基礎セミナー 文学B(応用分析) 用資料

文学作品の読み方マニュアルのためのメモ——繰り返される《小道具》について

2012年4月16日 内田勝


ある作品に出会って、好きとか嫌いとか、イケてるとかイケてないとかいう反応はすぐできるし、結局はそういう反応が一番大事なのだけれど、それはさておき、

「分析的な読み方」をするための初歩的な方法について、ちょっと述べてみよう。


(1)まず、反復される《小道具》で目についたものをかたっぱしから拾い上げる。


私が《小道具》と読んでいるのは、小説や映画なんかの中で、何度も繰り返して登場する要素のことだ。

したがって《小道具》とは、具体的な物(「傘」「眼鏡」「眠る猫」「白い壁」「羽」「石」「箱」「熊」)といったものでも、何らかの動作(「切り落とす」「窓の外を見る」「閉じこめられる」)でも、色(「青みがかった赤」「純白」)でも、音(「1950年代風ジャズ」「風のそよぎ」「救急車のサイレン」)でも、漠然とした雰囲気(「こわばった感じ」「夢の中みたいな感じ」)でもいい。繰り返される要素であれば何でもいいのだ。

その作品の内部で反復されるのでもいいし、その作者の全作品のなかでもいいし、そのジャンル全体の内部で反復されるのでもいい。それどころか、あなたの全生活のなかで反復されているものでもいい。

デジャヴはだいじ。「これって前に見たことがあるぞ」という感じ。それこそ反復。


(2)続々と小道具が浮かび上がってきたら、こんどはそれらの《反復とずれ》に注目する。反復されていながら違ってきている点はどこか。


たとえば「箱」という同じ小道具が何度も登場する本があるとして、「箱」の扱われ方とか、背負っている意味とかは、その都度微妙に異なっているかもしれない。

・同時に登場するものは、結びついている可能性が高い。

・登場するはずなのに登場しないものは、わざと隠されているのかもしれない。


(3)気になる《小道具》について、何を意味しているかを考える。さらにその《反復とずれ》が何を意味しているかを考える。


・小説の構成の中での合理的な役割を考える

「ここで×××が使われているのは次の章の……というエピソードにつなげるための伏線だね」

「ここで×××が出てくるのは、その前の章の……と対比させているんだよね」

・伝統的な象徴的意味を考える

「キリスト教では×××は……の象徴だったはず」「精神分析風に解釈すればこれは……の象徴だ」

・自分の連想を膨らませる

「この×××って何だか〜みたいだね」「この箇所はこないだ見た映画のあの場面にちょっと似ている」


(4)上のような手順で考えていけば、その作品じたいの意味について、何かを語りたくなってくるはず——なんだけどね。


(c)内田勝(uchida.masaru.m7@f.gifu-u.ac.jp) 更新日: 2012-09-12