内田セミナー 2000年度後期第1回 (2000年4月13日) 発表者:内田勝

内田セミナーって何をやればいいの?


[問い1]内田セミナーではどんな研究をすることになっているのか。

[答]シラバスを引用するなら、「特定の文化によって生み出された事物の特徴をさまざまな角度から読み込むことで、その文化の本質に迫ろうとする」研究である。


[問い2]上の引用が主張している特に重要な点は何か。

[答]本当に論じるべき対象は文化事象そのものではなく、それを生み出した文化であるということだ。


[問い3]文化事象を研究対象にして文化を論じるにはどうすればよいのか。

[答]とりあえず、ある文化事象が、それを取り巻く人々、すなわちその文化事象を生み出した文化に属する(またはその文化の外側にいる)人々にとって、どんな意味を持っているかを探ることだ。


[問い4]そのための論文はどんなパターンに従って組み立てればよいのか。

[答]原則的には「〜を……で読むことで××について論じる」という形を取る。もう少し説明的に言うと、
「(研究対象となる文化事象)を、(何らかの理論)を使って読むことで、(その文化事象を取り巻く人々にとって、その文化事象が持っている意味)について論じる」

という形である。


[問い5](何らかの理論)とはどんな理論なのか。

[答]基本的にはあなた自身の「物の見方」である。自分自身で[問い]と[答]の連鎖をたどりながら組み立てればよい。もちろん既存の学問分野からさまざまな理論を流用することは有益である。ただしあまり既存の理論に依存しすぎると、肝心の文化論そっちのけで、偉い学者の理論の紹介に終始してしまう危険性があるので注意。


[問い6]そもそも、論文のための研究対象には何を選べばよいのか。

[答]あなた自身に取って、好きにせよ嫌いにせよ、非常に気になる対象、興味をそそられる対象、つまり何らかの意味で「面白い」と思える対象を選ぶべきである。


[問い7]研究対象を選んだら、次にどうすればよいのか。

[答]あなた自身にとってその対象がなぜ「面白い」のかを考えてみることだ。


[問い8]それはなぜか。

[答]「面白い」と感じる以上、そこにはさまざまな理由が絡んでいるはずであり、それらの理由について考えることで、自分自身の文化的背景を確認することができるからだ。さらにそのことによって、あなたがその対象に抱いている興味の本質が「自分の文化を肯定してくれるから好きだ」「異文化に属しているからこそ憧れる」「自分の文化の正当性を否定しかねないので気になっている」といった形ではっきりしてくるはずである。

【「面白い」には理由[わけ]がある。答は頭の中にある。】


[問い9]次に何をすればよいか。

[答]自分の思いを補強してくれるような他人の発言や歴史的事実を探してみる。その一方で、自分が「面白い」と思う対象を「つまらない」「くだらない」「価値がない」と感じている人々や、「他の目的のための手段として利用しているだけ」という人々もいるはずで、そうした人々の発言にも注目してみる。

 結局こうした作業は、「〜に興味を持っているわたし」の頭の中を解剖してみることにほかならない。そこにはあらかじめさまざまな意見=さまざまな声がせめぎ合っているはずである。歴史的事実や他人の言葉は、そうした声に具体的な形を与えてくれる。


[問い10]内田セミナー的な「物の見方」の基本原則のようなものはあるのか。

[答]なくもない。説明抜きで標語風に書き出してみれば、

(1)人は「幻想」の掟に縛られている。

(2)人は「編集」せずにいられない。

(3)人は「物語」によって考える。

(4)いろんな「声」がせめぎ合っている。

(5)意外なものに「つながり」がある。

といったものである。あなたが考えに詰ったとき、考え始めるとき、あるいは他人の文化論を理解しようとするときの、きっかけになってくれるかもしれない。


[問い11]内田セミナーで論文を書くための技術的なコツはあるのか。

[答]これについてもやはり標語風に書き出せば、

(1)気になる細部を拾い出せ。

(2)断片的な思いつきを書き留めろ。

(3)連想の地図を描け。

(4)意味をめぐって「問い」と「答」の連鎖をたどれ。

(5)集めた材料を切り貼りして編集しろ。

といった感じになるだろう。


(c)内田勝(uchida.masaru.m7@f.gifu-u.ac.jp) 更新日: 2015-4-13

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