概要:近年盛んな自己駆動粒子研究のうち, 水面に表面張力の 勾配を生み出しながら動く樟脳粒や樟脳舟の運動が数学・物理・ 化学など様々な立場から研究されている. とりわけ集団的な 運動に関心が集まっているが, 単一の樟脳円板の運動にも興味 深い数理が潜んでいる. 円板状の樟脳を水面に浮かべると真っ 直ぐに動き, 境界に近づくと(運動が十分ゆっくりならば)境 界に衝突せずに反射し, 再び真っ直ぐに動き出す. また, この ときの反射角は入射角よりも大きい. これらは境界で完全弾性 反射する質点の運動を研究する古典的なビリヤード問題と異な る性質であり, それによって異なる挙動が現れることが示唆さ れる. 本講演では, 自己駆動的な円板のビリヤード的運動の数 理的な理解の現状を概観したい. 現象の観察に基づく偏微分方 程式モデルから縮約系としての常微分方程式モデル, 有界領域 における運動を理解するための離散力学系モデルといったそれ ぞれ異なる階層での解析を紹介する.