台風や寒冷前線通過時のイベント的気象擾乱によって生じる強風時の吹送流は,高潮,大規模海浜変形および湾
内水質・生物環境急変等,災害・環境の両面に大きく関わっている.よって沿岸域の防災や環境保全の観点から,
この強風下海面境界における物理過程の解明とモデル化は必須課題と言える.しかしながら,強風時の海面直下は
砕波や気流の剥離によって生じる激しい海面変動や気泡混入により計測自体が非常に困難となっており,依然とし
て強風下の海面境界過程は明らかにされていない.
そこで本研究では,水理実験によって,砕波を伴う強風下吹送流の輸送・乱流構造を解明し,得られた実験結果
に基いて輸送・乱流諸量のモデル化を行い,そしてモデルを取入れた実験室スケールおよび実海域スケールでの数
値計算を行い,その有用性・妥当性について検討を行った.
砕波を伴う水面直下の流速を高精度・高解像度に計測することが可能な粒子画像流速測定法(PIV)を開発した.
平均流からのカスケード・ダウンと波動運動・砕波という異なる発生起源の乱流成分を区別するために,流速
成分をスペクトルの形状に着目して4つの周波数帯に区分し,平均流成分uc,低周波乱流成分ul,波動成分uw
および高周波乱流成分uhと定義した.これらの流速成分はレイノルズ平均則を満たしており,相互に独立な成分と
して扱えることがわかった.このようにして区分した各周波数帯の輸送・乱流諸量の風速による変化,砕破の影響
について検討を行い,強風下吹送流の鉛直構造を明らかにした.
次に,実験結果より,風速だけで吹送流の鉛直分布を普遍的に算出することが可能な鉛直分布モデル式を構築し
た.この吹送流の鉛直分布モデル式を基に,波動運動・砕波による高周波乱流成分を運動方程式に外力項として付
加する形で砕波応力項の定式化を行った.砕波応力項の有用性を確認するため,数値風洞水槽モデルを開発し,室
内実験の再現計算を行った.この砕波応力項を組込むことによって,実測値に近い吹送流の急峻な分布を表すこと
ができた.
さらに砕波応力項の有効性を確認するために,大気−海洋−波浪結合モデルに砕波応力項を組込んだ強風下吹送
流モデルを構築し,冬季伊勢湾を対象に,実海域への適応を試みた.砕波応力項を組込んだ強風下吹送流モデルで
は,流速および流向の改善が見られた.
った.