コムギ、エギロプス属二倍体野生種の穂の形態形成遺伝子の単離をめざして 
  ムギ類の芒(ぼう)は、収量にも影響をおよぼす重要な光合成器官です(Grundbacher, 1963; Johnson, 1975; Weyhrich, 1995; Li et al., 2006)。しかしながら、長すぎる芒は病害虫や水分が付着し、病気の発生や倒伏の原因にもなるなど、栽培管理のうえで障害になることもあります。芒の長さを調整するためにも、芒の基本的な遺伝機構を知ることは重要ですが、コムギ、エギロプス属では未だ芒の長さをコントロールする遺伝子の単離はなされていません。いっぽう、芒は環境適応形質である可能性も示され、コムギ、エギロプス属における進化を考えるうえでも重要な形質であることがわかってきました(山根ら投稿準備中)。種子を捕食者から保護する役割をもち、種子散布や埋土にも役立つことがわかっています(Takahashi, 1987)。
 
  我々は、コムギ、エギロプス属のなかでも遺伝様式が単純な二倍体を研究材料としました(パンコムギは六倍体)。なかでも、穂の形態が多様であるエギロプス属(Aegilops)シトプシス節(Sitopsis)エマルジナータ亜節(Emarginata)に着目しました。
  エマルジナータ亜節(Emarginata)は4種〔Aegilops longissima, Ae. bicornis, Ae. searsii, Ae. sharonensis〕で構成されています。このうちAegilops longissimaとAe. sharonensisは近縁であることがDNA分析によりわかっています(Giorgi et al., 2002; Yamane and Kawahara, 2005)。これら4種の穂の形態的特徴と自生地環境の関連性を調べた結果、似ている環境で穂の形態的特徴が一致する、収斂進化の存在が浮かび上がってきました。しかしながら、前述したとおり、コムギ、エギロプス属では芒の長さをコントロールする遺伝子や、その他穂の形態形成に関与する遺伝子は未だ単離されておらず、遺伝進化学的な検証が行えませんでした。そこで本研究では,進化の実態は把握と品種改良に有用なDNAマーカーの構築を目指し、マップベースクローニングによる遺伝子の単離を試みています。これまでの研究から、側芒の長さを決める遺伝子は、単一遺伝子座に支配されていることや、ほとんどの穂の形態形成に関与する遺伝子座が一つの連鎖群に位置することなどが明らかになっています(投稿準備中)。近年、パンコムギのドラフトシークエンスが公開され、こうした情報を利用しながら、遺伝子の単離を目指しています。
 なお、本研究は京都大学農学研究科栽培植物学研究室河原先生および太田氏と共同で行っています。
 
       
       
Copyright© 2010 ●●●Gifu University, Plant Breeding and Geneics Laboratory(YAMANE Lab.)●●● All Rights Reserved.