと思いました。練習する度に「もっとこうしよう」と思えることが見つかり、太極拳の奥深さを感じました。最初は各動作を覚えるにも、何度も練習してやっと、という状態だったのですが、慣れてくると体が自然に次の動作へ移るようになりました。このことは太極拳を学ぶ中で最も大きな達成感を与えてくれました。特に序盤の「手揮琵琶」までの流れは、自然に体が動いてリラックスした気持でできるので、私のお気に入りの部分です。他には、「倒巻肱」と「単鞭」が好きです。「倒巻肱」は24式太極拳で唯一後ろに下がる動作で、練習していて楽しかったです。最初は相手に気づかれないように体重を前に残しておいて、最後に後ろに引くところに、太極拳の武術の一面を強く感じました。「単鞭」は姿勢や手の動きが難しく、少し苦手に思っていましたが、友達のきれいにきまった単鞭を見て頑張ろうと思いました。予想外に苦戦したのは「雲手」です。先生のお手本を見た時は、簡単そうだと思ったのですが、やってみると違いました。手の高さに始まって、肘を張らないこと、少しずつ体重を片足に移していくこと、手のひらを押し出すタイミングなど、気をつけることが沢山ありました。私の一番の課題は、肩の力を抜くことでした。これは練習中に何度も注意を受け、特に気をつけていました。最終表演の本番では、序盤は意識できていたのですが、後半からは動作の型を追うことに意識が行ってしまい、所々で力が入ってしまったと思います。しかし、好きな音楽に合わせて動いているとリラックスした気持になれました。
太極拳を体験して、体の使い方が少し変わった気がします。まず、体幹がしっかりしてきて、重心を意識するようになりました。何よりも変わったと思うのは、「ゆるむこと」です。これらのことを意識していると、体が軽く動かせる気がします。
この授業は私にとって、とても充実したものでした。太極拳を通して普段あまり交流のない学部や学科の友人と出会えて、貴重な時間を過ごすことができたと思います。太極拳で学んだことを、スポーツはもちろん、生活の色々な場面で生かしていきたいです。半年間、ご指導ありがとうございました。
「太極拳を終えて」
応用生物科学部 生産環境科学
課程 1年 日置真優
太極拳を実際にやった経験は今まで一度もありませんでしたが、私はこの太極拳の授業の履修を前学期のうちから決めていました。昔から武術や格闘技に密かに興味があつたのですが、これまで取り組んだことはありません。そのため体育の科目の中に太極拳があるのを見つけて、これはひとつの武術を体験できるいい機会だと思い履修申請をしました。
最初の授業で、先生方に「簡化24式太極拳」を見せていただいた時、最初に感じた太極拳の印象は「なんて動きがゆっくりなんだ!」というものでした。これまで太極拳という言葉は知っていましたが、あとはテレビで少し見た記憶がある程度でした。また、この他にその時思ったことは、動きがゆるやかで、ずっとつながっているということと、こんなに複雑そうな動作を果たして全部覚えられるだろうか、という不安な気持ちでした。
実際に太極拳を始めてみると、24式という通り、全てつながっているように見えた動作・型は24から構成され、その一つ一つを重点的に練習することで、次々に覚えていくことができました。最初、特に「起勢」の時の腰の落とし方や「抱掌」の腕から手にかけての形などを何度も練習しました。毎回少しずつ、前回の復習も交えながら、教えてもらえたので、手を上げる、足を前に出すといった、動きの単純な順番はそれほど覚えるのに時間はかかりませんでした。「なんだ、それほど難しくないな」とその時は思いました。
しかし、練習中、鏡に映る自分と先生の動きを見比べると何か違う、自分の動きはなんというか単純にかっこよくない!と感じました。そこで、先生方の指導を受けつつ、鏡に映る先生や自分自身や他の受講者の動きを比較して見続けていると、あることに気づきました。それは腰の落とし方や、指先の形、重心の移動の加減、前に出す足幅と位置、こういった細かいと思える違いが、動作全体の格好に変化を与えているのだということです。さらに順を追って演武をしながら、このような細部にまで気を付けて行うのはなかなか難しいものでした。また、一つ一つの型に気をとられていると、自然と体に力が入ってしまい、なめらかな動きができなくなってしまいます。私は太極拳を習得して行きながら、太極拳の難しさを実感しました。先生方がよく「高齢者の方々に教えている」と言っていましたが、動きがゆっくりとはいえ、中腰の姿勢で片足に重心を置くことも多い太極拳をこなす高齢者の方々はすごいなぁと思いました。
後半になると必然的に覚える量も増えてきました。演武の順番や型をしっかり覚えていなければ、ゆるやかでつながりのある演武はできないので、何度も家で鏡を見ながら復習しました。授業では何度も以前にやった部分を復習してもらえたので、少しずつですがなめらかに動けるようになり、徐々に上達できているのが楽しく、うれしかったです。
最終日のグループごとの発表では、いつもやっているのになぜかすごく緊張しました。そのためか「雲手」の回数を間違えたり、動きのなめらかさにこだわりすぎて次の動作に遅れたり、いろいろミスをして残念でしたが、最後の礼をしたとき、最後まで演武できるようになったという達成感があってよかったです。
他のグループの発表を見ているとき、先生方の動きも改めてみていると、やはり私たちの動きはまだまだだなぁと実感しました。先生方の演武はなめらかで途切れることがなく、粘りのある空気を押しているようでした。私は24式太極拳を20番目まで学びましたが、これで完璧などというわけではなく、本当になめらかな演武をするためには随分時間が必要だと思え、太極拳の奥深さを感じました。
