本研究は,貧酸素化に代表される海洋環境問題の対策・予測を目的として,長期間かつ内湾スケールの高精度な
解析手法の確立を目指すため,大気場と海洋場を一体的に扱うことが可能な大気海洋結合モデルの開発を行う.
このモデルの利点は,高精度な大気場データを海洋モデルに入力することが可能であり,また,将来的には,リ
アルタイム予測も可能とする点にある.
本研究では,このモデルが内湾・沿岸域の全体像を理解するための有用な計算手法として位置づけるため,計算
対象を伊勢湾とし,結合の効果およびモデルの精度について各種観測データを用いて検証した.
大気海洋結合モデルによる運動量および潜熱・顕熱フラックスの算出方法は,大気安定度までを考慮できること
で良い再現性を示したことから,その有用性が明らかにされた.また,気象モデルから海洋モデルに気象データを
入力し,海洋モデルから気象モデルに海面温度をフィードバックする双方向の結合効果は,特に潜熱フラックスの
適切な評価につながることが考えられ,結果として,表層水温の良い再現性を示したことから,この手法の有用性
が示された.
精度検証の結果では,気象モデルに2ウェイネスティング手法を適用することで,短波放射の過大評価を改善す
ることができた.海洋場の精度は,潮汐は実用レベルであり,水温に関しても比較点の全層にわたって相関係数0.6
以上を示した.しかし,流速,水温および塩分についてはまだ十分な精度とは言えず,特に,表層流速の精度,全
層における水温の高温化および表層塩分の精度に問題が見受けられた.この原因の1つとして考えられた,乱流モ
デルについて検討した結果,乱流モデルの違いが局所的な鉛直混合だけでなく,内湾全体の流れ場および温度場に
大きく影響を及ぼすことを明らかにした.今後の課題としては,さらなる短波放射の改善,河川流入効果の高い再
現性および強風時に対応した乱流モデルの確立が重要であると考えられた.