Laboratory of Forest Ecology
■森林生態学とは■

 これは森?

森林というとどんなものをイメージされるでしょうか?ジャングル?スギ人工林?公園?ブナ天然林?神社の杜?街路樹?裏山?河畔林?いがいに定義するのはむずかしいものです。人それぞれによってイメージの種類や範囲は違うでしょう。さすがに木が3本で森と言う人はいないでしょうが、まばらに木が生えている疎林というものから、人工林のように密に木が生えている林、また河畔林のように洪水で容易に破壊される林もあります。

では、人がスギやヒノキを植えた場所と木々が植えられた公園では何が違うのでしょうか? 植えられた樹木と他の生物や環境との関わり合いの強さの違いではないかと考えています。スギやヒノキなどの人工林は、下草刈り、除伐、枝打ちなどを人が定期的にするとはいえ、大部分は自然の力に任せて「林」になっていきます。しかし、公園(公園の中には、○○緑地といって道路沿いや遊具のある公園部分以外は自然に任せているような場所もありますし、森林公園なんていうのもありますので、なかなか厳密な区別はむずかしいのですが、、、)や街路樹は、落ち葉が見苦しいからといって集めて燃やしたり、枝が道路の電線に架かるからといって枝打ちをしたり、大きくなりすぎたから幹の途中で切り戻したり、綺麗な花が咲くから外国の樹種を植えたり、樹木が自ら作り出そうとする他の生物や環境との関わり(後述する生態系)を極度に人間側に都合がいいようにコントロールしようとしている場所ではないでしょうか?森林とは、樹木がある場所の上部を優占するだけではなく、哺乳動物や草や微生物など様々な生物が関わり合って存在する集合体そのものを指すと考えることができます。

次に、森林生態学の後の部分、「生態学」についてお話します。英語に訳すとEcologyとなる。カタカナ語ならエコロジーである。しかし、「生態学(Ecology)」が意味することと「エコロジーの意味」は乖離してしまっている。「エコロジー」という意味を、環境にやさしいという意味に覚えてしまっている人が多いのではないでしょうか(このページを見に来た人はそんな心配はいらないかも、、、。)?

生態学(エコロジー、Ecology)とは生物学の研究分野の一つです。分子生物学などは、個々の生命現象の根幹(生理反応)を、細分化して明らかにしていくのに対して、生態学は個々生物によって作り出される集団や相互関係、環境に対する相互作用など、統合的に明らかにしていく学問です。「生物同士」と「生物と環境」が相互に作り出すシステムを生態系と呼び、生態系で起こる現象や相互作用などの観察とデータ(現象を説明する操作実験を含む)から見出していこうとするものです(生態系内外のエネルギーや物質の流れなども解析対象となることもある)。研究の対象とする場所(生態系)によって草地生態学、海洋生態学などや研究の対象となる生物集団によって個体群生態学・群集生態学と呼ばれる分野が存在します。

以上を簡単にまとめると、森林生態学とは、研究の対象を森林として、その森林が作り出す生態系の仕組みを明らかにしていこうとする学問です。

一体何に役に立っているのか?と思われる人もいるかもしれませんが、日本の国土の7割を覆う森林を道路やダムと同じようにすべて人間の管理下に置くことは無理と我々は考えます。また、近年は開発による森林の喪失や里山の利用放棄などにより、森林に都市地域では得られない潤いを得ようと、レクリエーションに利用できる施業や景観管理などが森林に対して行われています。しかし、人の都合だけで森林を改変すれば、それは先に説明した「生物が関わり合う場所」を逆に破壊することにならないでしょうか?我々人間は森林の何を知っているというのでしょうか?森林の仕組みも分かっていないのに、「綺麗な花が咲くから、この木を植えましょう」とか、「かぶれるからヤマウルシは除伐しましょう」とか、本当にいいのでしょうか?

人間は、口から入る食べ物のエネルギー以外の力、つまり、石油などのエネルギーを利用して、森林に力を加えることできます。こんな力を持った以上、我々はそのエネルギーの使い方を間違ってはいけません。建材などに利用する為の木材生産を行い、心豊かな生活を送るための森林レクリエーションの場を設ける際には、地球上に暮らす一員として生物の多様性や国土(土・水)の保全を充分に検討した上で、森林に力を加える必要があると考えます。その為には、森林の仕組みの一つでも多く明らかにする必要があります。この明らかにすることができた仕組みを少しでも「生物が関わり合う場所」を保全する為に役立て、その為に森林管理について社会に向けても積極的に発言していく責務を担っている学問だと考えています。



(2005.12.12更新)


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