最後に見せていただいた「32式太極剣」は、24式太極拳より少しテンポが速く、剣を使った演武は本当に格好よかったです。
私は最初、太極拳はゆっくりとした動きであったので格闘とは、別のものだという認識を持ちましたが、効果的に相手の攻撃を避けたり、攻撃するために重要な重心移動を、ゆっくりと正確に体に覚えこませることが、太極拳ではできるのではないかと今は考えを改めました。この点で太極拳はどんな武術にでも応用できるものではないかと思いました。
太極拳は、気持ちを落ち着かせたい時や、少し体を動かしたい時など、日常生活でも大変役立つものだと思います。もう授業は終わってしまいましたが、太極拳はこれからも出来る限り続けていきたいです。
最後に、ご指導いただきました先生方、本当にありがとうございました。
「太極拳の授業を終えて」
医学部 看護学科 1年 林 葵
私がこの太極拳の授業を履修しようと思ったのは、まだ前学期の科目登録の前だった。運動音痴な私でもゆっくりと楽しんでできる科目はないだろうか、とシラバスのスポーツの欄を見ていた時、「これだ!」と思った。しかし、正直、私は太極拳についてほとんど知らなかった。よく中国人が早朝の公園に集まって、ゆっくり動いているやつだよね・・という程度の知識だった。そのため、最初の授業で先生方の流れるような動きの簡化24式太極拳の模範演武を見た時、太極拳とはこういうものかととても感動した。また、体操のようなものだと思っていた太極拳が、実は武術であることも知り、さらに興味が沸いた。
そして、実際やってみて、太極拳はとても難しく奥の深いものだということがわかった。ゆったりした動作だからといって気を抜いて行えるようなものではなく、常に自分の体の重心をコントロールし、全身の筋肉を使わなければならない。ゆっくりした動きであるので、片足に体重をかけている時が辛くて、早くこの姿勢から解放されたい!と心の中で叫んだこともあった。そして、次の日には筋肉痛に悩まされた。私は背中が反ってしまったり、力みすぎて肩が張ってしまったりして、先生方から注意を受けることも多かった。力を抜き過ぎず、入れ過ぎずという調節が大変だった。また、動きを覚えるのも難しく、物覚えの悪い私はとても苦労した。微妙な腕の角度や顔・目線の向きなど、細かな動きをたくさん覚えなければならなかった。しかし、先生方がこの動きは相手に対してどう向かい、どのような攻撃をしているか、というような説明をしてくださると、動きの意味がわかり、相手を想像しながら少しずつ細かな動きも覚えられるようになった。
大体動きを覚えた頃、今度は先生方のように流れるような動きをしてみたいと思うようになった。それまでは一つ一つの動作のつなぎ目に止まってしまったり、ついていこうと慌てて動いたりしていたからだ。しかし、やろうと思ってできるようなものではなかった。次にどのような動作がくるかをしっかり把握して、止まらずに動きをつなげるのはとても難しかった。そして、美しい動きをするには、完全な体重移動と肩の力を抜くことが最も必要だった。また、音楽をかけると、動きに呼吸が合うように感じられ、音楽がないときよりもしなやかな動きができた気がした。体の動きだけでなく呼吸も重要なのだと、この時わかった。
最初は何も知らずに参加した太極拳だったが、やっていくうちにとても楽しくなり、一生続けられる趣味を見つけたと思った。これからは地域の太極拳の教室などにも積極的に参加してみたい。
今回、このような機会を提供してくださった先生方にはとても感謝しています。丁寧で明るいご指導のおかげでとても楽しく受講できました。本当にありがとうございました。
「太極拳との出会い」
工学部 機能材料工学科 1年 Oh
Khai Yih
入学したとき、体育の授業に太極拳があるのを見た瞬間、「よし、これにしよう」と決めました。しかし、太極拳の授業は後学期にしかないから、ちょっと残念だなと思いました。その後、太極拳の授業の到来をずっと待っていました。10月の後学期になって、全学共通教育の授業の中で、登録した一番目の授業は太極拳です。しかし、登録した同僚学生の人数が多いので、電子的抽選が行われました。「落選したら、もう一年待たなければならないのか」と心配しましたが、コンピュータの画面に「当選」という字が出たとき、太極拳をやる機会が出来たとうれしく思いました。
高校の頃、太極拳をやったことがありました。毎朝授業が始まる前に、20分ぐらい太極拳の練習をしていました。それを一年間も続けましたが、太極拳の練習というよりも、今では遊びだったと思えます。それぞれの動作や姿勢をあまり意識せずに、単に身体を動かす「適当太極拳」でした。だから、太極拳をちゃんと学びたいという気持ちで、この太極拳を履修しました。それに、健康のためにもちょっと運動したいと思っていましたので。スポーツが苦手で、運動音痴の私に適しているスポーツはやはり体力が余り要らない太極拳だと考えていましたが、意外に太極拳は足腰に負担がきました。
授業で先生が太極拳の動作を一つずつ優しく、分かりやすく教えてくださいました。その上、丁寧に私たちの姿勢を直したり、技を説明したりしてくれました。外国人の私にとっても、問題なく理解出来ました。複雑な太極拳は先生方の指導のおかげで、より簡単に身につけられました。大学の一週間の授業で、唯一さぼらなかったのは太極拳だけです。太極拳を履修して、本当によかったと思います。
最後になりましたが、この半年間のご指導、ありがとうございました。