色素増感太陽電池研究開発部門では、創造的な新技術、酸化亜鉛薄膜の電気化学析出(電析=電解めっき)を利用した、色素増感太陽電池の研究開発を推進しています。低価格な次世代型太陽電池として世界的に注目されている色素増感太陽電池ですが、従来の技術では製造過程に高温での熱処理が含まれるため、電池の基体にガラスを用いることしか出来ませんでした。私たちが開発した電析法では熱処理が不要となるため、軽量・柔軟で割れにくく、低価格なプラスチックを利用することが可能になります。しかも、得られる酸化亜鉛は光や電子を極めて通しやすいナノポーラス結晶構造のため、透明で高性能。さらに、これとマッチする増感色素にはカラフルな有機色素を用いるため、完成した電池もカラフル。これらの技術的特色から、安価、軽量、フレキシブル、カラフル、シースルーなどの数々の魅力を持ったカラフルプラスチック太陽電池の開発が可能になりました。





シリコンテクノロジーから生まれた従来の太陽電池は、高性能ではあっても高価なことがその普及を阻んでいることは良く知られています。しかし、太陽電池の幅広い活用と普及のためにクリアすべき課題は価格と性能のバランスだけではありません。シリコンや一部の化合物半導体を用いた太陽電池は、その材料と構成ゆえにほとんど全てが黒くて硬い、四角い板状のものです。携帯電話をはじめとして、今はどこにいても電気を使う時代です。例えばそんなモバイル電子機器用には、必要なだけの電気さえ得られれば、軽量であったり、デザイン性に優れていたりすることは大きな魅力になります。さらに、住宅等の外装を考えた場合でも、今よりももっとずっと多くの太陽電池が使われるためには、「黒い板」だけでは困ったことになるでしょう。「薄いエネルギー」である太陽電池を集めて、電気に変換する太陽光発電システムは、変換効率を数パーセント向上すること以上に、面積で稼ぐ大規模な設置が有効なことは当然です。設置しやすい価格とデザイン性を実現することは、極めて合理的な考え方です。












 本部門では、高効率化や長寿命化を目指した新しい無機、有機材料の研究開発、低価格化や高機能化に貢献するデバイス製造技術開発、得られた太陽電池を精密に評価する光電気化学研究、さらにLCA(ライフサイクルアセスメント)手法によってその環境負荷低減効果を予測する研究などを推進するスタッフで構成されています。それぞれの研究課題は、色素増感太陽電池の実用化、産業化を志す企業パートナーとも緊密な連携によって推進されている他、企業同士の交流を促進する役割も担っています。そうした競争的研究環境は、学生のやる気と責任感を引き出し、即戦力となる人材育成にも役立っています。

 本当のイノベーションは、革新的な技術(ハード)がその魅力を引き出すアイディア(ソフト)出会った時に始まる。私たちは、ハードとソフトの両面からこの太陽電池を研究開発する産学連携組織、「ユニバーサルソーラーセル研究会」を結成しました。太陽電池の高性能化や信頼性向上、低価格化に関わる材料開発、製造技術から、カラフルなプラスチック太陽電池の魅力を活かすアプリケーション開発までに取組むことで、新しい産業の創出に向けて邁進しています。

新しい技術である色素増感太陽電池、さらにはカラフルプラスチック太陽電池を実用化し、未来のエネルギー源に育てていくためには、従来の太陽電池には無い固有の魅力を活かした使い方をイメージした研究開発が必要だと私たちは考えました。色素増感太陽電池は、コスト対性能のバランスを大幅に改善するポテンシャルをもった技術ですが、実用化の初期段階から既存技術に対して優位に立つ事は容易ではありません。大切なのは、今出来ることを考えて、早期の実用化を達成して、市場の競争の中でこの新しい技術を育てていくことだと思います。