食品と健康を考える:  

食品は我々の健康ときわめて密接に関連していることが解明されてきている。
食品は、人間の生存を支える最も重要な因子の1つである。我々の健康は食品を抜きにして論じることは決してできない。生体恒常性(ホメオスタシス)の維持も、その変調の結果である発症も、そして疾病からの回復も、多かれ少なかれ、必ず食品と関係する。この問題を最新の学術的視点・方法論的基盤に立って解析し、解析結果を人間の実生活に役立てるべく展開することは、今日的意義の極めて大きい課題である。
  従来、食品の品質は、主として栄養特性と嗜好特性の両面から評価されてきた。本来食品は人体への栄養素の供給体であるから、その基本的価値を栄養面から論じるのは至極当然である(すなわち、“一次機能”: 食品中の栄養素が生体に対して短期的かつ長期的に果たす機能であり、生命の維持に不可欠のものである)。これらの栄養素の内容は、 食品科学コースでは「栄養化学」や「食品栄養学」で開講される。 また、同時に、食品は薬品とは違うのであるから、我々の嗜好を満足させるものでなくてはならない(すなわち、“二次機能”: 食品が感覚に訴える機能であり、とりわけ、味覚嗅覚応答に関わるその機能は、ある意味では食品というものの特徴を最も端的に表すものと言えよう。しかし、それですべてではない。
  食品は“三次機能”を備えている。三次機能という言葉で表現してよいであろうこの機能は、生体防御(主として免疫)、体調リズム(ホルモン系)の調節、精神の高揚(覚醒)と鎮静(誘眠)、種々の生体成分の調節などに関係する生体調節機能を含んでいる。さらに、健康状態と病態の差異、疾病からの回復の原因(たとえば、血圧や血中脂質などの変化)、老化の進行と抑制の機序といった、社会的にも極めて関心の高い事柄さえも、食品の三次機能の中にこそ見出されるのである。このように、食品の価値は、本質的にはカロリー量、タンパク質(必須アミノ酸)含有量、脂質(必須脂肪酸)含有量、ミネラル、ビタミンなどの栄養素成分組成表示といった分析値のみでは表わし得ない状況に至っている。これらの食品の三次機能の内容は、 食品科学コースでは 「食品化学 II 」で主に開講される。
  さらに、上述のような食品科学の進歩により、動脈硬化(図参照)やガンなどの生活習慣病を食品により予防・改善する試みが活発に展開されており、”特定の機能を賦与した食品”も厚生労働省の認可する“特定保健用食品”(詳細はインターネット [ http://www.jhnfa.org/ ] からも閲覧可能である)として登場しました。現在は、実現可能性が高く、市場規模が大きいものから特定保健用食品が実現しています(図参照)。世界的に見ても、このような食品と病気との因果関係は、米国では「ヘルスクレーム」として、特定の食品成分の病気に対する効果が表示可能となっています。その例として、大豆タンパク質などの効果をご紹介します(図参照)。欧州でも米国に類似したヘルスクレームの表示がなされてきています。
  また、食品成分の遺伝子レベルに対する影響も先端的な分子生物学の手法を活用して急速に進展してきています。たとえば、驚くべきことに、食品に含まれるビタミン、脂肪や栄養素以外の成分の中には、単なる栄養素として機能するだけではなく、”遺伝子に働きかける生体内シグナル”として不可欠であることも、ごく最近わかってきました。(図参照:実験医学 1998 年より)。
 さらに2003年には、ヒトゲノム計画により、人間の遺伝子の全塩基配列が解明され、今後ますます詳細に食生活・食品と病気の関係がより明確化する時代が到来します。このように、人間生活そのものが、大きく変貌しようとしているわけである。
  以上の様に、食品と健康の問題の重要性はますます高まってきている。健康科学を核として、食品科学、生命科学の研究の進歩とともに、より広範に、より深く理解できるようになることが期待されているわけである。(図参照)。

(参考書)
山内ら編「牛乳成分の特性と健康」光生館、鬼頭ら編「食品化学」文永堂出版、
大沢ら編「食品機能化学」三共出版、矢野ら編「現代の医食同源」学会出版センター