食品の安全と安心を考える:
21世紀の食品科学の重要な課題の1つは、食品の安全性の強化である。食品の安全を図るためには、天然物、生体成分、食品成分、食品添加物、環境化学物質、農薬、薬品などの影響を人間の健康に対する影響を含め、個体から分子・遺伝子レベルに至るまで、さまざまな理論・手法、特に先端的な分子生物学的な理論・手法で捕らえることが不可欠である。そのような視点からの食品の安全性について、関連法規も含めて3年前期で「食品安全性学」が食品科学コースでは開講される。さらに、食糧生産の向上や効率化、食糧・食品の高付加価値化のための先端技術である遺伝子組換え技術(動物、植物、微生物)と安全性の関連などについても、さまざまな角度から今後さらに詳細な検討が不可欠であり、これらに内容についても、前述の「食品安全性学」の中で講義される。
この食品と安全の問題は、世界的にも、日本においても、重要な問題で、本学の応用生物科学部が多いに今後取り組まなければならない重要課題である。
具体的には、食品安全性の問題は、国としても重要であることから、「食品安全基本法」が制定され、食品安全委員会が組織されている。委員会の詳細はインターネット( http://www.fsc.go.jp/ )からも閲覧可能である。最近の情報の中には、国民の関心の高い「鳥インフルエンザ」、「狂牛病(BSE)」、「食中毒」などの最近のトピックスをはじめ、食品添加物、農薬、ウイルス、カビ、自然毒などの情報が常時掲載されている。その中で、たとえば、鶏肉は本当に安全か?などの疑問に答えようとしている。また、新しく開発された健康食品 (保健機能食品:厚生労働省が許可する特定の保健機能を有する食品。詳細はインターネット[ http://www.jhnfa.org/ ] からも閲覧可能である)、遺伝子組換え食品などについても多くの情報を提供している。
きわめて最近、環境ホルモンの問題は先端的な分子生物学的な手法で次のような新しい進歩が見られている。つまり、ダイオキシンが本来我々の体にあるホルモンの応答を遺伝子のレベルで攪乱することが判明している(図参照:実験医学 2003年より)。さらに大変興味深いことに、食品で環境ホルモンの悪影響を未然に防ぐ可能性も研究されている。みなさんが普段から食べている大豆に含まれるポリフェノールであるゲニステインという化合物(図参照)が、環境ホルモンであるノニルフェノールやビスフェノールによる乳ガンの増殖を抑制することもわかってきている(図参照)。以上のように、食品を取り巻く環境、特に、食品の安全と安心の問題の重要性はますます高まってきている。この問題は、食品科学、生命科学の研究の進歩とともにより広範に、より深く理解できるようになることが期待されているわけである。
(参考書)
木村編「食料科学バイオテクノロジー」培風館、日本農芸化学会編「遺伝子組換え食品」学会出版センター、寺尾編「食品機能化学」光生館、化学・編集部編「環境ホルモン&ダイオキシン」化学同人、小野寺・佐伯著「脳とプリオン」朝倉書店
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