局地気象情報は,天気予報のみならず,環境・防災・建築・土木・農業・林業等の多くの分野で必要とされ,社会的なニーズは年々高まりつつある.またその要望も多様化・高度化し,求められる情報は定性的なものからより定量的なものへと次第に変化しつつある.従来の気象情報は,アメダスデータ等の観測値の補間によって気象場の空間分布を推定したものが多い.しかし,観測点の多くは平野や谷筋に立地しており,山岳部のようなところでは,十分に物理的整合性のとれた補間ができないため精度低下の問題が生じる.また,気象庁が日々配信するGPV予測値は,最高水平解像度が10kmであり,複雑地形を有する我が国において十分であるとは言えない.
本論文は,過去・現在・未来における高精度な気象情報の提供と有効的活用を図ることを目的に,領域気象モデルMM5を用いて高解像気象データベースと予測システムを構築し,その成果を取りまとめたものである.具体的には,MM5を用いて年間計算を行い,気象場のデータベースを構築し,その有用性について検討するとともに,予測計算においてもMM5計算値が気象庁の運用するRSMの計算値を上回り得ることを明らかにしている.その結果を踏まえて,MM5による気象予測システムを開発し,認可を取得した上で,気象モデルを用いた独自気象予報を開始するに至った過程について述べている.以下に主要な検討項目とその結論について述べる.
・ MM5を用い,中部・近畿地方をカバーする約450km四方の領域を対象として,3km格子で1時間毎の局地気象場を1年間(2001年4月から2002年3月まで)にわたって計算した.そして,計算結果に含まれる気象要素(風速・風向,気圧,混合比,気温,日射量および降水量)について,アメダス,気象官署等の計42地点における観測値と比較し,統計量の観点から計算精度を評価した.風速および風向についてはRMS誤差がそれぞれ約3m/sおよび40〜50度近くあり,定量的な利用についてはまだ問題はあるが,10km格子のMSMに比べれば精度は明らかに上昇しており,今後さらなる高解像度計算を行うことにより,計算精度の向上が見込まれることが明らかとなった.気圧,水蒸気混合比および気温については高い計算精度を有しており,1時間値としても実用的な利用が十分に期待できる.日射量については,全地点を平均したバイアスの年平均値が2割程度の過大評価傾向となり,これは日射をさえぎる雲の発生が実際よりも少なかったことに起因する.年降水量の計算値は全体的に1割程度過小評価にあった.
・ 社会的に予測ニーズの高い気温,風向・風速および降水量の4つの地上気象要素を対象とし,アメダス観測値を用いて,RSMとMM5の予測精度を検証した.まず,RSMとMM5のモデル間の違いを調べるために,同じ解像度(20km格子)で両者の計算精度を比較した.そして,MM5を20km,6.7km,2.2kmと高解像度化した時に計算精度が向上するか否かについて調べた結果,20kmの同空間解像度では,地上気温及び地上風向・風速についてMM5の予測精度がRSMを上回ることが示された.ネスティングによって空間解像度を6.7,2.2kmと向上させると,地上気温及び地上風向・風速の予測精度は改善されることが明らかになった.しかし,降水量については,RSMの予測精度がMM5を上回り,空間解像度の向上に伴うMM5の予測精度の明確な改善も確認できなかった.
・ 降雨を除いてMM5の予測精度が気象庁RSMを上回ることを実証し,MM5を用いるリアルタイム局地気象予測システムを構築した.これにより,従来にない高解像且つ高精度な気象予測が可能になった.そして,予報業務の認可を取得し,本システムから得られる予報結果を,2005年6月1日よりホームページ(http://net.cive.gifu-u.ac.jp)にて一般公開を開始した.