嶋田 進  「高解像度・高精度な陸上・洋上風力エネルギーマップの構築」

地球規模での気候変動が顕在化する中,化石燃料の代替エネルギーシステムとして環境負荷低減型のエネルギー システムである風力発電が注目されている.風力発電の発電量は風車立地点の風況に大きく依存するため,採算ラ インにのる風力発電施設の建設・運営のためには,事前の風況精査に基づく適地選定が最も重要である.近年,観 測コスト削減および面的な風況の把握を目的として,現地観測を用いない高解像度で高精度な風況推定手法の確立 が望まれてきた.そこで,期待されているのがメソ気象モデルによる風況推定手法である. 本研究は,風力発電適地選定を目的としたメソ気象モデルMM5(PSU/NCAR)の有効な利用法について様々な検討 を行うものである.また,メソ気象モデルの高解像度化に関する諸問題についても検討し,高解像度で高精度な風 況データベースの構築法についても検討を行った. まず,本研究ではMM5の物理オプション,標高・土地利用データ,ネスティング手法の最適化を施すことで中部 日本地域全域を含む3km格子および伊勢湾を囲む1km格子の2001年の新風況データベースを構築した.その結果, 本研究の全てにおいての基礎データとなる精度の高い風況計算値がデータベース化された. 次に,風況特性を考慮した風力発電適地選定手法の検討を行い,平均風速のみならず,風向の安定性や乱れ強度 も考慮して中部日本地域における大規模ウィンドファームの適地選定を行った.適地選定には,MM5の3km格子年 間風況データベースを用いた.その結果によれば,中部日本地域における大規模ウィンドファームの最適地は中部 山岳地帯の一部,御前崎から伊勢湾口に至る太平洋沿岸,伊勢湾を含む太平洋上などに分布することが明らかとな った. さらに,山岳での風力発電適地選定を目的として風診断モデルによる高解像度風況マップの構築手法の検討を行 った.風診断モデルには変分法を用いた風系推定モデルであるMASCONモデルを用いた.MASCONモデルをMM5の1km 格子の風況計算値に適用することによって,より高解像度で高精度な風況マップをより効率的に構築可能であるこ とを示した. 最後に,MM5の1km格子年間風況データベースを用いて,伊勢湾における洋上風力発電の可能性に関する検討を 行った.メガワット級の大型風車を対象に伊勢湾上の潜在風力発電量を試算したところ,伊勢湾は標準的な原発 2〜7基分に相当する莫大な風力発電ポテンシャルを秘めていることが明らかとなった.