近年、太陽電池の急激な生産拡張に伴い、大面積・低コスト化が可能な薄膜系太陽電池が次世代型太陽電池として注目を集めています。しかし、薄膜系太陽電池では太陽電池モジュール(パネル)の面積が1m角程度と非常に大きく、構造の不均一性が発生しやすい本質的な問題があります。特に企業側からは、太陽電池モジュールの生産性向上のため、大面積モジュールの構造評価を簡便に行える技術が強く望まれています。そのため当センターでは、太陽電池モジュールの構造評価技術を開発する研究拠点として、平成2010月に太陽電池モジュール評価技術研究開発部門を新設しました。

 最近、地球規模でのエネルギー・環境問題を解決するため、クリーンエネルギー源である太陽電池の開発が活発に進められています。太陽電池は光を直接電気に変換するためにエネルギー源としては理想的な性質を持っていますが、太陽電池の変換効率はまだ低く、設置コストが高いのが最大の問題となっています。現在主流の太陽電池は、LSIなどにも使用されている結晶シリコンで作られていますが、この太陽電池では材料費が製造コストの約半分を占め、将来的な低コスト化が難しい状況となっています。そのため最近では、太陽電池の厚さを結晶シリコンの100分の1にできる薄膜シリコン太陽電池が注目されています。特に水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)や微結晶シリコン(μc-Si:H)と呼ばれる薄膜シリコン材料は、プラズマを使用した方法により1m角程度の大面積基板に直接形成でき、大面積化による低コスト化を実現しやすい特徴があります。

 現在開発が進められている薄膜シリコン太陽電池は、高効率化を実現するためにa-Si:Hμc-Si:Hの太陽電池を積層させた構造となっており、それぞれの太陽電池は電気的にプラスの層(p)およびマイナスの層(n)と電気を発生する層(i)により構成されています(図1)。一方、市販されている太陽電池パネル(モジュール)は、ストライプ上の要素セル(構造は図1と同じ)により構成されており、それぞれの要素セルは電気的に直列に接続されています(2)。そのため、もし太陽電池の要素セル1つの出力が構造不均一性により半分になると、直列接続のために太陽電池モジュール全体の出力も半分になってしまいます。この様に太陽電池モジュールの出力を高めるためには、均一に薄膜シリコンを形成する必要があります。

















 しかし、特にμc-Si:Hに関しては、薄膜を均一に形成するのは難しく、また膜構造を精度良く評価する手法も確立されていません。そのため、膜構造を調べるには、まず評価技術そのものを開発する必要があります。特に当部門では、このモジュール構造を評価するために、エリプソメトリーと呼ばれる光学測定法を用いた評価技術の開発に取り組んでいます。エリプソメトリーは偏光()を測定に使用し、試料表面での光反射から膜構造を評価する方法です。200810月からは、大日本スクリーン製造と共同研究を開始し、大日本スクリーン製造が開発した大面積型エリプソメトリー評価装置(3)を使用して薄膜シリコン太陽電池モジュールを評価する研究開発を進めています。当部門では他にも主要太陽電池メーカーと直接連携を取りながら太陽電池の構造評価を推進しています。これらの研究開発により、様々な太陽電池に対する構造評価技術を確立し、太陽電池産業の発展に役立ちたいと考えています。さらに、既存の太陽電池とは全く異なる新しい太陽電池材料を使用した太陽電池作製にも力を入れています。

図3.大面積型エリプソメトリー評価装置(大日本スクリーン製造:RE-8000)

図1.薄膜シリコン太陽電池の構造

図2.太陽電池モジュールの構造