百花繚乱・18世紀の節用集  その1

 「18世紀の節用集」にとりあげなかった、さまざまな工夫を見ていきます。
部分的に拡大しました
「壺の石碑ハ奥州にあり 碑文の中に日本の中央と記ス」と読めます。なにやら謎めいていますね。

◆女人禁制?

『男節用集如意宝珠大成』(享保元・1716年刊)

○書名が面白いですね。利用者をしぼるこむのがミソなのでしょう。『男重宝記』(元禄6・1693年刊)・『女重宝記』(元禄5年刊)などの影響でしょうか。

○これも付録満載型の節用集ですが、何とか他の本と差別化しようということなのでしょう。また、丁寧な語注が多いのも特徴です。

部分的に拡大しました
「伊勢大神宮へ帝より姫宮を宮仕へに進じ給ふ。垂仁天皇の皇女倭姫より始まる」。

◆男子禁制?

『女節用集罌粟嚢家宝大成』(寛保3・1743年刊?)

○『男節用集如意宝珠大成』と一対でしょうか。語注の詳しいのも対抗したかのようですし、見出し語同士の境界「。」が左に来るのも同じ。

○拡大部分の注は、ほとんど平仮名書き。女性の言語生活を意識してのことでしょうか。


凡例から。

三角形の位置で季節を表します。狭いスペースを活用しての、うまい工夫。

◆詩文作成のために。

『袖中節用集』(天明9・1789年刊)。横長本ですが、部分的に拡大しました。

○2行目末の「苺」の下部の三角形に注目。詩文作成のときの季節を表す工夫で、▲は植物としての、△は花の季を示すそうです。

○「苺」の楷書の左下に黒点があります。これは漢詩でいう平仄の「平」を表します。仄なら点無し。


◆高密度は高性能?

○小ぶり(B6判相当)の横本も、18世紀の節用集らしさを身にまとうようになります。

『書札節用要字海』(宝暦11・1761年刊)。縦本なら頭書まだよいのですが、横本ではどうでしょうか。言葉をさがすとき、丁を余計にめくることになりそうです。

『字貫節用集』(寛政8・1796年刊)。これも同様のコンセプト。漢字字書『増補画引玉篇』搭載。
→神戸女子大学森文庫の字貫節用集

○小さい紙面に付録をぎゅっと詰め込もうとしたものもありました。

『新増加節用懐珠大全』(東京学芸大)


○小型本もいくらか見られます。

→神戸女子大学森文庫の万倍節用字便字典節用集(元治元年本ですが、元の本は18世紀半ばにはありました)。


◆意義分類の理解へ

○節用集の意義分類は、利用者にとって理解しやすいとは言えませんでした。そこで、いろいろの工夫がほどこされました。

○早引節用集のように意義分類を廃止するのもよいのですが、まずは、意義分類を身近なものにしようとするのが自然でしょう。

万方多福絵引節用集』(寛政8・1796年ごろ刊)では、意義分類を絵で示しました。4っつの絵は「呉服屋店頭・食事・糸桜(?)・稲を刈る農夫」ですが、それぞれ「衣服・食物・木・草」を示します。絵のほうがいいですか、それとも文字のほうがよいでしょうか。

『新撰部分節用集』(宝暦9・1759年刊)。
「凡例」によれば、意義分類を60項目にしたとか。普通は10〜15くらいなので、すさまじい数ですね。これも一つの行き方でしょうか。過ぎたるは及ばざるが如し、でしょうか。

◆時代おくれ?

○図版は『寿海節用万世字典』(享保14・1729年刊)。

○頭書がないのが、この本の特徴。頭書は『頭書増補二行節用集』(寛文10・1670年刊)からほとんどの縦長本の節用集に採用されました。が、『寿海節用万世字典』のように、60年後でも頭書のないものが開版されていたんですね。

○問題は、なぜ、そうなったのかですが、いまだ、妙案を思いつきません。


辞書の世界〜江戸時代篇〜ホーム