アブストラクト: この講演では特異摂動やもっと一般にパラメータを含む一階 半線形偏微分方程式系のパラメータについての形式的な展開として得られるよう な(発散)級数解のパラメータに関するボレル総和可能性について考える.この ような形式解は簡単に構成することができる.特異摂動パラメータを持つ方程式 の研究は,多くの手法が知られているが(たとえば, 変分法による研究,完全 WKB法の研究など),この講演ではボレル総和法の立場からの研究を報告する. このような研究は常微分方程式系に対するBalser達の研究が動機になっている. 今後慣例に従い,このような総和法をparametric Borel summabilityと呼ぶこと にする.この総和法の応用の一つはあるパラメータの集合に対して可解性が分か ることそして(いつもできるとは限らないが)大域解析ができることである. 他方,偏微分方程式の解のボレル総和法の研究では,日本人による研究として, 三宅氏,日比野氏,大内氏,田原氏,山澤氏などによる一連の成果があるが,こ こで報告する問題とは別の問題として区別しておく.両者には数学的にも手法的 にも深いつながりがあるがこれは別の機会で述べたい.本講演では,問題の設定 から始め,形式解の構成や評価などを概説したのち,主結果を述べ,証明の概略 を解説する.また,parametric Borel summabilityは,生態学では多自由度 Lotka-Volterra系の時間無限大での挙動の解析への応用,フックス型偏微分方程 式の小分母の問題への応用,ハミルトン系の非可積分性への応用があり,それら もできる限り説明する.最後に,一階半線形偏微分方程式系でのparametric Borel summabilityにおいて,従来の特性曲線の方法を適用した場合の困難さと それを回避していく方法を説明する.これには,Borel変換後の関数空間の設定, ハルトグスの定理を用いた特異性の除去などがあり,これらについて概略を解説 する.