2004年は観測史上最多10個の台風が上陸し,また,勢力を弱めることなく日本各地に甚大な被害をもたらした.このように,台風災害は年々激甚化する傾向にあり,防災・減災の観点から進路及び強度を高精度で予測し、予め対策を講じることが重要となってくる.しかし,台風場は水蒸気・上昇運動・雲の発生(潜熱の解放)・回転運動などといった複雑な相互作用により成り立っており,そのため,従来的に用いられている経験的台風モデルでは,北海道で起こるような温帯低気圧化の過程にある台風の正確な予測・評価ができず問題となってきた.
本研究では,台風データベースを構築することで,特に北海道に石器印した台風の特性(気象・災害特性)を把握する.また,北海道で大きな被害を出した2004年の台風18号を事例とし,経験的台風モデルとメソ気象モデルMM5について計算結果の比較・検証を行い,メソ気象モデルの精度の良さを実証すると共に,将来的により精度の高い新しい台風ハザードマップの構築の可能性を示すことを目的とする.
台風特性について解析した結果,最大風速,継続時間,最低気圧の間には関係性が存在し,日本上陸台風や北海道影響台風についても幾つかの進路パターンが見られた.台風の進路は,季節ごとの特徴的な気圧配置に強く依存しており,それに応じて台風の様々な特性も変化することがわかった.
北海道接近台風がもたらす風速や降水量の極値を調べたところ,北海道北部では風速の極値が特に大きく,南部では降水量の極値が大きい傾向をしめした.風速の極値については,ほとんどの地点で南西風によってもたらされており,北海道の西側(つまり,日本海)を通過する台風によって大きな風災害となる可能性を示している.一方で,降水量の極値については,ほとんどの地点で東風によってもたらされており,台風が南に位置する時(つまり,台風中心が通過する以前)に極値となることを意味しており.これらは,風速と降水量の極値発生のピークにずれがあることを意味し,温帯低気圧化過程にある台風の特有の性質であり,九州や沖縄などに上陸する台風との大きな違いであると言える.また,北海道内陸部で生じる極値については,周辺の地形の影響を受けるといった傾向を見ることができた.
メソ気象モデルMM5での顕著台風の再現実験では,風速場や雲の非軸対象性,温帯低気圧化での気象場など経験的台風モデルでは決して表現できない台風場について精度よく再現できた.また,経験的台風モデルよりは精度は高いものの,依然として風速が5m/sから10m/s程度の観測値との誤差が生じていた.台風ハザードマップの構築のためには更なるメソ気象モデルの精度向上が望まれる.