メソ気象モデルを用いた風況シミュレータは,多くの物理過程や基礎方程式からなるために,空間解像度を上げると,計算時間が膨大になるという問題点があった.また,これまでの高解像度風況シミュレータの大半は,非常に領域の狭いものであり,実際に風力発電の適地選定を行う際に,その適用範囲は限られたものになってしまっていた.そのため,計算精度を落とさず,より簡略化した低コストなモデルを使用することで,広領域・高解像度にわたる風況データベースを構築するべきであると考えられる.また,これまでの風況データベースは,汎用性の低い作図ツールで手動で図示されてきたため,風力発電事業者が独自に風況解析を行うことは難しかった.
そこで,本研究では,メソ気象モデルMM5と気流計算モデルMASCONを併用し,計算精度を落とさず,かつ,計算時間の大幅な短縮を可能としたモデル設定の下で,中部全域を覆う広領域・高解像度・長期間の風況データベースを構築した.構築された風況データベースは,MM5の3km格子領域の計算値と比較して,山の起伏や海岸線を細かく再現することができるため,計算精度が大幅に改善された.計算時間においては1つの333m格子領域の年間計算をするのに,従来の手法(全てMM5を使う)と比べて約88倍の短縮を可能とした.風力発電の適地選定を行う上で,計算の精度面・コスト面において,これまでにない極めて有用なものになった.そして, Visual Basicを基に風力発電適地選定用GISアプリケーションの開発も行った.これにより,風力発電事業者だけでなく誰もが簡単に風況データを表示・解析することが可能になった.