近年,波浪推算の精度は向上しWAMモデルなど第三世代波浪推算モデルをはじめとしての利
用・開発が国内外で行われるようになっている。また,推算精度を向上させるために物理過程表現
の改良やデータ同化手法の導入も試みられている.データ同化手法とは数値解析モデルに現地での
観測結果を適用して解析結果を修正する手法である。これにより,数値モデルの不備や入カデータ
の品質による解析誤差が修正され,より高精度の数値解析を得ることができる.本研究は,データ
同化波浪推算モデルの構築を目指して基盤となるモデルを作成すると同時に,既存のデータ同化波
浪推算モデルADWAMの特性を明らかにする.
先に述べたWAMモデルは,プログラムコードに追加・変更する形で改良が進められている.そ
の結果として,最終版WAM Cycle4では,非常に見通しの悪いプログラムになっている。そこで本
研究ではこのWAMモデルの理解と今後のデータ同化モデルヘの改良に向けて,物理機構・計算手
法のリストアップと取捨選択を行ない,見通しのよい基礎モデルを再構築した。この結果,プロ
グラムは全体として1/3に短縮され,特に基礎方程式部分の移流項に着目すると,プログラムは
1/10以下になった。そして再構築以前・以後のモデルを用いて波浪推算を行い,両モデルを比較
検証した結果,推算値が完全に一致し,本研究のモデルの妥当性が示された。
また本研究室は開境界を同化変数としてデータ同化する手法をすでに開発しており,成果も上げ
ている。しかしこのモデルは未だ試作段階の域で,解の収束性や誤差の修正能力など,実用化を考
える上で修正すべき点が数多く残されている.データ同化波浪推算モデルとしてWAM Cycle4に含
まれる9個のパラメータを同化変数としたADWAM (Hersbach,1998)も開発されている。今後,
基礎モデルをもとにデータ同化モデルを構築する前段階として,既存のADWAMの特性を把握す
ることも重要である。したがって本研究はADWAMを日本海波浪に適応し特性を明らかにする。
推算結果では,データ同化ポイントに用いた輸島においてデータ同化前とデータ同化後の結果に
大きな違いは見られなかった。ADWAMは,モデル内の経験変数を目的変数として同化している
ため,波浪場全域に影響を与えることとなる。このため観測地のデータがモデル内に取り込まれう
まく反映されていることが分かる.また他の地点である秋田,金沢,及び鳥取では,多少の改善が
みられた。波浪精度向上の観点からは,モデルのパラメータのみならず,方向スペクトルの第一推
定値,境界条件および外力となる海上風も同化変数としてデータ同化を行う必要もある。また今回
の計算では11日間という短い期間であつたため,長期の波浪推算を行うことにより,適切な同化
変数を算定すると同時にデータ同化に用いる観測データの入力場所や入力数についても検討する
必要がある。