概要: 微分方程式の解を考察するにあたり、その適切性が崩れる爆発解は 厄介な対象です。多くの数学的考察・数値的考察がある中で、具体的な系に おいて爆発解の取り扱いは非自明な問題として常につきまとってきます。 例えば数値的考察をするにあたり、数値的に得られた「爆発解」が本当に 爆発解を表すものなのかは議論の余地を残しています。 近年、高安亮紀氏(筑波大)らとの共同研究にて、常微分方程式の爆発解を 精度保証付き数値計算で捉える手法を提案しました(arXiv : 1606.03039)。 そこでは、常微分方程式を考える相空間をコンパクト多様体に埋め込み、 時間スケールの正規化の後に爆発解を「無限遠点」への時間大域解と解釈し 直します。それにより、適当な初期値に対する爆発解の存在を標準的な 力学系の手法と精度保証付き数値計算を用いて「証明」する方法と、爆発 時刻の陽な評価を得られます。この方法は、爆発解の研究により培われた 知見との対応と、新しい見方を織り交ぜた「爆発解の再解釈」という問題 意識を与えてくれます。 本講演では、 1. 爆発解の標準的な数値計算法の概略と、講演者らによる爆発解の精度 保証付き数値計算法を紹介します。ここでは空間の「コンパクト化」と時間 スケールの「特異点解消」が鍵となります。 2. 1.による特異点としての爆発解の取り扱いを発展させた「擬ポアンカレ コンパクト化」を紹介します。これは力学系における特異点の「擬斉次 ブローアップ」に対応する相空間のコンパクト化のプロトタイプで、爆発 解の漸近的スケール則をうまく表現したものとなります。 3. 2.の応用として、特異衝撃波の粘性正則プロファイルの数値計算を考察 します。特異衝撃波はδ関数を伴う、Rankine-Hugoniot条件を満たさない ため弱解にもならない保存則系における「衝撃波解」です。一部の研究では、 特異摂動法により2つの爆発解を繋ぎ合わせたプロファイルを持つとの報告も あります。擬ポアンカレコンパクト化を用いると、プロファイルの振る舞い 方がクリアに見えてきます。