20世紀の節用集

節用集の終焉期です。新たな辞書界の動きが、節用集を振り落としていきます。

 

◆19世紀に引き続き、「節用」という書名は諸分野の内容をまとめた教養書につけられました。

『婦人文庫 節用』(大正3年刊)の表紙の一部。『女学範』『手習指南』『都風俗化粧伝』など江戸時代の教養書を集成したものです。

◆一方では、書名の変容以上のことが起こりました。近代的な国語辞典が、印刷技術の進歩と相まって、小型化しはじめたのです。これにともなって、節用集の出版数も激減していきました。


縮刷版『言海』(明治37・1904年刊)。文庫本と同じ大きさ。

〇『言海』は本格的な国語辞典として最初のもので、国語辞典の模範でした。このような辞典まで小型化すれば、節用集などはひとたまりもなかったでしょう。

〇編者・大槻文彦の産みの苦しみは有名です。
  参考:岡島昭浩さんが電子化した「ことばのうみのおくがき」

〇図版は『新式以呂波引節用辞典』明治38(1905)年初版刊、大正10年第36版。

○この時期になっても、イロハ順をとりながら語釈もつける折衷タイプのものがありました。この本のイロハ引きは次のようなものです。
  @単語の最初の仮名でイロハ分け
  Aそのなかを仮名字数ごとに分類
  Bさらにそのなかをイロハ順に配列
 単にイロハ引きを導入するだけなら、早引節用集的なAは不用のはずです。それがあることからすると、当時では、まだまだ早引節用集の影響が強かったということでしょうか。

○また、上欄(頭書)に付録があるのもいいですね。まるで18世紀の節用集みたいです。こういうところにも伝統の影が及んでいるのでしょうか。

◆明治期には、在来の多くの文物が、西洋化という大波に飲み込まれていきましたが、節用集もそのひとつだったということになりそうです。

〇図版は『いろは字典』(昭和3年刊)。書名の上に「昭和」とあるのが見えるでしょうか。これが、最後の節用集と見られるものです。



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