台風直下においては,暴風・豪雨に起因して,海洋場・波浪場に極めて大きな影響力が及ぶ.一方で,海洋場は大気場との顕熱・潜熱エネルギー交換に作用し,また,波浪場は大気場との運動量交換に作用する.このように,台風直下の海面境界においては,大気−海洋−波浪の間で極めて複雑な相互作用が生じている.すなわち,より高精度な台風の進路・強度予測のためには,このような海面境界物理を詳細に反映した予測モデルを適用することが望まれる.本研究では,2004年8月に日本列島に大きな被害をもたらした台風16号を事例とし,海水面温度一定のMM5と大気−海洋−波浪結合モデルによる計算結果の比較と,台風直下での海洋構造の解明を行った.
MM5単体に2種類の海水面温度初期値を使用し計算を行ったところ,計算終了時(二日後)には,中心気圧に10hPaもの差が出る結果となった.この結果より,台風強度は初期の海水面温度場による依存性が非常に大きいものであることがわかった.さらに,大気−海洋−波浪結合モデルによる数値計算では,台風通過後に顕著な海水面温度の低下が確認され,台風強度が弱まる結果となった.また,この海水面温度低下は,海洋表層でエクマン湧昇に特徴的な流速分布(表層での発散場)が確認され,これに起因するものであることが明らかとなった.